サポ限に書いていたこと76 ミステリーについて・1

◆ミステリー小説とは


 殺人事件などの謎が設定され、真相を解明することを中心に描かれた作品。様々なトリックや伏線が仕掛けられており、読者も一緒に推理を楽しむことができます。

 定型的な構造として、「人が死んで探偵が犯人を指摘する」流れがあります。

 論理の飛躍がないよう作家には、事件の真相を論理的に解き明かして完結させる能力が求められます。

 そうした作品には、謎が解けたときの爽快感や推理に成功した達成感、読後には満足感が残ることが多いです。

 

 読者を満足させるため、斬新なトリックや予想外の展開が重視される傾向がみられます。

 単なる謎解きだけでなく、人間ドラマや心理描写にも力が入れられた作品が増えています。電子機器やSNS、AIなども取り入れ、現代社会に対する問題提起をする作品もあります。

 従来の本格ミステリーに加え、オムニバス形式や複数の視点から描く手法、SFやホラーなどミステリー以外のジャンルと融合した作品も増えています。


『名探偵コナン』を描いている青山剛昌先生は、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の番組で、担当編集者さんたちと共に科学の動画を見ては、作中に登場するトリックの仕掛けや実験を検証して考えていました。

 三十年以上にわたり、主に小中学生向けのミステリー小説や冒険小説を手かけているはやみねかおる先生は、手品の本にある「逆に考える」こと、例えば「ボタンがシャツから取れた」のを「シャツがボタンから取れた」という思考が、トリックを考える基本になっているといいます。

 元弁護士のミステリー作家、新川帆立先生は、読者が興味を持つ謎を考えるとき、普通がどういうものなのかを書き出してから逆さまにしたり、ずらしたりして、新たな視点を見出しているといいます。窃盗犯は財布を盗むのが普通ですが、財布を盗まずお金が盗めるのかを考える、といった具合です。

 共通していえるのは、当たり前だと思っている物事を逆さまに見ることが、トリックを考えるときに大切ということです。

 

 謎解きは、売り上げと人気を左右するといいます。

 そのために大事なのは、魅力的な謎を用意することです。

 魅力的な謎とは、誰もが「どういうこと?」と思うことです。

 面白いことに出会ったら、どこがどうして面白かったのか、ノートやメモ帳などに書いておきます。

 自分の作品内で試して、使えるかどうか確かめます。

 家族や友達に読んでもらうのもいいですし、身近な人を読者として想定し、どのように話したら面白いとすぐに思ってもらえるかを考えながら謎を用意します。


 論理的に謎を解くことを考えます。

 読者を納得させるためには、物理的に可能で、心理的にも妥当でなければなりません。その方法で殺害できるか。絞殺するとき、目の前に崖があるなら落としたほうが確実ではないか、など。

 作中に登場する人物すべての行動を、時系列順に一つずつ、論理的に整合性が取れているか確かめていきます。


 ただし、論理的に作るのは難しいです。

 ごまかすためには、作品のリアリティーを統一する方法があります。世界観によって、求められている論理が違うためです。

 子供と大人の作品は違うように、ゆるい作品なら謎解きがゆるくとも許されます。シリアスなら、謎解きもシリアスにする必要があります。

 主人公を子供にする場合、大人相手に子供でも活躍できる世界観を考えるところからはじめます。

 落ち着きの良い、わかりやすい結論にする方法もあります。

 悪人が裁かれ善人が救われる、そんな読者の願望を叶える構図にすることで、感情移入させることができます。

 ある職業の人なら知っている、または知らない、という読者側からのツッコミを避ける方法として、素人を主人公にするやり方もあります。

 大人や作者よりも年上の人を書くのはさほど難しくないですが、子供は簡単そうに思えて難しさがあります。大人になると、子供だったときの感覚は忘れがちになるためです。子供ならではの目線が必要になります。


 作品は完成し、謎も解けたのにつまらない場合があります。

 そんな作品は、一次や二次は通っても、それ以降は通らない作品に多いそうです。

 回避するには、「作品の売り」を自分で客観的に説明できるようになることが大切といいます。

 有名なミステリー作家ならまだしも、そうでないならば、謎解きだけの作品が受賞するのは難しいそうです。

 なんでもいいので、謎解きにプラス・アルファが必要です。謎解きの面白さ以外に別の面白さがある作品は、最終選考で効いてくる要素だといいます。

 謎解きの過程で描かれるラブコメが面白いや、子供の幸せを願って事件解決する、あなたの知らない職場の裏側が覗けるお仕事ミステリー、といった具合に。

 謎解きの流れがおかしいときは後で直せばいいですが、プラス・アルファの魅力だけは作者自身が用意しなくてはいけないからです。


 まず、面白い部分を考えます。

 元弁護士であるミステリー作家の新川帆立先生が重視していることは、「自分が書きたいこと、興味のあることの中で、読者さんに興味を持ってもらえることは何か?」と考えて書くことです。

 受けそうなテーマから書けるものを探しはじめると、書いていてつらくなり、執筆のモチベーションを保ちにくくなるから、逆はお勧めしないそうです。

 自分の興味からくる疑問をまず考え、反対からみたらわかるのではという逆転の発想に、みんなが読みたい要素を取り込んで話を考えているそうです。

 自分が興味あるものの中で、みんなが読みたいものを探して題材とします。流行に乗らず、自分が好きなものを優先させます。

 つぎに読みどころを考えます。

 悪いと思われていることをポジティブに描けないか。あるいは、良いと思われていることをネガティブにできないかなど、視点を変えることで面白さがみつかることがあるといいます。

 ただし、自分の興味の範囲内で作品を作ってばかりいると同じ話ばかりになるため、つねに自分の頭の外にある、他人が面白いと思っているものを取り入れる必要があります。

 同じ話ばかりだとつまらないし、読者が飽きてしまいます。

 自分が書きたいものと、自分の内にあるものだけにならないことを意識しながら書くことが大切です。 


 謎を作ってから、謎を解くキャラクターを作ります。

 個性的なキャラを作ることが、キャラ立ちではありません。

 普通の人で高感度が高くて応援したくなる人物、悪いヤツだけどコイツはなかなかやるなと思える、読者に愛されるキャラクターのことです。

 そのために、欠点を作ります。

 欠点を許せる相手は好きになるからです。

 人の良さや長所を表現するとき、どうしても抽象的になりがちですが、欠点や短所、悪口は具体的に言いやすいため、書きやすいです。欠点を突き詰めると長所につながるので、まず欠点を具体的に決めます。

 つぎに、なぜそんな欠点を持つに至ったのかを考えます。そうすることで、キャラクターの行動原理が見えてきます。

 口は悪いけど仕事ができるキャラクターは、割り当てられている仕事だからこなしているだけで共感性が低い、もしくは疲れや体力の衰えから怒鳴ったり日頃の鬱憤をぶつけたりする、といった長所と短所のつながりを考えます。

 このとき、キャラクターと時間の流れの一貫性も必要です。

 人の性格は簡単に変わりません。長い年月を経て、いまの性格になっています。

 同じように、作中に登場する人物の長所と短所のつながりを考えます。行動には、それぞれ理由があるからです。

 欠点が大きければ大きいほど、変えることは難しいです。他人に指摘されたからといって、簡単には変えられません。

 そんな欠点を一変させるには、それなりの大きな出来事を起こす必要があります。そこにも一貫性を働かせなくてはいけません。

 物語とはいえ、脇役にも人生があります。脇役あってこその主役です。脇役がしっかり描かれていなければ、主役だけの一人芝居のようになってしまうからです。

 意地悪な人は、なぜ意地悪なのか。どうしてそんな性格になったのか。相性が悪いだけなのか。なぜ相性が悪いのか。助けてくれる人も、なぜ助けてくれるのか。それぞれどんな理由があるのか、よく考える必要があります。

 作者にとって都合がいいからと、物語の流れだけでキャラクターを動かしていると、読者に見透かされてしまいます。

 人間の個性は多様で、それを有機的に動かすことは難しいため、キャラクター作りでは、それぞれの個性がどのように関係しているのかを考えることが、とても重要です。

 脇役の行動理由は、作中に書く必要はありません。作者が理解していれば、自ずと作品に現れてきます。 


 美人でツンデレキャラの場合、美人とツンデレの要素がどう関連しているのかを考える必要があります。属性の集合体だと、人間らしさを欠くことになるからです。

 キャラクターに作者自身を投影しすぎれば、登場人物全員が作者と同じ性格になる可能性があります。また、作者に都合のいいキャラクターを作りすぎると、物語のリアリティが損なわれます。

 日頃から人の行動やセリフ、感じ方などをよく観察し、その人のどこが素敵で、どこが嫌いなのかを考えるクセをつけておくと、キャラ作りに役立ちます。

 キャラクターに自分自身を投影するのではなく、友達を書くような感覚で作るのがいいです。

 そのキャラクターがどんな道具を使い、どんな贈り物にどう喜ぶのか、生活習慣や好みを具体的にイメージすることも重要です。

 物語の構成をしっかりと立てることは、さらに重要です。世界設定や時系列を細かく確認し、矛盾がないかチェックすることを忘れないようにしなくてはいけません。


 ミステリーに限らず、創作のモチベーションには、健康な体と精神が欠かせません。

 新川帆立先生は、「好きなことだけして生きることが最大の喜び」と言っています。

 青山剛昌先生は、「子供のままですね。成長してないかもしれない。成長しなくてもいいし」と語っていました。

 はやみねかおる先生は、自身の精神年齢が十四歳で止まっているといい、「立派なこと、国のことや将来のことも考えていない。死ぬまでは楽しく生きたい。せっかく生きているのに、楽しくないともったいないから」と話されています。

 気分が乗らないときは、休んだり資料を読み直したり、作品の世界感に合った音楽を聞いて気分を整えるといいです。

 もし書けなくなったら、面白い小説を読むことで執筆意欲が湧きます。

 書くときは、実在するしないに関わらず、想定読者を自分の中に持っておくと、創作する際に役立ちます。

 文章力を向上させるためには、日本語の文法を学ぶのが重要だと、プロ作家の人たちは語っています。

 語彙力が足りないと感じたら、新しい言葉をメモして辞書で引き、積極的に日常会話で使うことで身につけていけます。


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