サポ限に書いていたこと84 面白さを言語化する・2

◆出だしの面白さ


 ラノベ作家の新木伸氏は、「面白い」とは次の五項目すべてを不足なく存在していることだ、と語っています。


一、どんなヤツか、わかる。

二、どんな世界か、わかる。

三、どんなことをしたいのか、わかる。

四、どんな味方いて、どんな敵(障害)が立ち塞がるか、わかる。

五、どんな話か、今後の展開が、わかる。


 冒頭四十ページで、五つの要素すべてを満たさない作品は面白くない。一つでも要素を落としている作品は面白くなく、次を読んでもらえない。作品を作るときは必ず、冒頭で五つの要素が書けているのかチェックすれば、選考の突破率が違ってくるでしょう。



◆作品における面白さの基本


 読者が作品から面白さをどこで感じるのか、四つに分けました。

 これらが描けていれば、作品から面白さを感じることがでるでしょう。逆に考えれば、これらがうまく描けていないならば、面白さを感じづらい作品となっているということです。


一、見た目の面白さ

 魅力的なタイトル。キャラクターの設定。世界観。絵にしたときのデザインや美しさ。シチュエーション。

 ひと言で内容がわかり、子供でもわかる一般的な説明。これらは企画書に書きやすく、説明するには必要な要素です

 

二、期待させる面白さ

 転校生が美人やイケメン。事件や事故に巻き込まれた。裏庭にダンジョンができた。隕石が落下して都市が壊滅。などなど。

 読者に対して、どんな衝撃的な出来事が起こり、どうなったかは続きを見なければわからない冒頭での引き。 

 ラブコメ作品を例にすると、面白そうなツカミからはじまり、果たして二人はどうなってしまうのだろうと期待させ、互いに素直になれず喧嘩ばかりしてすれ違い、二人が結ばれてめでたしめでたしと終わるものならいい。でも結局、最後まで大騒ぎして終わるものも数知れず。

 相手の下心や弱みに付け込み、その後を期待させ、じらすだけじらして深みに入らせてしまう酒やギャンブル、ホストやキャバクラ通い、課金システムやSNSなどと同じです。

 長期連載ものによく見られ、風呂敷を広げて畳むことに失敗している作品は少なくありません。

 途中までは面白くても後半イマイチなものは、結局面白くないといわれます。


三、展開の面白さ

 期待と満足のあいだで起こる出来事です。

 冒頭で起きた事件がどう進展して迷走するのか。メインプロットの後に起こるサブプロットが面白いか。いろいろな場所へ出かけ、様々な人と出会い、メインプロットとは違った起伏に富んだ出来事が起こります。

 ただし、それらには必然性が必要です。

 思いつきだけでは、いろいろなものが並んでいるいるだけ。

 ラブコメや恋愛ものに見られるのは、毎回ライバルが出てきては二人の仲が離れ、大騒ぎして距離を戻すをくり返す展開。

 必然性がないと、連載継続のために結末を先延ばしているだけにみえてしまいます。ライバルは、互いの気持ちを再認識させ、二人の関係を強めていくものでなければなりません。

 つまり展開には、お話に絡んだ因果関係が必要です。

  

四、満足する面白さ

 読み終えた後、「面白かった」と素直に思えること。

 すべての謎が解明し、めでたしめでたしと思うこと。

 コースメニューなら、前菜からメインディッシュを経て、最後のデザートまで素晴らしい食事だったと思えること。

 期待した面白さに、満足の行く答えだったことを意味しています。

 恋愛ものなら、その恋は成就するのか。満足いくラストを迎えるまでに、納得の行く過程が描けているか。他愛もない日常を送っていた主人公は、その子と出会ったおかげで変化し、恋愛っていいなと思えるまでになっているかどうか。

 人は誰でも、対価として払った時間やお金を損したくない、満足したいと切望しています。

 つまらない作品に出会ったとき人は、キャラや世界観がいいとかキレイだったと、わかりやすい表面的な部分を褒めます。そんな感想をするのは、損をしたと思いたくないからであって、決して面白かったわけではないのです。

 満足するには、最初にみせた期待に対して、はっきりとした結末、オチが描けているかで決まります。



◆大多数の読者が感じる面白さ

 

 共通する部分もありますが、ジャンルごとに面白さが違います。

 抽象的で最小限ですが、面白く感じられる部分を文章化してみました。書き終えて読み直したとき、これらがうまく描けていないならば、面白さを感じづらい作品となっているということです。


・純文学の面白さ

 文章に芸術性の高さとオリジナリティーがあること。

 個性的で複雑なキャラクター。

 内面の変化が描かれていること。

 登場人物との関係性が丁寧に描かれていること。

 言葉の感覚を大切にした難しい表現や哲学的な比喩が多いこと。

 細部にこだわり、個性的な作品であること。


・エンタメ作品の面白さ

 最初から「おっ」「面白そう」と思わせること。

 魅力的なキャラクターと斬新な設定を描くこと。

 王道パターンに細かいアレンジがあること。

 ストーリーよりも、設定と人物に差をつけて描くこと。

 個性的で造形が重要であり、ギャップのあるキャラクター。

 キャラの魅力、台詞回しの面白さ、どんでん返しがあること。

 表現がわかりやすく、内容で勝負すること。

 ラノベやライト文芸は、キャラ重視であること。


・ミステリーの面白さ

 魅力的な謎があること。

 論理的な謎解きをすること。

 探偵役が事件を解決するシーン。

 普通だけど応援したくなるキャラクター

 悪いヤツだけどなかなかいいヤツと思えるキャラクター。

 脇役もしっかり描かれていること。

 披露される真相では、意外な関係に気付かされること。

 謎解き以外の部分にも、面白さがあること。


・SFの面白さ

 読者にある程度の知識があることを前提としている。

 無理そうなことを、ありそうに見せること。

 想像力を刺激する未来社会の描写。

 斬新な発明品や、人類が直面するだろう課題解決策など。

 科学的な裏付けに基づいた設定。

 ハードSFでは、科学的な整合性が重視される。

 テクノロジーの発展に伴った人間性を問う倫理的ジレンマ。

 現代社会の問題点を浮き彫りにした社会批判的な視点。


・異世界ものの面白さ

 主人公の成長と活躍。

 世界観や背景設定、歴史や種族、政治情勢など。

 独特な風景や建築物、魔法や特殊能力などが魅力。

 現実から非日常へ行き、特別な力や立場を手にすること。

 読者に理想の自己実現を疑似体験させること。

 想像を掻き立てる新鮮さがあること。

 現実社会から一時的解放があること。

 現代の知識や技術を異世界で活かす主人公の姿勢。

 異世界の人々との文化の違いから生まれるギャップや誤解。

 個性的なキャラクターたちとの交流。


・恋愛作品の面白さ

 出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末。

 結末は四種類。ハッピー。アンハッピー。死別。卒業。

 卒業は四種類。泣く。感慨にふける。開放感に浸る。拗ねる。

 恋愛とその他の割合は、九対一。

 最近では、多様性と等身大のリアリティのある作品もアリ。

 切ないラブストーリーや儚い恋の物語は根強い人気。

 恋愛にまつわる喜びや痛みを繊細に描くこと。

 登場人物の魅力的な描写。

 舞台設定や時代背景、作品独自の文化や設定が興味深い。

 主人公の内面の葛藤や成長が丁寧に描かれていること。

 脇役も個性的で立体的なキャラクター性を持っていること。

 登場人物同士の関係性の変化や対立が緊張感を生み出している。

 予想外の展開や伏線回収。

 物語の展開が適切なテンポ。

 緻密で無駄のない構造や構成。

 恋に落ちる過程や心の変化が丁寧に描かれていること。

 キスシーンなどの大切な場面が上手く描かれていること。

 恋愛に関する台詞が心に刺さるもの。


・少年漫画の面白さ

 友情・努力・勝利があること。

 意外な展開。

 熱いバトルシーンがあること。

 個性的で魅力的な主人公と、強力でカッコいいライバル。

 個性的でカワイイヒロイン、サブキャラがいること。

 可愛らしい幼い(少年・動物)キャラがいること。


・少女漫画の面白さ

 共感・憧れ・成長があること。

 繊細で華やかな描写。

 登場人物の心情や読者の共感を誘うモノローグがあること。

 憧れるヒロインと、対照的でコミカルな脇役がいること。

 読者に共感を呼ぶ登場人物がいること。


・児童書、童話の面白さ

 魔法のような想像力をかき立てる異界への誘いがあること。

 愛嬌やユニークな設定とコメディーがあること。

 ユーモアたっぷりの個性豊かで冒険心をくすぐるキャラクター。

 友達と一緒に冒険すること。

 主人公が自分の気持ちを理解すること。

 感動的なメッセージがあること。



◆自分が感じる面白さ

 

 面白さは、幅広いものです。

 なぜなら人は、いろいろなものに興味を持っているからです。

 たとえ恋愛小説が好きであっても、シチュエーションが好みなのか、カップリングか見た目か、セリフなのか、それぞれの作品のどこに面白さを感じるかは、その人の趣味嗜好によって分かれるからです。

 ミステリーやSFが好きな人でも、どこに面白さを感じるかは人によって異なります。

 限られた人しか知らないような専門的な部分に惹かれたり、具体的な詳細が描かれたりすると、面白さは強くなります。

 強くなる反面、面白いと感じる人が減っていくのも事実です。

 尖った面白さは、人を選びます。

 反対に、小さいお子様からお年寄りまで、万人受けを狙って誰にでも受け入れられる面白さは、どうしても鈍くなります。

 万人受けできる面白さと、気付ける人だけが感じられる面白さ、両方をバランスよく混ぜて作られた作品ならば、大勢の人が楽しめる面白い作品となるでしょう。


 万人受けできる面白さとは、「大多数の読者が感じる面白さ」のことです。

 気付ける人だけが感じられる面白さとは、「自分が感じる面白さ」のことです。

 目を引くような優れた文章表現、限られた人しか知らない専門的分野や知識などの蘊蓄、誰かに教えられたのではなく本能的に同じ行動をしてしまうようなこと、人間の欲望をの根源を突き詰めたもの、あるいは限られた人しか持ち合わせていないような感覚など。

 ミステリーならば、トリックがそれに当たるでしょう。


 日常の驚きや感動から、自分なりにどんなことに興味があるのか、面白さを感じるのかをみつけてください。

 人によって、面白さの感じ方は違います。

 作品を読んだり見たりする際にも、その感覚をメモしておくことで、創作に役立てることができます。

 つぎのようなことも、その一つです。

 卵を割ったら、黄身が二つ出てきて驚いたとします。もう一つ割ると、また黄身が二つ入っていました。興奮して声を上げて驚き、三つ目も割ると、またもや二つ入っていたら、びっくりです。

 小さい子なら、飛び回って大喜びするかもしれません。

 四つ目も二つ出てきたら、もはや特別ではなく、当たり前に思うかもしれません。

 くり返しは三度まで。

 あるいは、果てしなく続くか。

 童話や御伽話のラストは、「末永く暮らしましたとさ、めでたしめでたし」で終わるように、幸せが続く終わりを見せています。

 誰だって、いつまでも幸せでいたいし、若く綺麗であり続けたいと願っています。

 振ればお金が出てくる打ち出の小槌があればと願い、大酒飲みなら、汲めども尽きぬ酒樽が欲しいと切望しているでしょう。

 平和が続くことも、誰もが願っています。


 自分が面白いと思うものが興味あるものであり、書きたいものです。ただ、それだけで書いては独りよがりになります。

 自分の外にある面白いもの、他人が興味を持っているものを取り入れてください。

「自分が面白いと感じるもの」と「大勢が面白いと感じているもの」の二つを、車の両輪のようにして書くことが大切です。

 

 

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