童話の書き方・4
■応募のための童話の書き方
・対象年齢で書き分ける
募集内容に「小学校低学年向け」とあるなら、大人でないとわからない難しい話を書いても入選しません。
言葉が難しいだけでなく、子供にはなじみのない題材を扱ったものも同様です。
なじみのない題材を描く場合、たとえば長期入院をしている子や、障害のある子を主人公にしたもの、生活苦のある家庭環境の子供の話であっても、その中でなじみのあるテーマを見つけ出して描くことができます。
灰谷健次郎など、すでにある作品群を参考にするのも一つの方法です。作品を読みながら、いまの時代に適した書き方、作者なりのものの見方なども大切になってくるでしょう。
また、子供と一口に言っても、いろいろな子がいます。小学生でも、低学年と中学年と高学年では知識も知能も違うため、書き方や内容も変わってきます。
書いた作品が、どの年齢に適しているのか、よく考えてから応募先を選んでください。応募要項には「対象年齢の規定」が書かれています。
書かれていない場合は枚数から、ある程度図れます。
五から十枚なら小学校高学年向けではなく、小学校低学年か小学校中学年向けです。
もちろん、五十四文字の小説、五分で読める小説など、高学年以上でも楽しめる作品もあります。
枚数は、あくまで目安です。応募要項をよく読み、応募先から刊行されている作品を読んで、どんな傾向があるのかを知っておくのも大切です。
・枚数が同じでも賞の傾向は違う
童話は子供のためのお話です。
とはいえ、必ずしも子供向けではない作品が選ばれることもあります。
「アンデルセンのメルヘン大賞」、「グリム童話賞」は作品集を書店で販売するわけではありません。おまけに、対象年齢は設定されておらず、作品集の主たる読者は大人です。そのため、大人テイストの作品が受賞したり、入選していたりします。
「日本新薬こども文学賞」や「日産童話と絵本のグランプリ」は、受賞後に絵本として単行本化します。対象年齢の設定もされておらず、子供も大人も読める作品を求めています。子供の定義は、幅広く考えることができますが、子供が含まれています。ですから、大人のメルヘン風、大人のエッセイ風の作品が受賞することはまずありません。
児童書の出版社が受賞作を刊行する場合、想定読者を無視して受賞作を選ぶことはないのです。
応募の際は、どんな読者層を想定しているのかを確かめください。
・昔話やおとぎ話は童話か?
童話といってもいろいろあります。
戦前の童話の代表格は、夏目漱石の門下、鈴木三重吉の「赤い鳥」です。それ以前の童話には教訓色が強かったのですが、三重吉は、芥川龍之介や有島武郎にも原稿依頼したため、以降の童話は芸術性が高かったのです。
ですが、この頃の童話は子供に向かって書かれたのではなく、作家の自己表現が強かったのです。
芸術性が高ければ高いほど、子供にはわからないような大事や、大人の鑑賞に過ぎない童心主義の作品も見られ、読者は離れていきます。
戦後、吉田足日などから童話伝統批判が始まり、現代児童文学が始まります。
戦後、大衆的童話は漫画に取って代わられますが、子供を楽しませる流れはいまにもあり、それがエンターティメント的な児童書です。児童文庫もこれに該当するでしょう。
表紙は今風で、小学生が手に取りたくなる趣向です。
一方、純文学的児童書の多くがハードカバーで、しっとりとしたデザインが多いです。
童話には二種類あり、企業や自治体が主催者である童話賞では純文学的童話を求めている傾向があります。とはいえ、童話の未来を切り開くような、既存の概念を打破する作品を募集しているわけではありません。子供に受けたとしても、笑えるだけで深みのない作品は受賞しにくいです。とはいえ、企業で募集しているところはそれぞれのカラーがあるみたいなので、歴代の作品を読んで傾向を掴んでおくと良いでしょう。
「むかしむかしあるところに」からはじまる、おなじみの昔話形式も童話に入ります。ですけれども、教訓色が強く面白くないので、応募作品には向きません。
動物が出てきてもいいですが、人間では語りにくいなどの必然性がなければやらないほうがいいです。
・過去の名作に頼らない
古い童話にはネガティブなもの、宗教の戒めのような残酷な話、子供にはやや難しいものもあります。残酷な体験をしないまま大人になると、なにが残酷なのかわからないから酷いことを平気でしてしまうから残酷話は必要だとする考えもあります。
そういう話は、プロになってからすればいいので、新人賞の応募には適しません。
また、時代性も考え、何を手本とするかはよく考えてください。
・タブー
読者対象の年代にもよりますが、小学校高学年以上を対象とする作品なら、母子家庭、いじめ、自殺、セックスはタブーではありません。
ただし、いたずらに扱うのではなく、読み手を納得させられる意図と必然性、いい読後感は必要です。
・大人の小説との違い
描写の量が違う。
大人は描写を手がかりに情景を推測し、味わうことをする。
それより子供は話が進行することを望む。
とはいえ、場面をいきいきと再現する描写は必要なので、簡潔に効率よく描写するといい。
・物語の視点
特定の人物の視点で語ったほうがわかりやすい。神視点でもいい。しかし、Aというキャラクターの内面を書いたあと、今度はBというキャラクターの内面、というふうにコロコロと視点を変えられると混乱する。誰が語っているか明確にすることが大事。
・文章は短く、表現は高く
読めば意味が頭にすっと入ってくる文章であること。
童話は簡潔でわかりやすいことが鉄則。
まず一文が短い。短いだけでなく、最初に概略を示し、各部分へ視点の移動をスムーズにし、変に凝った表現も、無駄な挿入句もしない。
何が書かれているのか考えなくとも、すっと頭に入ってくるよう書かれている。書く順番、表現方法もわかりやすさに影響する。
・子供の主人公による自然な語り
一人称で童話を書く場合、すべての説明は主人公の子どもが語っていることになる。
大人の小説なら難しい表現で書いてもいいが、小学校低学年が語っているのならば違和感がある。自分の目で描写するほうが自然。しかし、難しい言葉を使わなくてはならないとき、言葉の説明を添えると、主人公に説明ができることが不自然に感じることもある。そんなときは、「……と、お父さんが教えてくれた」のように書く方法がある。
・文章が短いからこそ、効率の良い表現を
オノマトペ(擬音)をへたに使うと幼稚な印象になるが、擬音は少ない文字数で高い表現効果を得られるので便利。また、一種の比喩である擬人法も、これも短い言葉で霧雨の状態をよく表している。
・童話賞の特異性
童話賞には審査員がいます。
つまり、子供に向かって直接書くわけではないのです。もちろん、子供のためのお話なのですが、その前に大人である審査員に認められなければならないのです。
大人である審査員が良しとするならば、程度によりますが、子供にわかりにくい表現が一部あったとしても、さほど問題ないといえるのです。
審査員にはどんな人がいるのかも、考えたほうが良いです。
厳選するといっても、一人ひとりの審査員の童話感はそれぞれ違います。
また、賞を設立した趣旨があります。いくら作品に書いたテーマがよくても、合致していないのでは入選しようもありません。
傾向は深く考え過ぎないほうが良いですが、まったく違うことも避けなければいけません。
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