サポ限に書いていたこと72 応募に関するアドバイスについて

◆小説現代長編新人賞に応募される人に向けて、編集者たちがいろいろと語っています。


★小説現代長編新人賞とは

 エンタメ系の賞で、ノンジャンル。長編を募集する新人賞。受賞作は、青春とSF系(少し不思議くらいのライト)が目立つ。

 一次の通過率が高いといわれていたが、近年、難化。受賞時に四十歳を超えている受賞者は直近回(十四~十七回)にはいない。

 過去には四十歳オーバーで受賞している方もいるが、『小説現代』は二〇二〇年、若年層向けにリニューアルしたことが関係しているかもしれない。

 時代小説で受賞した方は、年齢が比較的高い場合があるので、ある程度年齢が行ったら、時代小説で勝負するのがいいだろう。

(ただし、公式サイトには高年齢応募もウェルカムとある)



 小説とはどういうふうにでも書けるすごく自由なもの。今後も従来とは異なるまったく新しい形の小説が生まれているはず。そんな表現を共有してくれる他者を思い描きながら書くことが大切。


 登場人物たちの心の動きを丁寧にリアルに追って欲しい。瑕疵があれば、壮大な物語でも無理が生じてしまう。逆に寄り添うことができれば、小さな物語でも大きな感動や共感、興奮を呼べるはず。大切な原稿、最後にぜひご一読を。誤字脱字は勿体ない。


「どこかで見た事がある展開だけど、うまくまとまっている」小説よりも「文章も破綻しているし力技であることは否めないが、誰にも似ていない発想力や熱量がある」小説のほうが魅力を感じる。人物、テーマ、仕掛け等の設定に妥協せず「これだけは絶対に自分しか思いつかない」という自信を潜ませて。


 受賞できなかったが、別の作品で他社の賞からデビューする作家に出会うこともある。仕事をする機会がなくても、その作家は小現ファミリーだと、勝手に個人的に思っている。


 タイトルが良くないと指摘される候補作は毎年あり、その数も多い。逆に言えばタイトルが悪くても最終候補には残れるし、受賞も可能(改題してデビューとなる)。大事なのは作品本体である。


 梗概を後回しにして本文から読む。どんな楽しみが待っているか知らないまま作品に入った方が新鮮だし、受賞して本になったら、読者もそういう読み方をするはずだから。


 最終候補にまでなれなかった中にも、強烈な印象を残している作品が過去にいくつもあり、場合によっては受賞作よりもずっと記憶にとどまっている。それらの共通点は「個性」と「世界観」。オリジナリティーを極めること。


 第十四回受賞者三人は、応募作を一か月で書き上げた。長編だからといって肩に力を入れる必要はない。長編は自由に書けます。寄り道、アンバランスを恐れずに。


 小説最大の武器「イメージ喚起力」を生かし、言葉だけで未知の世界へ連れて行ってほしい。終わりを気にせず、ツカミでできる限り大風呂敷を広げること。キャラクターを疾走させること。途中失速してもいいから、最後まで走り切るように。


 冒頭の掴みも大切ですが、いま何を書けば、世に受け入れられるか「テーマ」をよく考えること。読む相手は編集者だけでなく、その先の読者を意識すること。読了後の感情の変化(感動、切ない、驚きなのか)、その物語を一言で説明するとどのような話なのかを意識してご執筆するように。


 一度読んだら頭から離れない話が読みたい。ジャンルを問わず、少しくらい矛盾があっても、ラストまで描ききって欲しい。自分自身で読み返したときに、なんて面白いんだ、と思える物語にすること。まず、自分を楽しませることを目標に頑張ってほしい。


 フィジカルに小説を読むので『あいうえお」が秀でているものに弱い。『あたらしい』『いじらしい』『美味い』『エモい・エロい』『オーソゾックス』。『あ』と『お』は矛盾しているが、昔から小説(物語)の大筋には、新しい王道が求められている。


 新人賞はジャッジではなくスカウト。応募者のポテンシャルと将来的な可能性をみている。だから完成された百点満点の作品である必要はない。この先、何年も何十年も読者を楽しませてくれる小説をともにつくっていける新人を求めて、応募作をぜんぶ読んでいる。



◆オール讀物新人賞・歴史時代小説ではどんな作品が求められているのか、編集者たちがいろいろ語っています。


 多くの編集者は、「興味を惹かれる設定か」「キャラクターが立っているか」「ストーリー展開が面白いか」の三つの視点で原稿を読んでいる。三点ができた上で、「独自のテーマが浮かび上がるか」があれば、なお良い。


 歴史時代小説の場合、設定で個性を出せるのも大きな特徴。

 誰もが知る織田信長を書いても、こういう描き方をするのかと唸らされると高評価となり、ほとんど知られていない面白い人物を見つけてきた場合も「こんな人がいたのか」と評価が上がりやすい。


 木下昌輝の『炯眼に候』では、周囲から信長を描くことで作者にしか作り出せない信長像になっている。坂井希久子の『江戸彩り草子』シリーズの主人公の仕事は、現代でいえばカラーコーディネーター。「もし江戸時代にこんな職業があったら」という視点が新しいし楽しい。


 掲載される新人賞の選評を読むのもいい。傾向と対策を学ぶという意味ではなく、選考委員は小説をどんな視点で読んでいるのかを知ることで、自作に足りないところ、さらにレベルアップさせる部分がわかることもある。三度目の最終候補で受賞した高瀬乃一は、「選評を読んで、次に乗り越えるべき壁がどういったものか知ることができた」と語っている。


 何度か最終候補に挙がっての受賞だった坂井希久子も「小説家講座に通っていた時期に、毎回他の方が書かれた作品の選評を自分の次の応募作に活かした」とインタビューで答えている。


 いろいろな本を読むことも大切。歴史小説の場合、文献を読み解く力が必要。それによってディテールを面白くできる。また、小説をたくさん読むことで、自分が書く作品を客観視できるようになる。



◆ポプラ社小説新人賞が求めるのは、広義のエンターテインメント小説です。ジャンルの縛りはなく「面白ければいい」視点で選考しているので、過去には時代小説から青春小説まで、様々なジャンルの作品が受賞しています。

 一次選考から編集者が全ての原稿に目を通しており、二次選考以降は、選考ごとに一つの原稿を複数人が読んで審査をしているそうです。

 選考するうえで一番恐れていることは、輝く才能を見落としてしまうこと。それだけはあってはならないと強く思っているため、書き手同様、読み手も全力で読んでは各作品のレポート(良かった点、悪かった点、改善できる点など)を提出、選考会を行っています。

 各選考から最終選考に至るまで、通過する原稿の本数は決まっておらず、良い作品をすべて残すルールだが、毎年同じような本数に絞られていくといいます。

 そんなポプラ編集者たちが原稿のどこを見、何を見ていないのかをいろいろ語っています。


★応募原稿の「どこ」を見ているか


 単純に面白いか。オリジナリティを持った作品か。作家としての資質・将来性を見るようにしている。


 小説のテーマ性。その著者にしか書けない、ならではのオリジナリティ・視点のユニークさがあるか? キャラクターの魅力。読者の共感性があるか。市場性。


 文体やキャラクターやストーリー展開など、どこか一つでも、その人なりのオリジナリティが感じられるかどうか。読んでいる最中に、感情の動く瞬間があるかどうか。


 喜びや感動などプラスの気持ちで心が動かされることはもちろん、プラスではなくても、他者への想像力を掻き立ててくれたり、味わったことがあるけれども名前のついていなかった感情に気づかされたりする作品が好き。その中でも、読んだ後、世界がよく見える、希望のある作品だと、多くの人に読んでもらいたい気持ちが湧くもの。


 文章力。読みやすさはもちろん、共感性が高い表現だったりリズミカルな文章だったり、その人の持っているものが出ているもの。

 登場人物のキャラクターがしっかりできているか。共感できたり好きだと思えたりする部分があると良い。


 読者に対する「目」を持っているかどうか。「自分」が書きたいものを楽しく書くだけでなく、「読者」にとって楽しい作品にしようという意識があるか。

 テーマ、設定、キャラクターなど、「読者を楽しませてやろう」と思えば思うほど、似ている作品との違いを作ろうとしたり、あの本より面白く作ってやろうと悩んだり、たくさんのたくらみが生まれた結果として、オリジナリティにつながっていく。



★応募原稿であんまり「気にしていない」部分


 文章表現の巧さなどテクニックの部分は重視しない。

 多少の誤字脱字は気にしていない。(無いほうが絶対にいい)


 原稿自体の完成度は見ていますが、それだけを判断基準にはしていない。改善できそうな粗さだったらあまり気にせず、むしろオリジナリティや熱量を見ている。


 文章の上手い下手は気にしていない。改稿する中で必ず良くなる。風景描写や心理描写、会話などは、最初の読者である編集者と話し合ってバランスを調整すると、読みやすくなる。


 細かい部分の粗さはマイナス評価にならない。(整えて応募したほうが絶対にいい)



◆まとめ

 これらの賞に限らず、どの新人賞も万全の態勢で良い作品を見つけようとしているはずです。参考にして新人賞に応募しよう。

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