童話の書き方・6

■長編と短編


◆長編は全体、人間を書く


・短編を伸ばしただけでは長編にはならない

 長編は、小学校低学年や中学年では読み切れない枚数なので、読者対象は小学校高学年以上となります。

 小学校高学年、中学生、高校生を対象とした長編は一般的には童話ではなく児童文学ということが多いです

 短編は断面、局面を書きます。

 大木を人の一生とするなら、人生すべてを書くのではなく、人生の一瞬を書く。経歴や履歴もあるだろうが、それらは読み手の想像に任せます。

 長編で失敗してしまうのは、短編の骨格をそのままに文章を増やすから。それをすれば話が間延びし、進行を止める長い描写、詳細な説明が増えてしまい、読む以前に書き手が飽きてしまう。だからうまく書けなくなります。


・事件や出会いを通じ、人間を描く

 ごく短い話なら一つのアイデアだけで書けます。

 長編は、登場人物、舞台背景、時代背景をきちんと決め、構成、構造も考える。設計図を引き、ビジョンが鮮明であれば、途中で躓くことも少ないです。

 短編は場面の切り取りであり、長編は人間を描くこと。

 一つや二つのアイデアでは間に合わず、人間一人を書き切るためには、さまざまな事件や出会い、環境や成長を書かなくてはならない。事前にプロットを作り、さまざまな要素を盛り込むことが必須となります。



◆長編を書く五つのポイント


一、主人公の目的を明確に

 主人公の目的がはっきりしていないと話がまっすぐ進まず、ストーリーがあらぬ方向に行ってしまいます。そうなれば、結末がどこになるのかわからず、途中で行き詰まるでしょう。常に「主人公はどうしたいの?」を考えること。


二、サブプロットを設ける

 メインプロットは一番重要な問題を扱う。サブプロットは、それを補うもの。メインだけでは単調となってしまいます。ケンカしている二人が遭難すれば、帰還できるかがメインプロット。和解できるかがサブプロット。長編には、サブプロットが複数あります。


三、敵やライバルを設定する

 物語には主人公と協力者(味方) 、敵やライバルは必須。それらが強力なほど盛り上がります。

 ただし、敵も魅力的に描き、その障害を乗り越えさせます。

 敵とは人物である必要はなく、目の前にある悩みや問題であってもいい。


四、章立てをする

 大人の小説は、最後まで切れ目なく文章が続く作品もあります。

 子供向けでは、途中で休ませないと息が続きません。章立てする必要がある。長く続くと思考も整理できず、読むのが嫌になってしまいます。この配慮も、子供向けならでは。


五、ときどきまとめる

 大人の推理小説でも、事件が入り組んだときは刑事が話をまとめるが、子供向けの長編では、それが顕著となります。

 主人公が、「みんな混乱しているから、これまでのことをまとめよう」と言い出すのは読者への配慮であります。



◆長編は寄り道しながらラストへ


 短編は一直線にラストに向かっていく。

 長編はあちこち寄り道しながら、ラストに向かっていく。

 逆にいえば、長編も短編も、ストーリーラインは一本。


 短編の構成 起承転結

 長編の構成 起承承承転転転転結


 長編では、複数の承や転の中に、ミニストーリーが入っています。ミニストーリー(章、あるいはいくつかの章のまとまり)が、たがいに関連し合い、作品全体の起承転結に関わるようにします。この感覚は、連続テレビドラマなど、構成に注意しながら見ればつかめるでしょう。

 一話一話は、それぞれのストーリーになっているが、各話のラストには必ず、次回への「引き」が入っています。

 最終回には、大きな意味でのストーリーが解決します。

 この「寄り道」がブロックのように組み合わされて大きなストーリーを構成されているのが長編である。長編ドラマをみながら、この感覚を身につけること。

 くれぐれも、自分の思いのままに書いたりしないこと。

 長編では、常に読者の興味を引く仕掛けを考えなくてはいけません。


 主人公の目的実現に向かって、ひとつの大きな流れ(起承転結)があり、各ブロックの一話、二話、三話……の中にも起承転結があり、そこだけでも面白く読め、続きも読みたくなるように作るのが、長編を読ませる秘訣です。



◆陥りやすい落とし穴


・物語が動かない

 童話では、重厚な描写は必要ありません。もたもたしていると、あっという間に規定枚数になってしまいます。

 冒頭で、いつ、どこで、誰がを書いた後、展開を進めると小気味よくなります。

 急ぎすぎは良くないですが、もたついていると思ったら、物語を動かしましょう。


・出来事を通していない

 作者の目線で説明しているという意味です。

 あらすじのような書き方をしてもいい場合もありますが、物語を書く場合は、出来事を再現するようにしたほうが、リアリティーがでてきます。


・テーマを説明してしまう

 最後の一行で、テーマを説明する作品もありますが、説明して伝わるのならば物語の形は誰も取らないでしょう。

 人の思いは、説明して伝わるものではありません。

 説明されれば、頭で理解できても、心には伝わりません。

 ではどうするか。

 作者が感動した、共感した、心が動いた出来事を書き、読者に読ませることで同じ体験を共有させるのです。

 説明は不要です。

 解釈は人ぞれぞれ。読んだ人に委ねればいいのです。


・登場人物が多い

 いてもいなくてもいい人物は登場させません。

 別の人物が役割を兼ねられるならば、余計な人物は切ります。

 対象年齢が低いほど、人物の数を減らします。

小学生低学年以下なら、できれば二人がいいです。三人でもいいですが、少ない人数で成り立つ話がいいです。

 多いと、ややこしくなります。

 高学年向けになれば、登場人物は増えていきますが、いなくても話が成り立つのであれば切りましょう。


・枚数の感覚

 主人公と登場するすべての人物、何年にもわたる長い時間を扱おうとすると失敗します。短編や掌編ならばなおさら書ききれないでしょう。

 一般的に、長編と短編小説をたとえたとき、大木や魚で表すことができます。

 大木や、魚丸ごと一匹を書くのが長編小説です。

 木を切って切り口を見せる、魚をさばいた切り身が短編小説です。

 童話も同じです。

 五枚なら五枚、十枚なら十枚に見合った大きさに切り取るのです。

 物語の大きさと枚数が合っていない場合、初めから考え直してください。

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