サポ限に書いていたこと85 面白さを言語化する・3
◆小説のおもしろさの要素
作家の中村航氏は、小説の面白さには三つの要素が欠かせない、といいます。三つそろっていれば、読者は読むことをやめられない。
逆に、一つもなければページをめくる原動力がないので、だれも読みたがりません。
同様に、章や段落にもこれらの要素があることで、より面白くなります。
一、現在がおもしろい
現在読んでいる部分が面白いこと。キャラクターや表現が魅力的で、読者が読むのをやめられないようにします。
二、未来(結果)が知りたい
読者が未来の展開や結果を知りたくなるようにする。サスペンスなどのジャンルがこれに該当し、次の展開への興味がページをめくらせる原動力となります。
三、過去(理由・原因)が知りたい
なぜそのようなことが起こったのか、理由や原因を知りたくなるようにする。ミステリーなどがこれに該当し、過去の出来事や犯人を明らかにしたいという欲求が読者を引きつけます。
◆プロット作りの重要性
一般的にメインプロットは、物語の中心となる主要なストーリーラインです。これは物語全体の骨格を形成し、主人公の主要な目標や課題に焦点を当てます。メインプロットは読者の関心を引きつけ、物語の進行を推進する役割を果たします。
サブプロットは、メインプロットを補完する副次的なストーリーラインです。サブプロットは通常、メインプロットと関連しつつも、別のキャラクターやテーマに焦点を当てます。これにより、物語に深みと複雑さを加え、読者の興味を維持します。
プロットを作る目的は、小説を面白くすること、つまり読者に最後まで読ませることです。「現在・未来・過去」の三つの要素をプロットに組み込むことで、読者の興味を引き続けることができます。
プロットを作る際は、「未来(結果)が知りたい」と「過去(理由・原因)が知りたい」をしっかり組み込むことが大切です。
◆プロット作成の手順
メインプロットとサブプロットを作ります。
メインプロットは未来に向かう展開、サブプロットは過去に向かう展開とします。
例えば、ミステリーの場合、犯人の正体を探るのが過去に向かうメインプロットで、主人公の恋愛の行方が未来に向かうサブプロットとなります。
終盤、メインプロットとサブプロットが交わる点をクライマックスに持ってきます。
ここで未来と過去が統合され、物語がモダンで面白くなります。
昔話の『桃太郎』をモダンなプロットにするために、過去に向かうサブプロットを追加することで、読者を引き込むことができます。
要するに、プロット作成は「未来」と「過去」を意識して、大きな構造から小さな構造まで考えることが大切です。
他作品でメインプロットとサブプロットを確認すると、なぜ面白いのかがわかります。
例1映画『君の名は。』
メインプロット:彗星の衝突から町を救うための主人公たちの奮闘。
サブプロット:主人公たちの恋愛関係や、過去と現在をつなぐタイムトラベルの要素。
二人が初めて山の上で会うシーンを、クライマックスに持ってきています。
例2『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
メインプロット:第二次世界大戦後の世界を舞台に、自動手記人形と呼ばれる義手を持つ少女ヴァイオレットが、手紙の書き方を学びながら、自身と向き合っていく物語。
サブプロット:ヴァイオレットと彼女を育てた軍人ギルベルト少佐との関係。戦争の傷跡を癒すために手紙を書く人々の物語。ヴァイオレットが手紙を通して自分の心を取り戻していく過程。
ヴァイオレットがギルベルト少佐から最後に残された言葉「心から、愛している。」の意味を理解し、自分の人生を切り開いていくシーンを、クライマックスに持ってきています。
◆段落の構成
中村航氏は、「段落を制するものは、小説を制する!」と述べており、段落の構成を意識することが小説全体をおもしろくする鍵になると説いています。
小説を書く際、段落の構成を意識することは非常に重要です。 中村航氏が提案する「プレゼン・説明型」と「説得型」の段落構成方法を紹介します。
一、プレゼン・説明型
最初に大事なこと(結論)を書き、その後に理由や詳細を説明補足する文章を続けていく型です。
読者の「過去(理由・原因)を知りたい」欲求を利用して読ませます。この型はわかりやすく、読みやすく、理解しやすい特徴があります。
《例1》
十代の頃、モテるための努力を惜しまなかった。雑誌を参考にして誰かのマネをしたり、ギターを買ったり、話芸を磨いたり、前髪を伸ばしたりした。しかし、努力だけではモテることはなかった。結局、動機が不純な努力はどこにも辿り着かないのだ。
二、説得型
最後に大事なこと(結論)を書く型です。
具体例などを最初に書き、結論に向かうように展開します。読者の「未来(結果)が知りたい」欲求を利用して次の展開を期待させるように構成し、読ませます。
《例2》
十代の頃、僕は時に話芸を磨き、時に前髪を伸ばした。ある時は思いたってギターを買い、またある時は手品の練習をした。努力は充分にしたが、モテることはなかった。結局、動機が不純な努力はどこにも辿り着かないのだ。
三、ハイブリッド型
「未来に向かいつつ、過去に向かう(または過去に向かいつつ、未来に向かう)」という原則を、段落に応用します。未来に向かうメインの文章と、過去に向かうサブの文章を一つの段落に組み合わせます。
《例3》
モテるためにする努力は無駄に終わることが多い。僕はモテるためにギターを買い、話芸を磨き、前髪を伸ばしたり、手品の練習をしたりした。しかし、そういう努力だけではモテることはなかった。結局、動機が不純な努力はどこにも辿り着かないのだ。
段落の最初の一文を工夫し、キラーフレーズを入れることで、読者の興味を引き、文章全体が引き締まります。
▼キラーフレーズとは
読者の注意を引きつけるための強力で印象的な一文を指します。このフレーズは、段落の冒頭に配置され、読者に続きを読みたいと思わせる効果があります。
・インパクトがある
読者の興味を一瞬で引きつける強い言葉や表現を使います。
例:「この一文が、あなたの人生を変えるかもしれません」
・簡潔で明確
長すぎず、短くてわかりやすい一文であることが重要です。
例:「成功の秘訣は、実はとてもシンプルです」
・感情に訴える
読者の感情に直接働きかけるような内容にします。
例:「あなたも、こんな経験をしたことがありますか?」
・問いかけや驚き
質問形式や驚きを与える内容にすることで、読者の関心を引きます。
例:「なぜ、誰もが見逃しているこの事実に気づかないのでしょうか?」
キラーフレーズを考えるにはまず、段落全体のテーマや主張を明確にします。つぎに、読者が何に興味を持つか、何を知りたいかを考えます。そのあとで、インパクトのある強い言葉や表現を選びます。最後に、読みやすいリズムを意識して、簡潔にまとめます。
キラーフレーズを効果的に使うことで、文章全体の魅力を高めることができます。
◆文章の距離とは?
作品を読む以上、読み手と書かれている文章には距離があります。
文章の距離とは、読者と文章の距離感を指します。
表現や文体によって、読者の感覚的な距離が変わるだけでなく、共感のしやすさも変化します。
▼距離の種類
・近距離
登場人物の感情や視点に焦点を当てる場合、口語体や書簡体など、読者に近い感覚を持たせる近距離の文体を使用します。
例えば、主人公が恋人に手紙を書いている場面では、口語体や書簡体を選ぶことができます。「愛しい○○さんへ、 今日はあなたの笑顔を思い出していました。」
・中距離
一般的な文章や地の文に用い、客観的な視点を保ちつつ読者に共感を呼び起こす場合、中距離の文体を選びます。
例えば、風景描写や登場人物の行動を中立に記述する場合です。
「山々が雄大に広がっていた。彼は静かに歩き、自然の美しさに感動した。」
・遠距離
形式的な文章や専門用語を多用するなど説明して、読者との距離を遠くする場合、遠距離の文体を選びます。
例えば、科学論文や法的文書で使用されるスタイルです。「本研究では、量子力学の基本原理に基づいて……」
▼活用方法
・作品の選定
作品の雰囲気や目的に合わせて距離を選びます。
三人称での地の文は、客観的視点の中距離の文体を用います。
読者に共感をもたせて物語に感情移入させる場面では、登場人物の視点や心情を表現するときに、口語的表現の近距離の文体を選びます。
逆に、専門的なトピックや形式的な文章を書く際は、遠距離の文体を検討してください。
・登場人物の視点
登場人物の視点や心情を描写するとき、アクセントとして口語的な表現を用いた近距離の文体を使うことで、読者との共感を高めます。
・シーンごとに変化
シーンや状況に応じて距離を変え、読者の感情をコントロールします。緊迫した場面では近距離、冷静な場面では中距離など、適切に切り替えましょう。
▼文章の距離感の具体例
小説を書く際、客観的な文章と主観的な文章を上手に使い分けることで、読者の興味を引き付け、物語の世界観をより鮮明に描くことができます。
一、近い距離感
「彼は手に汗を握りしめ、心臓が胸を打つのを感じた。彼の目は、彼の前に広がる無情な砂漠に釘付けだった。彼の喉は乾き、彼の足は重く感じた。彼は深呼吸をし、一歩を踏み出した。」
この例では、キャラクターの感情と体験が詳細に描写されており、読者はキャラクターの恐怖と緊張を共有できます。
二、遠い距離感
「彼は砂漠を歩き始めた。太陽は容赦なく彼の上に照りつけ、砂は彼の足元で踊った。彼は前進し続けた。」
この例では、物語はより客観的に描写されており、読者はキャラクターの経験よりも物語全体に焦点を当てることができます。
三、距離感の変化
「彼は砂漠を歩き始めた。太陽は容赦なく彼の上に照りつけ、砂は彼の足元で踊った。しかし、彼は手に汗を握りしめ、心臓が胸を打つのを感じた。彼の喉は乾き、彼の足は重く感じた。彼は深呼吸をし、一歩を踏み出した。」
この例では、はじめは客観的に描写され、その後キャラクターの内面に移行します。これにより、読者は物語全体とキャラクターの感情の両方を経験することができます。
▼主観と客観
近い距離を主観、遠い距離を客観、と言い替えることができます。
小説を書く際、客観的な文章と主観的な文章の使い分けは、物語の展開や登場人物の描写に大きな影響を与えます。客観的から主観的へ、そして主観的から客観的へと書く方法には、それぞれ特徴があります。
・客観的から主観的へ
場面や状況を客観的に描写し、その後に登場人物の内面や感情を主観的に描きます。
読者に状況を明確に理解させてから、登場人物の心情に入り込むことで、物語の世界観を確立しやすく、登場人物の感情や反応に説得力を持たせやすいメリットがあります。
読者の共感を呼びやすくなることはもちろん、物語の重要なポイントで主観的な文章を使えば、読者の注目を引き付けやすくなります。
デメリットとしては、物語の導入部分が少し退屈に感じられる可能性がある点や、登場人物への感情移入に時間がかかる場合がある点が考えられます。
・主観的から客観的へ
登場人物の内面や感情を主観的に描写し、その後に状況や背景を客観的に説明します。
メリットとは、読者を即座に物語に引き込むことで、登場人物への感情移入が早い段階で可能となり、客観的な描写に切り替えることで世界観をより鮮明に描け、重要なポイントを強調でき、物語の展開に緊張感や興味を持たせやすくなります。
主観的な描写が続くと読者の集中力が散漫になるため、客観的な描写に切り替えることで読者の集中を取り戻せるのです。
デメリットは、状況説明が後回しになるため、読者が混乱する可能性や、物語の世界観の確立に時間がかかることです。
▼効果的な使い分け
・シーンの重要性に応じて使い分け
重要なシーンでは主観的描写を多用し、背景説明では客観的描写を用います
・登場人物の性格や状況に合わせて変化させる
内向的な人物には主観的描写を、行動的な人物には客観的描写を多く使用します。
・テンポの調整
主観的描写でテンポを緩め、客観的描写でテンポを上げるなど、物語のリズムを作り出します。
・視点の切り替え
複数の登場人物の視点を描く際、客観的描写と主観的描写を交互に使用することで、多角的な物語展開が可能になります。
・伏線の配置
客観的描写の中に重要な情報を埋め込み、後の主観的描写で明らかにするなど、物語の深みを増します。
ただし、主観的な文章と客観的な文章を無秩序に切り替えるのではなく、物語の展開に合わせて適切に使い分けることが重要です。
例えば、物語の冒頭では客観的な描写で物語の世界観を描き、物語が進むにつれて主観的な描写を増やし、登場人物の内面を掘り下げていく、といった具合です。
両方の手法を適切に組み合わせることで、読者の興味を引き付け、物語の世界観をより鮮明に描くことができます。
場面や登場人物の状況、物語の展開に応じて、客観的描写と主観的描写をバランスよく使い分けることで、魅力的で読み応えのある小説を書く鍵となります
◆心情を描くときの距離
登場人物の視界に入る自然描写は、読者を感情移入させるのに役立ちます。
・遠景→近景→心情
登場人物が見ている景色、次にどこにいるのかを描いて距離感を表した後、心情を書くと深みが増して読み手に伝わります。
・情景→語らい→共感
登場人物が見ている、言葉に表せないような景色や絶景を眺めつつの語らいは、言葉も弾み、道場人物同士お互いが覚えた共感は。読者との共感ともなり、忘れられないものになります。
・体験→気付き→普遍性
登場人物の個人的な体験を描き、体験を通した気付きから、どう社会に関わっているのか、普遍的に落とし込んでいくことで意味合いを見出すことができます。
作品を作る際は、様々な距離感を意識してみてください。
中村航氏が提案する「プレゼン・説明型」と「説得型」の段落構成と合わせることで、より読者との共感を深め、より魅力的な文章を書くことができるでしょう。
◆「はみ出せ!」の概念
「はみ出せ!」とは、既存の枠にとらわれず、物語の展開を読者の予想を裏切るような意外な方向に転じさせることで、より深い感動を生み出すテクニックです。
例えば、九つの点を四本の直線で一筆書きする問題では、点の外側にはみ出すことで解決できます。これは、小説のプロットや展開にも応用でき、読者に予想外の展開を提供することが重要です。
この発想は、起承転結の「転」の部分に当たります。より深い感動を演出するためには、結論に至る前に、一度は読者の予想を裏切る展開を挿入することが重要です。
例としては、「A→B→C」という直線的な展開よりも、「A→B→愛→C」のように、一度「愛」という意外な要素を挟むことで、読者の感動を誘うのです。
実践的な考え方は、次のとおりです。
一、プロットの作成
物語の大まかな流れを決める際、意外性を持たせる「転」を意識します。
二、段落の構成
各段落においても、読者の興味を引きつけるための工夫を凝らします。
三、読者を引き込む工夫
最後まで読ませるための文法や表現技術を磨きます。
具体例として、両親の離婚が決定的になった後に、父親と母親が再び仲直りするサプライズの展開をもってきます。離婚というネガティブなテーマに対して、ポジティブな方向性を見出すことで、読者の心に深く響かせるのです。
また、主人公の男子が、好きな女子のために、様々な工夫をします。読者は、主人公の思いが通じて二人が幸せになる展開を期待します。しかし、物語の中盤、主人公の思いが伝わらない意外な展開がくることで、読者は主人公の気持ちに寄り添いながら、物語の結末を待つことになります。
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