サポ限に書いていたこと77 ミステリーについて・2

◆本格ミステリーとは


 江戸川乱歩は、「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれていく経路のおもしろさを主眼とする文学」が推理小説、ミステリーと定義していた。

 現在のミステリーは、エンタメ色が強くなっている。

 なにか事件が起きて謎について解き明かしていく本格ミステリーや、サスペンス性を重視した作品。

 心理状況に重点を置いた心理ミステリー。事件が起きて人々の心の動きを謎解きしていく、社会問題に重点を置いた社会派ミステリー。

 感情を書かないで事実だけを淡々と書くハードボイルド。警察小説や、インディージョーンズなど悪と戦い進んでいく冒険小説。

 なぜ犯罪を犯したのか悪人の半生を描いた悪漢小説。

 閉じ込められた場所で殺し合いをするデスゲームや、バトルロワイヤル。

 ホラーよりのミステリーもあれば、江戸川乱歩作品のような怪奇幻想系もあるし、謎解き部分が論理的じゃなくてもいいという、超能力やスパイもの、冒険小説なども含んだ変格ミステリー、童話を舞台にした特殊ミステリーもある。

 主人公が特殊能力を持っていて、まわりが名探偵となって難しいクイズ問題を解いていくような、本格ミステリーファンタジーまで。

 たくさんの種類がある一角に、本格ミステリーがある。

 ただし、厳密に定義付けをする人もいるため、ミステリーの明確な分類分けは難しい。

 ちなみに、名探偵コナンは本格ミステリーからスパイものなど、話によっては、いろいろなジャンルのミステリーを描いているから、人気につながっているのだろう。

  


◆ミステリーの考え方


 妄想を重要な創作ツールとして利用する。現実とは異なる世界だからこそ、自由さが魅力である。

 こんな特殊能力があったらミステリーに使えないか、を考える。

 その特殊能力はどう芽生えたのか。いつから使えるようになったのか。つじつまを合わせるために、設定を考えていく。自分の能力に目覚めたところから、物語がはじまる。

 たとえば、返り血を浴びたとき、裸だったら服を着ればわからなくなると考える。血は見えないけど、匂いは気づかれるだろうか。特殊能力がある人がいれば、返り血を浴びている犯人に気づくかもしれない、という発想で物語を考えていく。

 作中で殺人を犯すなら、どう逃げればいいかを考える。

 見つからないようにするのがトリック。

 どうしたら、気づかれないようにできるかが重要になる。

 実際、逃げることは可能か。下見をして確かめることも有効。

 二十年ほど前は、ベビーカーを押している人は殺人をしやすかったという。犯行を行い、人形を寝かしてベビーカーを押していれば、ベビーカーの人がいたと目撃証人が出ても、犯人に子供がいなければ容疑者から外れる事ができる。

 住宅街で殺人を起こすのは簡単だったが、現在は防犯カメラは多い。

 グーグルアースもあるし、みんなスマホを持っているため、殺人事件のトリックを考えるのが難しくなっている。


 若い女子を主人公にすることを考える。

 おじさんよりはいいし、若い子には変なこだわりがある。

 しかも、若いからうまく謎が解けない。そこに事件や相棒がどう絡んでいくのかを考える。

 子供が犯人の場合、少年法で罰せられないので、捕まることを恐れておらず、大胆な行動ができる。作者も犯人も、捕まっても構わないと思っているから、思い切って描ける。

 大人は、子供が犯人なわけがないと勝手に思い込んでいるから、複雑にみえてしまう。

 虐待されている子供たちが親を殺し、ムカつく先生のせいにしよう、自分は捕まってもいいからと大胆な行動をしていくと考えてみる。発想が子供っぽいから、リアリティーが出て納得がいく。

 そもそも子供は視野が狭い。狭いから人間関係も狭い。交友関係が広い大人より、子供を主人公にしたほうが書きやすい。


 作品を書くためには、自分の興味や好きなジャンルを追求すること。また、締め切りを決めるといい。

 人はゴールが決まっているから動ける。

 周りの人と参加している場合、自分だけ特別は効かないので、できなかったとは言えない。

 ゴールが決まっているから、一日一日をムダにせず、その日を大事にできる。「いつまでもいいよ」といわれたら、いつまで立っても先延ばしをしてしまうのが人間。夏休みの宿題と同じである。

 ミステリーは必ず、真相が判明するゴールがある。

 真相であるゴールに向かっていくためにはどうしたらいいのか、逆説的に考えていくのがいい。

 


◆トリックを考える手法


・出だしから考える

 最初に面白い謎やトリックのアイデアを思いつき、そこから物語を展開させていく方法。謎から着想を得るのが一般的なアプローチ。


・シーンから考える

 重要シーンを想定し、そこから前後の出来事を紡いでいく手法。たとえば犯行現場のシーンや、事件発覚のシーンなどを起点に物語を構築することができる。


・キャラクターから考える

 登場人物の性格や背景から動機やトリックのヒントを得る方法。犯人候補となる人物を設定し、その人物ならどのような犯行に走るかを想像するのが有効。


・常識反転法を用いる

 中村あやえもんさんが提唱する「常識反転法」は、常識を設定し、その常識を反転させることでトリックを生み出す理論的な手法。特定の事象や物体についての常識を列挙し、その反対の要素を考えて原理と何を錯覚させるのかを決めてトリックにする。


「水族館の水槽に人が入れない」に対して、「水槽に人が入っている」と反転、「なぜその人が水槽に入っているのか」「どのように入ったのか」などの謎が生まれ、トリックを構築する着想を得る。


「犯人は現場に指紋を残す」に対し、「犯人は現場に指紋を残さない」と反転、「なぜ指紋が残らなかったのか」「指紋を残さないためにどんな工夫をしたのか」などの謎が浮かび、トリックのアイデアにつなげる。


「死体は動かない」から、「死体が動いている」と常識を反転、「なぜ死体が動いたのか」「誰が死体を動かしたのか」などの疑問が浮かび、トリックを構築していく。


「血液は赤い色をしている」から、「血液が赤くない色をしている」に反転、「なぜ血液の色が変わっているのか」「誰が血液を操作したのか」などの謎が浮かび上がり、トリックを考えていく。


「血痕は重力に従って下に垂れる」から、血痕が上向き、天井や壁の上部に付いている」という矛盾した状況を作り出し、「なぜ血痕がそのように付いたのか」「血痕を操作した理由は何か」といった疑問が浮かび、トリックのアイデアにつなげる。


「毒は致死量を超えると死に至る」から、「毒を飲んでも死なない」設定が生まれ、「なぜ毒が効かなかったのか」「毒を無力化する方法はあるのか」などの謎から、トリックを構築する手がかりとする。


「目撃者の証言は信頼できる」から、「目撃者の証言は信頼できない」という矛盾を作り出し、「なぜ証言が信用できないのか」「目撃者に何か理由があるのか」といった疑問が生まれ、トリックのアイデアにつなげる。


「火災現場には煙や炎の痕跡が残る」から、「火災があったはずなのに現場に煙や炎の痕跡がない」という不可解な状況を作り出し、「なぜ痕跡がないのか」「痕跡を消した理由は何か」などの謎が浮かび、トリックを構築する手がかりにする。


「遺体は時間とともに冷えていく」から「遺体が発見された時点で既に常温だった」設定ができ、「なぜ遺体が冷えていなかったのか」「誰が遺体の温度を操作したのか」などの謎が、トリック構築の手がかりにする。


「時計は正確に時間を示す」に、「時計が正しい時間を示していない」と反転させ、「なぜ時計が正しい時間を示さないのか」「時計を故意に操作したのはだれか」などの謎から、トリックのアイデアを得る。


「時計の針は時間の経過とともに進む」から、「時計の針が逆向きに動いている」という不可解な設定ができ、「なぜ時計の針が逆転したのか」「誰が時計を操作したのか」などの謎が、トリックを構築していく。


「時計は一定の間隔で音を立てる」から、「時計の音が不規則で一定の間隔で鳴っていない」といった矛盾した設定ができ、「なぜ時計の音が不規則なのか」「誰が時計を操作したのか」という疑問が生まれ、トリックのアイデアにつなげる。


 日常の「常識」を反転させることで、不可解で矛盾した出来事が思いつき、そこから読者を驚かせるトリックのヒントを考える。単なる反転だけでなく、論理的で合理的な伏線を紡いでいくことが謎解きを考える上で重要となってくる。


・既存作品を参考にする

 過去の名作ミステリーを研究し、使われているトリックの手法を学ぶことも重要である。

 参考にする際、著作権侵害を避けるために既存作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できないよう、十分に変化を加えること。

 ただし、単なる模倣に終始せず、参考にしつつ自身のオリジナリティを出すことが肝心となる。

 模倣として使われやすい一つが、シャーロック・ホームズシリーズ。

 使う場合、たとえば名探偵コナンのように、登場人物にシャーロック・ホームズに詳しい人や作中の事件がホームズ作品に似ていることに気づくなどを描きつつ、作中では作者自身の創作性を発揮したものにして用いれば、ただの模倣と呼ばれないだろう。

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