サポ限に書いていたこと28 大きな謎と小さな謎

 第八回カクヨムWeb小説コンテスト受賞作の感想を書きました。

 サポーター賞は作品が見当たらなかったので読んでいません。

 特別賞は数が多いため割愛しました。ほんとうは読みたいし、読むことでえられることは多いと思います。が、時間や余力などを考えて、主に大賞作品を読んで感想を書きました。


 今回より、歴代のカクヨムWeb小説コンテスト受賞者、および所定のカクヨム発の書籍化作家のみが参加可能な「カクヨムプロ作家部門」が新設されました。

 そのため、アマとプロの受賞作品の比較ができたことで発見もありました。

 どちらも読者を楽しませることを意識されて書かれていました。が、プロ作家さんの受賞作のほうが、より作品を味わってもらおうとされているように感じました。

 詰め込めすぎず、テンポ良く、無理なく状況を振り返ることで読み手により状況をわかりやすく伝えようとされている印象でした。

こういうところは、見習うべきポイントかもしれません。

 お時間がありましたら、受賞作を読み比べてみるのをおすすめします。なにかしら、発見や気づきがあるかもしれません。

 


■大きな謎と小さな謎

 

 ミステリー作品において、大きな謎と小さな謎を入れて作ることが求められます。

 たとえば、大きな謎として「巷では連続殺人事件が起きている」小さな謎では「主人公はイジメにあっている」といった具合に。

 一見つながりのないようにみえる二つの謎には意外なつながりがあり、やがてすべての細かい謎がより合わさって小さな謎、そして大きな謎に結びついていくなら、最高の作品となります。

 読者を物語に引き込んで読ませていくには、なにかしらの謎や事件が提示され、どう解決されていくのかを描くことが大切になってきます。

 しかも、ミステリーに限ったことではありません。

 あらゆる物語に共通します。

 第八回カクヨムWeb小説コンテストの大賞作品を参考に、どのよに用いられているのか、一つずつみてみましょう。

 それぞれの作品を読まれたほうがわかりやすいと思います。

 そんな時間がない場合、わたしの書いた感想に目を通してみてください。どんな作品なのか、感じがつかめると思います。


 

『底辺冒険者なおっさんの俺いまさらチートを持っていることに気付く 領地経営ゲームで現実も楽々ライフ』

作者 ぎあまん


 異世界転生ものの大きな謎は、どうして異世界に転生したのかなのだけれども、この謎は解かれることはないだろう。なので、主人公の持っている『ゲーム』というスキルが大きな謎にあたる。小さな謎は、主人公アキオーンがはじめて冒険者として参加したとき、怖くて戦えなかったことなど不遇の人生を過ごしてきたこと。

 小さな謎である自分自身とむきあい、大きな謎である『ゲーム』のスキルを少しずつ使いながら異世界を楽に過ごしていこうとする。そのためにもより細かい謎、クエストやイベントをこなしていく具合に作られている。

 謎といより、抱えている問題ととらえるとわかりやすい。

 


『庭にダンジョンができたと思ったら、魔物はいないし、資源も0でした。※ただし経験値だけはガンガンに貯まる希少ダンジョンらしいので、ちょっくらレベル上げして、よそのダンジョンを漁りにいきます。』

作者 saida 


 現代ファンタジーのダンジョンものである。大きな謎はダンジョンがある世界。ダンジョンができる仕組みは説明されていたけど、なぜできるのかは明かされない気がする。なので、大きな謎は裏庭にできた反転ダンジョン。小さな謎は、独り身で二週間前に会社が倒産して失業したこと。

 生活に困っていた主人公だからこそ、裏庭にダンジョンが出来たことで、ダンジョンを活用すれば稼げると思うも、なかなかそうはうまく行かなかった。だが、より細かい謎、宮陽美都の言葉を聞いてやる気を出し、ダンジョンを活用してレベル上げし、他ダンジョンを漁りに行く流れとして作られている。


 

『二度目の悪逆皇女はかつての敵と幸せになります。でも私を利用した悪辣な人々は絶対に許さない!【悪逆皇女は黒歴史を塗り替える】』

作者 緋色の雨


 異世界ファンタジーの回帰もの。大きな謎は、悪逆皇女だった主人公が断罪されて処刑されたにもかかわらず、十五歳の自分自身に回帰したこと。なぜ回帰したのかが解明されるかはわからないので、大きな謎は、第二王子ジークベルトは誰に利用されて主人公を第二王子派に引き込もうとしているのか。小さな謎は、前世で自分を利用した相手に復讐を果たせるか。

 前回の記憶とともに、大人な知識と頭脳、聡明さを持ち合わせた主人公が、自身の黒歴史を書き直すべく、より細かな謎である第二王子派が仕掛けてくる問題に対して、行動していく姿が描かれている。

 


『俺の幼馴染はメインヒロインらしい。』

作者 睡眠が足りない人


 ラブコメ✕タイムリープもの。大きな謎は、ヒロインである街鐘莉里や西園春樹がタイムリープしていること。小さな謎は主人公とヒロインが出会ったこと。どちらの謎も明かされることはないだろうし、謎というより偶然の出来事といった感じ。

 自由にタイムリープしたわけではなさそうだし、主人公は特別な力もない。真っ直ぐな心を持った少年なので、より細かな謎、主人公の素直な行動がヒロインをはじめとする心を変えていく。



『甘党男子はあまくない〜おとなりさんとのおかしな関係〜』

作者 織島かのこ


 ライト文芸の恋愛もの。大きな謎は、主人公に降りかかるストレス。無茶な仕事を押し付けてくる同僚、ネチネチと嫌味な課長、ちっとも打ち解けてくれない冷たい営業一課二年先輩の夏原栞先輩など。小さな謎は、ストレス解消のために作った焼き菓子を隣人佐久間に食べてもらうこと。謎というより、トラブルとか問題といった感じ。

 ラブコメ作品なので、恋愛要素が多く占められている。より細かな謎では、甘いお菓子にくわしい作家・佐久間との親密度を高めていく。夏原栞先輩も、佐久間の同級生でライバルになるのかなと想像する。


 

『みんなこわい話が大すき』

作者 尾八原ジュージ


 ホラー作品。大きな謎は、オバケのナイナイ。小さな謎は、ひかりがイジメられること。

 こわい話が好きなありさがイジメていたのだけれども、主人公が彼女にナイナイを見せたとき、押し入れのふすまの扉を押さえて出させないようにする細かな謎などを経て、主人公の周りの人たちの接し方がが一変していく。この先は、他の登場人物の小さな謎と、大きな謎であるオバケのナイナイがより合わさって、物語が展開されていく。



『バランスの良い山本さん、デスゲームに巻き込まれる。』

作者 ぽち


 VRMMORPG✕デスゲームもの。大きな謎は、運営がログアウトボタンを消して命をかけてゲームを楽しめと、ゲーム世界から出られなくなったこと。小さな謎は、主人公ヤマモトの『バランス』というチートスキル。

 デスゲームとなった世界で、主人公は『バランス』のskillを利用しつつ、より細かな謎であるクエストやイベントをこなしてゲーム世界を楽しんでいく。主人公がなにかする度に、『バランス』が働き、なにかしらの効果をみせてくれるのが面白い。

 


『異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。』

作者 飯田栄静@市村鉄之助


 カクヨムプロ作家さんの作品。

 異世界転生して帰還した主人公が現代で無双する現代ファンタジー。大きな謎としては、現実世界に霊能力者たちが存在し暗躍していること。小さな謎は、女たらしの幼馴染、三原優斗。

 幼馴染の三原優斗は主人公の周りの人たちを狂わせていった過去があり、関わり合いたくない。勇者として召喚され魔王も魔神も倒して帰還した主人公の力は、霊能力者たちも羨むものだったので、次第に巻き込まれていく。より細かな謎というトラブルに巻き込まれながらより合わさっていくことを考えると、幼馴染も霊能力者的な存在なのかと想像する。


 

『今まで使えないクズだと家族や婚約者にも虐げられてきた俺が、実は丹精込めて育てたゲームのキャラクターとして転生していた事に気付いたのでこれからは歯向かう奴はぶん殴って生きる事にしました』

作者 Crosis


 カクヨムプロ作家さんの作品。

 ファンタジーゲーム世界への転生もの。大きな謎は、前世で主人公自身が丹精込めて育ててきたゲームキャラクターに転生したこと。どうして転生したのかは明かされることはないだろう。小さな無蔵は、ドラゴンが相手でも簡単に倒せるステータスだったにも関わらず、反映されない設定にしてあったこと。

 反映されなかったから、家族や婚約者たちから酷い扱いをされてきたのである。反映するようにして主人公は、細かな謎である邪魔してくる相手をぶん殴って解決していく。



『外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件』

作者 霜月雹花

 

 カクヨムプロ作家さんの作品。

 ゲーム世界のような異世界ファンタジー。大きな謎は、十五歳を迎えた者は神よりスキルを複数授かること。小さな謎は、主人公アルフレッドは【経験値固定】というスキルだけを授かったこと。

 代々【複合魔法】の力を持つことが〝ノルゼニア家の証〟と言い伝えられている魔法の名家、ノルゼニア家侯爵家の長男だった主人公だったからこそ、一つしかスキルを授かれなかったことで家を追い出されてしまう。でも細かい謎としての、【経験値固定】を活用したスキル獲得で人生が大きく変わっていく。



 形は違えど、どんな作品にも大きな謎と小さな謎が含まれています。

 長編はとくに、先へ先へと読者を導いていかなくてはなりません。

 物語をグイグイ読ませるには、なにかしらの謎や事件、出来事が必要不可欠です。

 これらがどう解決するのか。

 関心を持ってもらうには、細かな謎を解決することで小さな謎により合わさり、やがては大きな謎に繋がっていくように作ることが大事になってきます。

 慣れないうちは、別々に謎を解決する話を書き、慣れてきたら、二つの謎がうまく繋げられるようになっていくでしょう。


 人生の設計にも似たことがいえます。

 まず、途方もない、叶わないかもしれないような大きな目標を掲げます。次に、その目標にたどり着くために必要な中くらいの目標を複数用意します。

 さらに、中くらいの目標に到達するために、小さな目標を用意するのです。

 いきなり大きな目標を達成することはできませんが、小さな目標なら達成するのは簡単です。

 たとえば、朝起きる、カーテンを開けるなど。そういった、簡単にできる小さな目標をクリアすることで、やる気と自信を身につけて、すこし大きな目標に挑戦していく。

 少し大きな目標をクリアすればさらなる自信となる。

 うまく行かなくても、失敗した経験から気づきや教訓を学びとり、なぜダメだったのか、なにが足らなかったのか、不足している部分を補うにはどうすればいいのかを考えては取り組み、再度挑んでクリアしていく。

 そうして中くらいの目標を達成し、次の目標を目指して、また少しずつ進めていく。

 気づいたときには、手に届かなかったかもしれないような大きな目標に達しているでしょう。

 小説もこれと同じ。

 ただ、まっすぐだと面白くないので、ひねりがあったりどんでん返しがあったり、思いもしなかった出来事が起きたり、それでも諦めずに挑んでいく姿を描いていけば面白い作品になります。


 長編に限らず、短編こそ、大きな謎と小さな謎を入れて作ってみてください。

 

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