童話の書き方・7

■各童話や児童文庫の募集


 子供が児童書には、原稿枚数と大人の向けの濃度によって、四つに分類できます。

 枚数は五枚から三十枚ほど、小学校低学年から中学年向けで子供向けの内容のものが「童話」。大人向けのものが「大人のメルヘン」。

 五十枚から三百枚、小学校中学年から高学年向けのものが、「初年少女小説」。大人向けのものが「大人の小説」という具合です。

  


★講談社児童文学新人賞

 講談社主催。小中高生対象の児童文学。三十~三百枚。

 小学校高学年~中学生向けが、入選作品の多数を占める。講談社児童文学新人賞は、同社創立五十周年を記念し、一九五九年(昭和三四年) に創設。タイトルに新人賞とあることからもわかるように、児童文学の新人を発掘するために始まりました。

 募集しているのは小学校一年生から高校生までが読める児童文学。枚数は三十枚~三百枚と幅があります。

 三十枚は枚数的に幼年童話になり、三百枚は中高生向けの小説になります。

 講談社によれば、「応募の際に種別(童話、少年少女小説、ファンタジー、SF、推理小説、探検冒険小説など) を書くことになっているが、種別に分けて審査し、バランスを考えて最終候補作を選んでいる」という。

 予備審査は外部にも依頼するが、基本は編集部が総出であたる。


 中高生向けといっても、書き方自体は大人の小説と変わらない。 とはいえ、児童文学なので内容は大人の小説とは異なり、同じ中高生向けのライトノベルや、いまを生き延びることを語るヤングアダルト文学とも違います。

 たとえば、性を扱う場合でも、なんらかの必然性があり、小友たちにテーマを伝えるためには仕方ない、と納得させるものであってほしいです。

 新人賞を受賞すると担当編集がつき、講談社から刊行(一部佳作も) され、晴れて作家デビュー。編集者が次作、次々作を書くべくアシストしてくれます。


 過去の受賞作を見ると、小学校高学年~中学生を対象としたものが多い。幼年童話の受賞作もあるが、数は少ない。

 受賞作のレベルは高く、「これが受賞作?」と疑うような作品はありません。


 講該社児童文学新人賞は、児童書を扱う出版社の講談社が主催するだけあって、有名な童話作家を多数送り出しています。

 第一 回受賞者は「モモちゃんシリーズ」で有名な松谷みよ子さん。

 第二回は、童話賞の審査員や童話の指導者としても有名な立原えりかさん。第四回は岩崎京子さん。第九回は森山京さん。第二十七回は斉藤洋さん。第三十一回の森絵都さんのように、その後、直木賞を獲った受賞者もいます。

 歴代受賞者と受賞作のレベルは、その賞のレベルと言えます。



★ポプラズッコケ文学新人賞

 ポプラ社主催。小学校中・高学年から中学生が夢中になれるエンターテインメント小説。百八十から三百枚。

 冒険、ファンタジー、恋愛やスポーツなどの青春もの、ホラーやSF、謎解きミステリーなど、児童文学のジャンルは幅広い。

 現代の子供たちが抱える悩みや課題、LGBTQ+や発達障害などを取り上げており、時代を反映している作品が選ばれています。

「正しさ」「強さ」「チームワーク」などをテーマにした作品が評価され、剣道部の立ち上げを目指す中学生たちの物語で、これらのテーマが描かれているものが大賞を取っています。

 児童文学の新しい才能を発掘し、子供たちに夢中になれる作品を生み出すことを目的としています。



★ちゅうでん児童文学賞

 公益財団法人ちゅうでん教育振興財団、主催。

  子供たちの人間性や感受性を高める児童文学の創作を奨励し、優れた書き手を発掘することを目的としています。

 枚数は、百五十から二百十枚。

 一九九八年に中部電力が「中部電力児童文学賞」として創設し、二〇〇一年に現在の「ちゅうでん児童文学賞」に改称。

 ちゅうでん児童文学賞は、中学入試で頻出の作品が多く出題されてきました。中学入試では「他者理解」や「心の成長」といったテーマが重要視されており、これらのテーマを扱った作品が出題される傾向にあります。

 


★小川未明文学賞

 小川未明文学賞委員会、主催。 ファンタジーや現実的な物語など、子供の視点を描いた作品が多い。

 短編部門(小学校低学年向け)二十~三十枚。

 長編部門(小学校中学年以上向け)六十~百二十枚。

 小川未明の「誠実な人間愛と強靭な正義感」「詩的・象徴的なことばで心象風景」を体現しつつ、子供の心に響く物語性の高い作品を書くことが重要といえます。

 詩的で魅力的な童話、誰も書かない世界、読後におもしろかったといえる物語が求められています。



★アンデルセンのメルヘン大賞

 パン製造販売・アンデルセングループ主催。

 テーマは「身近な暮らしの中で感じたこと、感動したこと、想像したことなど」とされています。

 一般部門は二十枚まで。子供部門は二枚から五枚まで。

  ジャンルとしては、ファンタジーや寓意物語が中心で、子供向けだけでなく大人向けの作品も多数含まれています。

 主なテーマとしては、善悪の対比、人間性の探求、社会批判などが挙げられます。作品には、現実世界と非現実世界の融合や、登場人物の内面描写が特徴的です。



★グリム童話賞

 グリムの里いしばし主催。テーマは毎回変わる。十枚以内。

 小学校中学年・高学年向けメルヘン。

 栃木県石橋町(現下野市)は、グリム兄弟が生まれたドイツ・ヘッ セン州のシュタインブリュッケン村と姉妹都市であり、夢とロマンのまちづくりを目指し、グリム童話賞が創設された。

 グリム童話には残酷な話もあるが、応募要項には「誰もが楽しんで読める童話」とあり、読後感のよいものが求められている。

 過去の受賞作から傾向を探ると、第十七回はファンタジーで、小学校高学年向き。第十六回は両親が離婚、姉妹が離れ離れになる直前の切ない話。

 全体的に読者対象は高め。大人のメルヘン的な作品や、切なくて、でもどこか救いのある作品でも受賞可能。



★新美南吉童話賞

 愛知県半田市教育委員主催。創作童話。七枚。

 作風はほのぼの系か、しみる系。全体に小学校中学年向けが多い。

 新美南吉童話賞は、当初は半田青年会議所が創設。その後、一九九四年に新美南吉記念館ができたことから、同館が賞の運営を引き継いでいる。

 二〇一五年からは自由創作部門のほか、新美南吉童話賞ならではの特色を出すため、新美南吉オマージュ部門を創設。

 オマージュは「尊敬」という意味で、尊敬の念で模倣する。ただし、南吉童話のストーリーをまねるのでも続編を書くのでもなく、南吉童話に触発され、根底に流れるものやタッチを踏襲した作品を指す。

 全部門の審査は、地元知多管内の小中学校教諭、元教諭によって行われる。第二十九回の場合、予選で一七九〇編を三十七編に絞り、最終審査は童話作家、児童文学者(浜たかや、酒井晶代、富安陽子、藤田のぼるの四氏) が行った。


 規定枚数七枚は幼年童話だが、過去の受賞作品を見ると、小学校高学年まではいかないが、小学校中学年ぐらいを読者として想定している作品が多い。分かち書きをし、オールひらがなのような幼年童話は見当たらない。

 作風は、第二十九回「家の灯り」は空き家に新しい家族が来る温かい話。第二十八回「書き足し和尚」は「石」に「少」と書くと「砂」になるというアイデアの、どこか昔話風の話。第二十七回「森の図書館」は、命を削ってでも読書を続ける虫たちという深い話。

 新美南吉を意識するせいか、どこかほのぼのした話、もしくは切なく胸にしみる系の話が多い。荒唐無稽の楽しいばかりの作品はない。


 新美南吉 一九一三年生まれ。愛知県出身。幼くして母を失い、養子に出されるなど寂しい幼少期を送る。中学生時代から創作をはじめ、十八歳で 「ごんぎつね」 を書き、二十九歳で逝去。代表作、「ごんぎつね」「手袋を買いに」「おじいさんのランプ」「飴だま」「うた時計」など多数。



★日本新薬こども文学賞 物語部門

 日本新薬主催。絵本の原作となるような童話。六枚以内。

 明るく楽しい幼年童話が受賞する傾向。

 日本新薬こども文学賞は、絵本の原作となるような童話を募集。子供の部と大人の部があり、第九回は子供の部の受賞作が全体の最優秀賞になった。

 第十回は夏休みを意識して九月締切だったが、第十一回からは二月締切に戻る。


 絵本になるので、幼年童話と見ていい。賞創設当時の数回は心にしみる系の話が多く、第一回受賞作「おんぶおんぶ」は、おばあさんにおんぶされている太郎を見て、動物たちがうらやましくなるという心温まる話。

 その後はシンプルに楽しく、子供が喜びそうな話が受賞している。傾向が続くかはわからないが、問われるのは独創性であること。



★日産 童話と絵本のグランプリ 創作童話部門

 大阪国際児童文学振興財団主催。創作童話。五~十枚。

 文章的にもグレードは幼年童話。日産童話と絵本のグランプリの選考査員は、あまんきみこさん、富安陽子さんなど。

 応募作品はまず予選にかけられ、それを突破した約五十編が本審査会にまわる。本審査会では各審査員がA・B・Cとランク付けし、議論を尽くして入選者を決める。


 対象年齢は幼年童話に近い印象。受賞作が、絵本の単行本となって出版されることと関係があると考えられる。絵本とするならば、絵本を読む年代に向けた作品を選ぶということ。オールひらがな。内容も、小学校低学年でも読めるものになっている。



★家の光童話賞

 家の光協会主催。農業・食べ物・ふるさと・自然を題材にした内容。五枚以内。

 読者対象は就学前後の子供。

 家の光童話賞は、JA (農業協同組合) グループの家の光協会が主催。

 農作業や食卓など日々の暮らしを通じて感じたことや考えたこと、子どもに伝えたいことを、「農業・食べ物・ふるさと・自然」を題材にして書く(昔からその士地に伝わる民話は不可) 。

 童話の読者対象は、小学校就学前後の子供。つまり、幼年童話。


 農業やふるさとを題材にすることから、ほのぼの系の作品が多い。

 幼年童話なのでわかりやすい話がよく、夢や希望、優しさ、温かさ、勇気があり、元気が出る、心に響くものがいい。加えて、大人になってからもう一度読み返したくなる作品であれば、なおよい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る