サポ限に書いていたこと75 恋愛について・3

■恋愛物語の結末について


 現代日本恋愛小説における結末の類型化と特徴の歴史的変遷(白鳥 孝幸・村井 源『公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科』)の研究によれば、現代日本の恋愛小説におけるエンディングの類型化と年代ごとの各類型の登場比率が明らかにされています。



◆研究の結論

 恋愛小説におけるハッピーエンドの作品割合は増加しています。

 また、年代が経るにつれて不倫物語から純愛物語へと流行が移り変わっていることが示唆されています。



▼恋愛小説の定義


「登場人物同士の恋愛関係を物語の主題としている」「一定のシーン数と起承転結が存在する」を条件とし、物語の結末位置において、主人公の恋愛の結末が描かれている作品を、恋愛主題の作品と判定。

 また、研究の分析対象とされた作品は、Amazonやブックオフの恋愛小説売れ筋ランキングなど、八つのサイトから二回以上登場した作品です。

 収集した長・短編一一七作品を出版年度別にした結果、収集された作品の九十五パーセントが、一九九〇年以降に出版された作品。

 恋愛小説が大衆化したのが、一九九〇年以降だからと思われます。

 


▼対象作品


 一九九〇年から二〇〇五年までに出版された作品をA群。

 二〇〇六年から二〇二一年までに出版された作品をB群。



▼物語のエンディング


 本研究では「客観軸」と「感情軸」の二軸で恋愛小説のエンディングの類型分類を行っています。

 客観軸では「結ばれる/結ばれない」、感情軸では「ポジティブ/ネガティブ」の二項で分類を行っています。

「結ばれる」とは、物語の結末において主人公が特定の相手と両想い/交際関係/婚姻関係になることを意味します。

「ポジティブ」は、物語の結末において主人公が感情的な満足を示しているかを意味します。

 例えば、「主人公が好きな人と結ばれず、好きではない人と結ばれる」物語は、「結ばれる/ネガティブ」に分類されます。


「結ばれる/ポジティブ」

 両思い、交際、結婚、和解、再会(『君の名は。』『植物図鑑』など)

「結ばれる/ネガティブ」

 好きでない人との交際、結婚、心中(『曽根崎心中』『親指の恋人』など)

「結ばれない/ポジティブ」

 円満な破局、離婚、ポジティブ失恋、想い人の死と克服、片想い(『世界の中心で、愛をさけぶ』など)

「結ばれない/ネガティブ」

 不和な破局、離婚、ネガティブな失恋、想い人の死と絶望、すれ違い破局(『ナラタージュ』など)



▼各年代における類型別作品数


 A群(一九九〇~二〇〇五)

「結ばれる/ポジティブ」  二十四

「結ばれる/ネガティブ」  二 

「結ばれない/ポジティブ」 二十二

「結ばれない/ネガティブ」 十三 


 B群(二〇〇六~二〇二一)

「結ばれる/ポジティブ」  四十

「結ばれる/ネガティブ」  一

「結ばれない/ポジティブ」 十一

「結ばれない/ネガティブ」 四


「結ばれる/ポジティブ」の作品割合が大幅に増加。

 それに伴い「結ばれない/ポジティブ」、「結ばれない/ネガティブ」の割合が減少。

 また、感情軸でネガティブに分類された作品は、A群で約二十五パーセントだったのに対し、B群では約九パーセントまで減少。

 近年の作品が、海外ロマンス小説の特徴である「感情的なレベルで満足するような楽観的な結末」に近い物語の傾向になっている可能性があります。

 また、AとB群ともに「結ばれる/ネガティブ」の割合は極めて低いことがわかります。

 物語の類型として存在はするが、近代から現代にかけての自由恋愛的思想が一般に浸透したため、現代の恋愛小説においては積極的に描かれない、もしくは大衆化せず一部の読者層のみから好まれるような物語類型なのではないかと推測されます。



▼各年代における頻度の高い物語類型


 A群(一九九〇~二〇〇五)

一、両思い、交際、結婚  十四

二、想い人の死と克服   十

三、ネガティブな失恋   四

四、円満な破局、離婚   四

五、片想い        三

六、ポジティブ失恋   二


 B群(二〇〇六~二〇二一)

一、両思い、交際、結婚  二十七

二、再会エンド      八

三、想い人の死と克服   六

四、ポジティブ失恋    五

五、和解         四

六、想い人の死と切望   二


 AとB群ともに、恋愛小説の典型的な類型である「両想い・交際・結婚」が最上位であった。が、それぞれからみた「両想い・交際・結婚」の割合は、A群では二十八パーセント、B群では 五十パーセントと倍近くの開きがあります。

 B群よりもA群の方が、物語のエンディングのバリエーションに富んでいる可能性が示唆されます。

 同時に、近年はエンディングのバリエーションではなく、登場人物や舞台設定、発生する困難などにバリエーションを持たせることによって物語の差別化を図っている可能性があります。

 また、失恋ものの類型において、A群では主人公のネガティブな失恋が上位であったが、B群では主人公のポジティブな失恋が上位と対照的な結果が現れています。



 従来の物語論におけるシーン分割による、対象作品のシーン分割を行い、研究者たちが各シーンに物語機能の割り当てを行いました。

 定義表には、大カテゴリを二十九種類と、細かく分類した小カテゴリを二百二十七種類を設定。本研究で使用した定義表と 、AとB群における各カテゴリの登場回数を以下に示します(データがしばらく続きます。飛ばしてください)。



(大カテゴリ/小カテゴリ/A群/B群)


・出現 

 遭遇、復活、登場、誕生、出会い、再会、見かける

 A群 五十八

 B群 七十四


・退場

 退出、死亡、成仏、退場、排除、自殺、封印、別離

 二十一

 十四


・変化

 変化、登場人物の、変身、入れ替わり、別人化、記憶喪失で別人化、妊娠

 一

 一


・能力向上

 仲間加入、取り戻す、成長、アイテム入手、体調回復、回復、治療、立場の向上、設備の使用可能化、美容整形、能力の一時向上、能力封印解除

 七

 七


・能力減退

 仲間離脱、盗まれる、衰弱、アイテム喪失、体調悪化、病気、怪我、立場の低下、行動不能、能力喪失、記憶喪失、能力封印

 二十一

 十四


・移動経路入手

 経路入手、開通�手段入手、運搬、転居

 一

 ゼロ


・逃亡

 逃避、退却、撤退、脱出、解放、失踪

 九

 四


・移動経路入手失敗

 拘束、誘拐、監禁、軟禁、逮捕、封鎖、限定(移動経路)、変更(移動経路)、経路喪失、手段喪失

 三

 三


・探索

 探索、調査、探検、研究、実験、捜索、追跡、警戒

 一

 一


・発覚

 発見、情報開示、真相発覚、失った記憶を取り戻す、正しい推理、発明、創意工夫、自供

 四十八

 四十九


・誤解

 誤解、勘違い、すれ違い、幻覚

 七

 四


・疑念

 謎発生、奇妙な出来事、不穏、外れた推理、疑惑、疑心、予兆、糸、行方不明

 四

 七


・隠す

 隠蔽、騙す、乗っ取り、変装、詐欺、偽装、秘密の共有、待ち伏せ

 六

 十


・外的情報

 世界設定の開示、蘊蓄、レシピ、プロローグ、エピローグ、本筋に関係のあまりない過去の事件、教訓、余韻

 十五

 十六


・秩序

 約束、交渉・取引、遵守、警告、予告、予言

 九

 八


・違反

 犯罪、不注意、過失、警告無視、盗む、不倫

 十七

 七


・意思

 願う、決意、依頼、受諾される、説く、目標掲示、目的地掲示、説得、招待、表明・行動予告

 三十一

 二十六


・依頼完了

 依頼の達成完了、願望成就、目標達成

 二

 二


・依頼失敗

 依頼の達成失敗、目標放棄、目標達成失敗

 二

 ゼロ


・自我を失う

 発狂、暴走、憑依、混乱、錯乱、茫然自失、酩酊、洗脳、隷属、意識不明

 二十四

 九


・関係変化(人間関係)

 改心、反省、和解、なだめる、依頼の受諾、感謝、赦し、もてなす、親睦

 二十四

 二十四


・関係変化(色恋)

 片想い、両想い、恋に落ちる、告白、デート、結婚、進展、色恋和解、色恋、交際、肉体関係

 百二十六

 百二十九


・関係変化失敗(人間関係)

 喧嘩、裏切り、傲慢、嫌悪、依頼の拒否、挑発、叱責、対立、不親切

 三十三

 十九


・関係変化失敗(色恋)

 嫉妬、失恋、喧嘩(色恋)、告白失敗、破局、離別、恋愛禁止

 五十九

 二十九


・助ける

 保護、救助、看病・治療、助太刀・加勢、激励、犠牲、救済、支援

 三十四

 三十九


・妨害

 危害、敵出現、故意の人災、理不尽な要求、ナンパ、脅迫、いじめ・意地悪、呪詛、復讐、迫害

 二十二

 十三


・対決

 対決、戦闘、競争

 二

 四


・日常

 平和、平穏、安堵、安息、満足、平凡、行事・イベント、解決、賞賛

 八

 十五


・災難

 被害、落胆、失望、恥じる、天災、呪い、過失の人災、危機、試練、苦境、後悔、不満

 十五

 二十一


 表より、大カテゴリにおける「違反」・「関係変化失敗(色恋)」・「妨害」が、B群よりもA群で顕著に多く出現していることがわかります。

 恋愛小説において、小カテゴリの「違反」は、小カテゴリの「不倫」で用いられることが多いが、不倫とそれによる二者間の不和や破局が共起して出現していることが推測されます。


 つぎに、各作品の物語機能の並びを記号列として分析を行い、AとB群、それぞれにおける大カテゴリの上位十位までの結果を示します。


(三つの大カテゴリ/数)


 A群の大カテゴリにおける三つの頻度

・出現、関係変化(色恋)、関係変化失敗(色恋) 十四

・関係変化(色恋)、発覚、関係変化(色恋) 十四

・関係変化(色恋)、関係変化失敗(色恋)、関係変化(色恋) 十四

・出現、関係変化(色恋)、発覚 十二

・出現、発覚、関係変化(色恋) 十一

・出現、関係変化(色恋)、退場 十一

・出現、関係変化失敗(色恋)、関係変化(色恋) 十

・関係変化失敗(色恋)、関係変化(色恋)、関係変化失敗(色恋) 十

・関係変化(色恋)、助ける、関係変化(色恋) 九

・関係変化失敗(色恋)、出現、関係変化(色恋) 九


 B群の大カテゴリにおける三つの頻度

・出現、助ける、関係変化(色恋) 二十

・出現、関係変化(色恋)、 関係変化失敗(色恋) 十六

・出現、関係変化(色恋)、発覚  十五

・関係変化(色恋)、関係変化失敗(色恋)、関係変化(色恋)十四

・出現、発覚、関係変化(色恋) 十三

・関係変化(色恋)、出現、関係変化(色恋) 十三

・関係変化(色恋)、発覚、関係変化(色恋) 十三

・出現、関係変化(色恋)、 出現 十二

・出現、関係変化(色恋) 、日常 十二

・関係変化(色恋)、助ける、関係変化(色恋) 十二


 結果をみると、「出現」、「関係変化(色恋)」、「関係変化失敗(色恋)」の 三つカテゴリが、AとB群共通して頻出していることがわかる。

 これらから、恋愛小説は特定の人物と出会い,困難を経て成就、あるいは破談する展開が基本パターンであることが確認できる。

 また、これら以外で頻出している「助ける」「発覚」の二つが、恋愛関係に大きく影響を与えていることが推測される。



 次に、AとB群における小カテゴリの度数が四以上の三つのカテゴリの結果を示す。


(三つの小カテゴリ/数)


 A群の小カテゴリにおける三つの頻度

 出会い、両想い、死亡 六

 交際、不倫、破局 五

 出会い、肉体関係、真相発覚 五

 出会い、デート、真相発覚 四

 出会い、再会、両想い 四

 出会い、病気、死亡 4

 出会い、真相発覚、両想い 四

 出会い、真相発覚、死亡 四

 肉体関係、真相発覚、決意 四


 B群の小カテゴリにおける三つの頻度

 出会い、デート、両想い 七

 出会い、真相発覚、両想い 七

 出会い、救助、再会 七

 出会い、デート 真相発覚 六

 出会い、デート、交際 六

 出会い、デート、激励 五

 出会い、再会、真相発覚 五

 出会い 、真相発覚、デート 五

 出会い、真相発覚、決意 五

 デート、告白、両想い 四

 出会い、デート、告白 四

 出会い、デート、支援 四

 出会い、告白、両想い 四

 出会い、恋に落ちる、両想い 四

 出会い、真相発覚、再会 四



 A群では、「出会い→両想い→死亡」が最も高い頻度で出現している。これは、両想いになった二人が、病気や事故で非業の死を遂げるストーリーの流行を示唆していると考えられます。

『世界の中心で,愛をさけぶ』にも合致するプロットであるが、本作品の流行前から、このようなプロットの作品が多く存在していたことが明らかになりました。

 次いで、「交際→不倫→破局」、「出会い→肉体関係→真相発覚」の出現頻度が高い。一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけて起こった恋愛観の変容が理由として挙げられます。

 一九八九年に放送されたテレビドラマ『男女7人夏物語』がロマンティック・ラブ・イデオロギーを変容させた初めての作品であると指摘。また、一九九〇年代は『失楽園』をはじめとした不倫ドラマのピークであり、様々な形の不倫が描かれるようになった年代でもあります。

 当時は、不倫を許容する恋愛観を持つ人々が現在よりも多かったことも理由として挙げられます。

 実際、「好きなら不倫な関係でもしょうがないと思う」というアンケートでは、二〇二〇年は10.5パーセントに対し、ピークの一九九八年では、20.3パーセントと、二倍近くの開きがある。

 以上より、A群で「不倫」や「肉体関係」などの物語機能が多く登場していると考えられます。


 B群では、「出会い→デート→両想い」、「出会い→真相発覚→両想い」、「出会い→救助→再会」の三つが最も高い頻度で登場。

 ハッピーエンド「結ばれる/ポジティブ」に分類される恋愛物語によく見られる展開が抽出。

 A群とは、実に対照的な結果です。

「出会い→デート→両想い」と「出会い→真相発覚→両想い」は、特定の人物と出会い、デートや情報開示等の手段によって両想いなる物語展開であり、「出会い→救助→再会」は困難な状況にある人物を助ける際に出会い、その後に再会して二人の恋愛関係が発展する物語展開になっています。

 AとB群全体をみくらべると、二人が出会った後に関係性を発展させるイベントとして、A群では「真相発覚」が多いのに対し、B 群では「デート」が多いことがわかります。

 これはA群では、関係性の発展に秘密の共有や発覚、相手の素性の発覚などで互いの関係性を発展していたのに対し、B群ではデートで互いの親密度を高めることで物語を展開しているからだと推測されます。



▼結論


 現代日本恋愛小説を定量的に分析、エンディングの類型化と年代ごとの各類型の登場比率を明らかにした結果、二〇〇六年以降は、「結ばれる」かつ「ポジティブ」に分類されるハッピーエンドの作品割合は、恋愛小説が大衆化した一九九〇年から二〇〇五年までの作品群とくらべ、約1.8倍も増加していることがわかりました。

 また、カテゴリ分析の結果から、年代が経るにつれて不倫物語から純愛物語へと流行が移り変わった可能性があります。

 つまり、現代はハッピーエンドの純愛物語が多い傾向にあるといえます。


 課題として、短編作品も対象としているが、物語の傾向が似た短編作品が 一つの短編集に収録されていることもあり、特定の著者の作風が年代の傾向に少なからず影響を与えていると考えられます。

 そのため、同一著者から選定する作品数に制限をかけることで、より正確な年代の特徴が明らかになることが期待されます。

 また、直近三十年間における前半と後半で特徴を分析・比較しているが、さらに対象の作品数を増やすことで、さらに細かな年代ごとの特徴の変化を確認できるかもしれません。

 また、これらの結果を恋愛漫画や恋愛映画、海外のロマンス小説などと比較することで、媒体ごとの恋愛物語の特徴や日本の恋愛小説と海外のロマンス小説の差異を統計学的に立証することができるのでは、と締めくくられていました。





◆恋愛小説に求められているもの


一、共感しやすい恋愛要素

 恋愛は多くの人が実体験している感情であり、共感しやすいテーマとなります。読者に刺激的でドキドキするような恋愛シーンを描くことが重要です。


二、キャラクターの魅力

 恋愛は物語の中でキャラクターの人間性や意外な一面を引き出すのに最適なテーマです。


三、波瀾万丈な展開

 多くの人が経験する恋愛ではなく、物語になるような波瀾万丈な恋愛を描くことが求められます。

 恋愛に関する様々な障害を乗り越えていく過程が重要です。


四、年の差要素

 年の差のある相手との恋愛は、価値観の違いや見た目の違い、お互いへのコンプレックスなど、同年代との恋愛とは違う人間ドラマが描けます。

 年下男性×年上女性、年上男性×年下女性などの年の差要素は人気の一つです。


五、溺愛・過保護な関係性

 年の差のある相手との恋愛では、相手を過保護に守ろうとしたり、独占欲を持つなど、溺愛的な関係性が描かれることが求められます。


 つまり、共感しやすく、キャラクターの魅力を引き出し、波瀾万丈な展開と年の差要素、溺愛的な関係性を持つ恋愛小説が求められています。



◆ここまでのまとめ


 現代の恋愛小説は、ハッピーエンドの作品は増加傾向にあり、年代が経るにつれて不倫から純愛へと流行が移り変わってきています。

 変化の原因として、女性の社会進出が大きな要因ですが、新型コロナウイルス感染症の流行、政治不信にはじまる物価高騰や増税、戦争や自然環境、将来の不安なども恋愛観・結婚観に大きな影響を与えています。

 また、SNSの普及により、自分の順位や告白後の展開など、なんでも手軽に知れることで「恋愛のハードル」が上がったとも言われています。


 以上を踏まえると、小説や物語の中で描かれる恋愛観は、時代の変化や社会的な要素、技術の進歩など、多様な要素が複雑に絡み合っているのです。


 純愛小説が増えているからといって、不倫ものや、失恋する作品がなくなったわけではありません。

 恋愛小説の見方の一つに、「恋愛を学ぶ」があります。

 失恋したとき、失恋ソングを聞いて心を癒す話は耳にしたり、経験があると思います。

 同じように、小説に求めることもあるのです。


 失恋の辛さや寂しさを描いた作品なら、登場人物の気持ちに共感でき、自分の気持ちの整理につながるし、同じ経験をした人物の心情を読むことで、自分も一人ぼっちではないと実感できるでしょう。


 失恋を乗り越えた登場人物の成長物語なら、自分も立ち直れる希望が持てるし、恋愛観や人生観に触れることで、新しい視点を得られるかもしれません。

 ただし、あまり重い作品を読むと逆効果になるかもしれません。

 そんな考えを、作るときに考慮に入れるのもいいです。



◆最後に

 

 そもそも、恋愛小説は売れているのでしょうか。

 現在の出版事情では、ベストセラーになることもなく、恋愛小説は全体としては売れ行きが良くないジャンルとされています。

 しかし、書店店頭では若手女性作家による恋愛小説が平積みされるなど、目立つ存在となっています。

 出版社の意向や、恋愛小説がある種の文学的ステータスを持つと見なされているため、と考えられます。

 一方、近年は従来のタイプの恋愛小説とは異なり、性描写の多い作品や同性愛、人と動物の関係性、ブルーライトノベルと呼ばれる泣ける作品など、多様な形態の恋愛小説が登場しています。

 恋愛ジャンルのラノベは近年人気が高まっており、売り上げも伸びています。特に女性向けの恋愛ラノベで、イケメンキャラクターが登場する作品は人気が高い。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』では帯に「恋愛小説」と銘打ったところ、売上が10倍に伸びた事例があります。

 正確な売上シェアは不明ですが、近年の人気の高まりや帯の効果から、恋愛ジャンルは主要なジャンルの一つであり、重要な位置を占めているといえるでしょう。

 児童文庫全体に占める恋愛ジャンルの正確な売上シェアはわからないが、Amazonの児童書の恋愛読み物のカテゴリーでは、『霧島くんは普通じゃない ~ヴァンパイアの白いクリスマス~』 (集英社みらい文庫) 新書が1位にきており、また、ベストセラー作品が複数ランクインしています。 このことからも、一定の人気と売り上げがあると考えられます。

 児童文庫の恋愛作品は、純愛ストーリーが中心で、性的描写はほとんどありません。 読者は主に小学校高学年から中学生の女子が中心です。

 恋愛だけでなく、友情や成長、家族愛などの要素を取り入れ、バランスの取れた作品が求められる傾向にあります。 恋愛だけに特化するよりも、他のテーマと組み合わせた方が人気が出やすいです。

 一方、近年は逆ハーレムなど新しいタイプの恋愛ジャンルも人気が出てきています。売上シェアは不明確だが、児童文庫における恋愛ジャンルは主要ジャンルの一つ。Amazonの売れ筋から一定の人気があり、他のテーマと組み合わせた作品が読者に受け入れられやすい傾向がうかがえるといえます。

 恋愛観の変化に合わせて、恋愛小説のジャンルも広がりを見せているのです。 

 人気作家の作品や映画化された作品など、一部の恋愛小説は大きな売り上げを記録している現実があります。

 つまり、全体としては売れ行きが芳しくないものの、ジャンルの多様化や一部の人気作品の存在により、恋愛小説は依然として出版界で一定の地位を保っているといえます。


 これらから、現代の恋愛小説に求められる傾向として、以下のことが挙げられます。

 価値観の多様化に伴い、恋愛の形も変化しており、従来の男女の恋愛だけでなく、新しい形の恋愛観を取り入れた小説を描くことが求められています。

 理想化された恋愛ではなく、リアルで等身大の恋愛模様を描くことが重視されています。傷つきながらも成長していく主人公の姿に、読者が共感を覚えられるような作品が人気です。

 恋愛を人生のすべてとせず、キャリアや自己実現など、恋愛以外の価値観も併せて描くことが求められています。

 Z世代を中心に、恋愛は選択肢の一つという考え方が広がっているためです。

 恋愛以外の価値観や切ない恋の描写も重視され、多様性と等身大のリアリティが求められた作品も広がりをみせていくでしょう。

 切ないラブストーリーや、儚い恋の物語は根強い人気があります。恋愛にまつわる喜びや痛みを繊細に描いた作品に、多くの読者が涙する傾向にあります。

 この先、現実での恋愛が減少していけば、恋愛ものはファンタジーで語られる夢物語となってしまうやもしれません。

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