サポ限に書いていたこと83 面白さを言語化する・1

◆はじめに


 今回は、大きく三つに分かれています。

 はじめに「面白さとはなにか」、次に「作品における面白さ」、最後は「小説の面白さの要素」や「文章の距離感」などについてまとめました。


 作品を視聴や拝読していると、面白かったりつまらなかったり、感情が動くことがあります。

 創作していると、書いている作品は果たして面白いのかと考え悩むこともあるでしょう。

 何度も推敲したため、頭の中に作品内容が入っており、新鮮味がなくなっているせいかもしれません。

 あるいは、面白さをなんとなく感覚で捉えているため、自分の中で上手く言語化できていないせいで、悩んでいるのかもしれません。

 ものを教わるとき、感覚でわかる人と言葉や理屈でわかる人、大きく二種類にわけられます。

 小説は文章で描写を表現するため、後者が多いと想像します。

 作品を楽しみながら、どこが面白かったのかを言語化し、それぞれの作品やジャンルにはどのような面白さのルールがあるのか、自分なりにメモをしておくと、創作に役立つと思います。そのとき、大多数の読者が感じる面白さと、自分が感じる面白さ、二つにわけるといいです。

 作品から面白いと感じる部分は人それぞれ異なります。

 面白さとは、ターゲット層との合致や読者の願望実現、作風の共感、想像したとおりの展開と予想を裏切る展開が起きることが盛り込まれていることだからです。

 ただ、それだけではありません。

 距離感を意識した文章の書き方、伝え方が活かされていることも、面白さに関わってくると思います。



◆そもそも「面白さ」とは


 古来、ユーモアは単なる笑いを引き起こすものではなく、深い哲学的医学的、社会的な意味を持っていました。


 ユーモアの語源はラテン語の「フモール(humor)」で、「液体」を意味します。

 中世の医学者たちは、人体に含まれる体液(フモーレス)が人間の健康と性格を左右すると考えていました。これらの体液のバランスが崩れると、病気や性格の偏りが生じると信じられていました。


 第三代シャフツベリ伯爵の著作『センスス・コムニス』では、ユーモアは単なる笑いのためのものではなく、社会的な対話や批判の手段として用いられました。彼の著作は、政治的や宗教的な議論においてもユーモアが重要な役割を果たすことを示しています。


 ユーモアはまた、社会的な絆を強化し、個人間の関係を温かくする手段としても重要視されてきました。ユーモアは愛と思いやりの表れであり、相手を思いやる心から生まれるものとされています。これは、単なるジョークとは異なり、深い人間関係を築くための重要な要素とされています。


 現代心理学においても、ユーモアは幸福感や心理的健康に寄与する重要な要素とされています。ニーチェの幸福論と現代心理学の知見を組み合わせることで、ユーモアが人間の生きる力や創造性を高める役割を果たすことが示されています。


 このように、古来からユーモアは多面的な役割を持ち、単なる娯楽以上の深い意味を持っていたことがわかります。

 また、ユーモアは少なからず差別的であり、戦争や死を扱ったブラックなものもありました。

 苦しんでいる人がいるのに笑うのはおかしい、という主張は正しいです。でも、正しさでは笑えない。差別や死ぬことをジョークにして笑えたことも歴史的事実です。


 古代ギリシャやローマでは、ユーモアはしばしば社会的な階級や性別、民族に基づく差別的な要素を含んでいました。

 アリストファネスの喜劇などでは、特定の職業や社会階層、さらには女性や外国人を対象とした風刺が見られます。これらの作品は当時の社会的な価値観や偏見を反映しており、現代の視点から見ると差別的と感じられることが多いです。


 中世ヨーロッパでも、ユーモアはしばしば特定のグループを対象としたものでした。例えば、ユダヤ人や異教徒、さらには特定の職業や社会階層の人々が風刺の対象となることがありました。これらの風刺は、当時の社会的な偏見やステレオタイプを強化する役割を果たしていました。


 日本の江戸時代においても、落語や狂言などの伝統的な演芸には、特定の職業や地域、さらには身体的特徴を対象としたユーモアが含まれていました。これらの演芸は、当時の社会的な価値観や偏見を反映しており、現代の視点から見ると差別的と感じられることがあります。


 現代においては、ユーモアが差別的であるかどうかは非常に敏感な問題となっています。

 多様性と包摂性が重視される現代社会では、特定のグループを対象とした差別的なユーモアは批判対象となることが多いです。

 現代のユーモアは、より包括的であり、他者を傷つけない形での表現が求められています。

 とくに最近は、ちょっとしたことでクレームが起きます。「この作品を見て悲しむ人がいる」「教育上、子供には見せられない」など。喫煙者が出るだけで全否定される場合もありえます。

 そういったクレームを避け、当たり障りのないものを目指すと、面白くないものになることは確実です。

 ユーモアには、時代や文化の背景から差別的な要素が含まれていることが多いですが、それらは当時の社会的価値観や偏見を反映したもの。現代の視点から見ると、差別的と感じられることが多いのは、時代の変化の表れといえます。

 ただし、面白さの一部には反社会的な側面があるのも事実です。

 それらの笑いは表現や見せ方を工夫するか自虐ネタにするか、あるいはネットなど表には出さず、心の中で隠れて楽しむしかないでしょう。



◆面白さを求める理由


 人が面白さを求めるのは、心理的な快感や満足感を得るためです。


一、心地よさと満足感

 面白さの正体は、ストーリーや体験から感じる心地よさです。

 観客や体験者は、望んだとおりの展開や結果が得られることで満足感を得ます。例えば、悪者が成敗される話や、シンデレラが王子と結ばれる話など、期待通りの結末が心地よさを生み出します。


二、知的欲求と期待

 面白さを感じるためには、知的欲求を刺激することが重要です。 特に「特殊的好奇心」を働かせるような期待を刺激することが必要です。魅力的な見た目やキャッチコピーなどが、体験することで何が得られるのかを想像させ、期待を高めます。


三、自己報酬性と自己肯定感

 面白さを感じる行動は、自己報酬性を持ちます。

 誰かに褒められるためではなく、自分自身が面白いと感じるから行う行動です。この自己報酬性は、自己肯定感を高め、自己統制感も生まれます。


四、予想外の要素

 面白さの源泉には「予想外」が重要な要素としてあります。

 予想外の展開や結果が、面白さを生み出します。例えば、化学の実験で予想外な結果が得られ、それが論理的に説明できる場合、興味深い(Interesting)という面白さが生まれます。


五、差異と共感

 面白いものは「差異」と「共感」の両輪で成り立っています。

 共感はよく耳にする言葉ですが、差異は「違い」を指し、広い概念として用いられます。面白い企画やアイデアは、これらの要素が組み合わさることで生まれます。


 人が面白さを求める理由は、心理的な快感や満足感を得るためであり、知的欲求や自己肯定感を満たすためでもあります。



◆面白さを感じやすさの違い


 人によって、面白さを感じやすい人と感じにくい人がいます。


一、知的欲求と期待

 面白さを感じやすい人は、知的欲求が強く、特に「特殊的好奇心」を持っています。彼らは新しい情報や体験に対して期待を持ち、それが満たされることで面白さを感じます。


二、自己報酬性と自己肯定感

 面白さを感じやすい人は、自己報酬性が高く、自分自身が面白いと感じることに価値を見出します。これは自己肯定感を高め、自己統制感も生まれます。


三、予想外の要素

 面白さを感じやすい人は、予想外の展開や結果に対して敏感です。彼らは新しい発見や驚きに対してポジティブな反応を示しやすいです。


四、差異と共感

 面白さを感じやすい人は、物事の「差異」と「共感」を感じ取る能力が高いです。差異は「違い」を指し、共感は他者の感情や状況に対する理解を意味します。これらの要素が組み合わさることで、面白さを感じやすくなります。


五、社会的な要因

 面白さを感じやすい人は、他者とのコミュニケーションや社会的なつながりを重視します。彼らは他人と共有することで面白さを増幅させる傾向があります。


六、心地よさと満足感

 面白さを感じやすい人は、物語や体験から得られる心地よさや満足感を強く感じます。彼らは期待通りの展開や結果に対してポジティブな反応を示しやすいです。


 これらの要素が組み合わさることで、面白さを感じやすい人と感じにくい人の違いが生まれます。面白さを感じやすい人は、日常の中で多くのことに興味を持ち、積極的に新しい体験を求める傾向があります。

 


◆面白さと生きることのつながり


 面白さは生きることにつながっているから、脳が求めるのです。


一、脳の報酬システム

 面白さや楽しさを感じるとき、脳内でドーパミンが分泌されます。

 ドーパミンは快感や満足感をもたらす神経伝達物質であり、これが報酬システムを活性化させます。これにより、面白いと感じる活動を繰り返し行う動機付けが生まれます。


二、学習と記憶の強化

 面白いと感じることは、学習や記憶の強化にもつながります。

 脳は興味深い情報をよりよく記憶し、学習の効率を高めるため、面白さを求めることは生存に有利です。


三、社会的つながり

 面白さを共有することは、社会的なつながりを強化します。笑いや楽しさを共有することで、他者との絆が深まり、社会的なサポートネットワークが強化されます。これも生存に有利な要素です。



◆脳が面白さを求める


一、進化的視点

 面白さを感じることは、進化の過程で生存に有利な特性として発展してきました。面白いと感じることは、好奇心を刺激し、新しい情報や環境に対する適応力を高めます。


二、ストレスの軽減

 面白さや楽しさはストレスを軽減する効果があります。

 笑いや楽しみはストレスホルモンのレベルを下げ、リラクゼーションを促進します。これにより、心身の健康が保たれます。


三、創造性の促進

 面白さを感じることは、創造性を促進します。

 新しいアイデアや視点を生み出すためには、楽しさや興味が重要な役割を果たします。これにより、問題解決能力や革新が促進されます。


 面白さは生きることと深くつながっており、脳がそれを求めるのは生存や適応に有利だからです。

 脳の報酬システム、学習と記憶の強化、社会的つながりの強化、ストレスの軽減、そして創造性の促進など、さまざまな要因が関与しています。これらの要因が組み合わさることで、面白さを求めることが人間の行動や生存において重要な役割を果たしているのです。



◆面白さは元気の源


 面白さを得ることで、自分が成長したり元気になれたり、自己の満足へと導くように、脳はできています。脳が「面白そうだ」と感じなければ、得ようと行動を起こしません。

 面白さを求めなければ、生存に支障が出ます。面白いは生きることにつながっており、脳が面白そうと感じるから元気が出るのです。

 生きるとは、面白さの追求に他なりません。

 疲れていたりストレスを抱えていたりする人が笑いを求めるのは、元気を取り戻したいからです。

 ですが、あまりに疲れすぎていると笑いすら起こらず、面白く感じることもできなくなっている場合があります。その場合は、笑いではなく休養が必要です。

 面白いことを見失ったら生きていけない、と断言するのは決して言い過ぎではないでしょう。

 作品を面白がれるかどうかは、その時の体調や精神状態に大きく左右するのです。

 


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