童話の書き方・5

■ストーリーにアイデアは必要

 

◆作るにはアイデアが必要


 真理の発見に近く、気づいていないだけで、アイデアは至るところにあります。目の前にあるものを見つけ、つかめば良いのです。

 以前おいしかった食べ物を久しぶりに食べると、そうでもなかった。食べないでいると、記憶の中で美味しさが増加するかもしれない。ごちそうを食べさせてあげると言われたが、アンパンだった。ごちそうとは、人それぞれなのかもしれない。

 そうした体験も、アイデアになります。


・アイデアを組み合わせる

 アーモンドチョコレートを初めてみたとき、チョコレートの種が入っているといった。猫の瞳はカメラのレンズに似ている。一人で留守番ができるなどなど。

 大小さまざまなアイデアを見つけ、メモして留めておくのです。そうすれば、必要なときに自然と出てきます。

 

・目の前の現実を変化させる

 現実にあるものは、ごく普通なものばかりです。

 空想や妄想を膨らませれば、面白いことに変化することもあります。空から雨ではなくブタが降ってきたら? ある町に行くと必ず眠たくなるのはなぜ? 

「もしも~だったら」を考え、自分だったらこう考える、と想像の翼を広げることで、アイデアが膨らんでいきます。



◆ストーリーチェックのポイント


・テーマが浮かぶか

 読後にテーマが立ち上ってくるかを考えます。

 話の筋道が通っていない、話が蛇行しすぎる、複雑すぎる。そんなストーリーだと結末を読んでもピンときません。あらすじを読んでも、伝えたいことがわかるようになっていることが大切です。


・削る場面はないか

 なんでも詰め込んでしまいたくなりますが、三百枚では大河ドラマは無理ですし、短編では人生の一瞬しか書けません。

 その作品のテーマに関係しないもの、結末につながらない場面などは削ります。


・子供向けか

 いいストーリーでも、子供向けでなければならないし、子供が楽しめる内容でなければなりません。

 文学であれば娯楽として楽しませるだけではなく、背後にテーマがほしい(あまり前面に出しすぎないこと)です。



◆ストーリー着想のヒント

 すでにあるものから、発想を膨らませていきます。


・格言から考える

 実体験からアイデアを発見する逆。すでにある格言、たとえば「覆水盆に返らず」をもとに場面を考え、格言がタイトルになるようなストーリーを作る。


・絵画を挿絵だと思う

 有名な絵画だろうと子供が書いた絵でもなんでもいい。それが挿絵だったら、どんな物語だろうかと考える。いい絵は背後にストーリーがある。それを想像する。


・歌詞をストーリーに

 歌詞にはストーリーがあるので借りる。自分の童話の主題歌だったら、と考える。ストーリーをそのまま使うより、歌詞のフレーズから着想を広げていく。


・言葉を組み合わせる

 辞書などの中から適当に言葉を選ぶ。それが「傘」と「赤」なら、そこから「頬を赤く染めた傘」のように言葉を作り、それって何? どうしてそうなった? と考える。


・結末から逆算する

 空港、駅、公園、泣きながら手を振る人。ある場面をラストシーンにするなら、それは誰で、なぜ泣いているのか、なにがあったのかと話を遡っていく。


・もしも……と考える

「もしも……だったら」と考えるのは空想童話の基本。

 オオカミの耳が突然大きくなったらどうなるか、それで? それで? と、どんどん続きを考える。


・プロップカード

 ロシアの民俗学者ウラジーミル・プロップが民話の形態を構造領域と機能で分解した「プロップのカード」がある。

 行動領域とは、「敵対者(加害者)」「贈与者」,「助力者」「王女(探し求められる者)とその父」「派遣者(送り出す者)」「主人公」「偽主人公」七つの登場人物が用意されている。

 機能とは、「留守もしくは閉じ込め」「禁止」「違反」「捜索」「密告」「謀略」「黙認」「加害または欠如」「調停」「主人公の同意」「主人公の出発」「魔法の授与者に試される主人公(贈与者の第一機能)」「主人公の反応」「魔法の手段の提供・獲得」「主人公の移動」「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」「狙われる主人公」「敵対者に対する勝利」「発端の不幸または欠如の解消」「主人公の帰還」「追跡される主人公」「主人公の救出」「主人公が身分を隠して家に戻る」「偽主人公の主張」「主人公に難題が出される」「難題の実行」「主人公が再確認される」「偽主人公または敵対者の仮面がはがれる」「主人公の新たな変身」「敵対者の処罰」「結婚(もしくは即位のみ)」など人物の行為を示したカードで、全部で三十一枚あある。

 そのうちのいくつかを拾い、それにそう物語を作っていく。

 登場人物は、カードを使わなくとも、自分で考えてもいい。

 たとえば、主人公は女の子と決める。

 両親は出かけてしまう(留守) 。そのとき、火を使わないよう言われる(禁止)。しかし、お腹が空いたのでガスに火をつける(違反) という具合にお話を作っていく。

 カード選びで、思いもかけない面白いストーリーができるかもしれない。


・出会いや体験から

 人との語らい、新聞、ラジオ、人の多い場所、電車で耳に飛び込んでくる会話、教室での発見。どれもネタになる。

 なにより、自分自身の体験がネタとなる。

 いままで一番悲しかったこと、悔しかったこと、失敗したことなど。唯一無二の体験からネタを探そう。



◆アイデアを評価する

 思いついたアイデアを評価するポイントは三つ。

 

・使えるかどうか

 アイデアの中には、童話として使えないもの、組み合わせないとストーリーに使えないものもあります。

 

・子供がどう受け止めるか

 面白いアイデアでも、子供が関心を寄せないものでは意味がありません。

 子供心がわかるには、子供になること。

 子供だったときのことを思い出すでもいい。

 子供を観察すると、大人とは違う感覚を持っていることがわかるはずです。


・どのグレードに向いた話か

 アイデアと作ろうとしている対象年齢が違っていると失敗します。

 

★アイデアだけではお話にならない

 思いついたアイデアが万人に共通すれば共感を得やすいですけれども、そのままでは格言になれても、童話にはなりません

 まず、アイデアを場面化します。ストーリー作りの最初の段階で、必ずしも起承転結を考える必要はない。自分が一番面白いと思うシーン、書きたいシーンを思うままに書く。

 つぎに冷静となって、キャラクターや舞台について考える。主人公はどんな人(動物)で、ふだんはどんな暮らしをしているのか。主人公はなぜそのシーンにいることになったのか。そのシーンの場所はどんなところなのか。一つ一つたどっていく。

 そこに至る経過を自問自答し、書きたかったシーンに至る過程をたどりながら決めていくと物語の書き出しが見えてくる。

 同様に、このあとどうなっていくかを考えていく。

 このときにはキャラクターや舞台設定がある程度できているので、あとの展開は比較的楽なはず。あとは中身を詰めれば、起承転結や序破急などの構成に落とし込めばいい。

 どこからどう書き出し、どう読者を引き込むか。どう話を自然に運び、どこを山場とするか。最終的な落としどころをどうするか。さらには主人公の目的は何で、伝えたいメッセージは何かを考えます。

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