童話の書き方・3

■子供に向けた文章

 童話は、うまいよりも「わかりやすい文章」が優先されます。


・童話の文体

 ですます調(敬体)で書かれた作品が大半を占めています。

 響きが優しく、子供たちにもわかりやすいからです。

 とはいえ、必ずしも敬体を使う必要はありません。

 である調(常体)を使えば、落ち着きのある、力強い印象を与えることができます。

 それぞれの特長を活かして、テーマや題材によて使い分けてください。

 主人公がたくましいなら、力強さを出せる常体にしてもいいです。可愛らしい動物や昆虫が主人公なら、敬体が適しています。

 ただし、一つの作品に敬体と常体をまぜて使ってはいけません。

 たとえば、敬体で書かれているのに、接続詞に常体の「だが」「しかし」を使ってはいけません。「でも」「けれど」を使ってください。

 敬体の場合、文末の工夫が必要です。

「でした」「ました」だけでは単調になってしまいます。「でしょうか」「でしょう」「かもしれません」など、問いかけやソフトな断定、推定形などの組み合わせも考えてください。

 常体の場合、「~た」「~だ」「~である」など、断定表現ばかりを多用しないこと。押し付けがましい文章を子供は嫌います。

 時間があれば、敬体と常体、二通り書いてみて、どちらが適しているの判断してください。

 

・漢字を多用しない

 小学一、二年生までを対象にした作品なら、その学年で習う漢字以外は使わないようにすれば迷わないでしょう。

 何年生がどの漢字を習うのかは、小学生向けの国語辞典のあん松屋、文部科学省のホームページの、学年別漢字配当表などを参考にしてください。

 出版されている童話の本を数冊読めば、具体的に解ります。

 学年別漢字配当表よりも少なめの使用を心がける姿勢でかまいません。

 

・一文を長くしない。

 複雑な長文は避けます。

 簡素で平明な、読みやすい文章にすること。

 すべての文芸作品に求められていることですが、童話は最新の注意が必要です。

 主語と述語を明確にしたうえで、一文を四十字以内にするのが理想です。その中で、誰がなにをしたのかが、はっきりつたわるないようにすること。

 改行も、一般の主節に比べてかなり多めに行います。

 一段落は百字以内が目安です。

 地の文と会話文の区切りさえ改行しない作品は、読まれることなくボツになります。

 とはいえ、むやみに短くするとぶつ切りとなり、意味が飛んでしまいます。

 文と文の接続が滑らかではないため、文と文の関係がわかりにくくなってしまいます。

 そんなときは、つなぎ言葉である接続詞をあえて使う必要があります。

「それから」「そこに」「ここから」など、省いても意味が通じるため、推敲では削ることが多い接続表現です。

 とはいえ、低年齢層が読者ならば、文の流れを補うためにも入れたほうがわかりやすいです。


・描写や説明を省く

 一般小説では、できるだけくわしく、正確に描写することが作品のクオリティーに繋がります。

 しかし童話の場合、読者が子供であり、短編が多いことから、無駄のない描写が要求されます。

 そもそも子供は、長々とした描写や説明が嫌いです。

 ごちゃごちゃ書くとかえって情景がぼやけます。

 たしかに、必要な説明や描写はありますが、説明的情景は、子供を退屈させるだけです。イメージ効果の高い言葉を使って大まかな部分を説明し、細かな部分は主人公の行動を通じて伝えたり、読者の想像に委ねましょう。

 物語の世界に引き込むためにも、主人公の目からみた情景でお話を進めると効果的です。


・比喩の限界

 比喩も同じです。

 大人なら、うまい比喩だと思うことも、子供には想像しがたいです。比喩の多様は、なにを伝えたいのかがわかりにくくなり、かえって逆効果です。

 ストレートに動作を書いたほうがわかりやすいです。

 また、大人相手の小説であっても、比喩の多様はわかりにくさを生みます。読者に伝わらなければ、逆効果なのは子どもと同じです。


・オノマトペ

 擬音語、擬態語のことです。

 一般的な文章では使いませんが、情感が豊かでイメージ効率も非常に高い言葉です。

 オノマトペを使わずに表現すれば、何倍もの言葉を書き連ねる必要があるところを、限らえた字数の中で効率よく表現するためにはオノマトペは必須アイテムです。

 とくに低年齢層向けの童話は、掌編にはうまく活用したいです。


・ひらがなとカタカナ

 ひらがなとカタカナの使用には一定のルールがあります。

 外来語はカタカナで書いてください。

 眼鏡の場合は、外来語ではないので「めがね」になります。

 ただし、カステラは外来語でも日本語化しているので「かすてら」でもかまいません。

 原則として、外国の国名、地名、人名、外来語、擬音、動物名、植物名はカタカナで表記します。

 決めつける必要はなく、和名を持つ動植物は、ひらがなカタカナどちらでもいいです。

 擬音語も「ばーん」「バーン」、「ドォーン」「どぉーん」どちらでも構いません。

 どちらの表現が作品に馴染むのか次第です。


・抽象的表現には注意

 抽象的表現は子供には不向きです。

 悲痛、称賛、賛美、悲哀、怒号といった漢語からは具体的な絵や映像が浮かび上がってきません。それよりは、「かなしいほど痛い」「大声でどなる」「ほおめたたえる」「あまりにかなしい」にしたほうが伝わりやすいです。

 きれいな花、おいしい食べ物、やさしく扱うといった言い方も同じです。

 どうきれいなのか、どんなおいしさなのか、どうやさしいのか、具体的にを書かないと、絵や映像が浮かんできません。

 子供に馴染みのない言葉、わかりにくい表現となります。

 これらの言葉選びは、グレードによっても変わってきます。

 ですが、年齢を重ねても、大きな言葉をつかった表現は想像しにくいのは変わりません。

 中学年以降であっても、大人であっても、伝わりづらい表現です。

 どうきれいなのかはもちろん、そもそもどんな花なのか、おいしさも大事だけれどもそもそもどんな食べ物なのか、やさしさは厳しいときにも用いることができるので状況が伝える必要があります。

 抽象的な表現に注意するのは、童話に限ったことではないです。


・言葉のダブりをなくす

 言葉のダブりが多い文章とは、同じ漢字や言い方が幾度もくり返し使われていることをいいます。推敲がたらず、練られていない印象になります。

 また、読んでいると文章が滑る現象がおきます。

 同じ漢字が何度もでてくると、読み飛ばしやすく、頭に入ってきません。結果、読みにくく、わかりにくい文となるのです。

 似たような言い回しの重複、主語の数も減らすことで読みやすくなります。ただし、誰かがわからないのでは困るので、主語を削りすぎないようにします。


・一人称と三人称

 童話では、「この人はこういう人」とは説明せず、場面を通じて表現することがあります。主人公とは、設定した性格どおりの貫通行動をする人のことです。

 一人称は、人物視点で書かれたもの。「ぼくは」「わたしは」と書いていく形式です。

 作文の延長のようで書きやすいです。読んでいる人を物語に引き込みやすく、主人公の心の中を書いていくので、地の文に書いたことがすべてセリフのようになります。

 主人公自身が語っているので、そこに大人の視点をまぜることはできないし、主人公がいないシーンも書けません。主人公の知らないことも書けません。主人公を通さず、作者の立場が書いた説明を入れることはできません。

 主人公の年相応の言動が求められます。幼児や小学低学年には、論理的な思考、三段論法をすることは不自然です。


 三人称は、作者視点で書かれたもの。主人公の名前を出して語る形式です。

 客観的に書くことができます。主人公の目に寄りかかって書くこともできるし、主人公を外側から書けるし、主人公のいない場面や作者の立場も説明できます。

 ただし、説明ばかりしていると、あらすじみたいになってしまい、出来事の再現性、リアリティーもなくなってしまいます。

 登場人物の視点を変えていると、誰の目を借りて語った視点なのかをはっきりさせないと読みにくいです。おまけに、主人公が誰かもわからなくなります。

 同化する人物がわからないと、読者は感情移入しにくいので、主人公の視点を通して書くと良いです。

 一人称と三人称、それぞれ良さがありますので、どちらがいいかはいえません。

 書き手としては、幼年童話に一人称は書きづらいです。

 未就学児の知覚を頼りにするため、表現が限定的になり、読み手にどんな話なのか、伝わりにくくなるからです。

 主人公が高学年の場合、知覚も視野も増えているので、一人称で書きやすいでしょう。ただし、物語が複雑になるほど、一人称で書くのは難しいのは、一般的な小説と同じです。

 

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