描写しよう・2

■描写とは


 作家、島田雅彦氏は「描写とは、絵画における筆づかいや配色に相当します」といっています。

 輪郭を書いたものが説明で、色合いや色づかいが描写になります。

「豪邸に住んでいる僕は、孤独な少年だった」と書けば、言いたいことは伝わりますが、主人公が本当にいいたい気持ちだったり、動孤独なのかといった雰囲気だったりが抜け落ちています。

 安易に「孤独」を使っていいのかという問題もあります。

 たしかに孤独かもしれないけれども、別な意味合いもあるかもしれません。孤独を満喫しているかもしれないし、憂いているのかもしれない。

 説明しただけではわからないから、描写するのです。

 

 描写して伝えようと、形容詞や比喩を重ねると、かえって伝わりにくくなります。

 形容詞は言葉を飾る、まさにデコレーション。スイーツの生クリームと同じです。たくさんかければいいというものではありません。

 比喩は本来、伝えやすくするために用います。

 ですが、相手が知っているもので喩えなければ、意味が通りません。結果、わかりにくくなるのです。

 詩人、正岡子規は『叙事文』で、言葉を飾らず誇張を加えず、見たままを模写しろと書いています。

 ある出来事があったとして、別の言葉に置き換えるために伝わりにくさが生まれるのだから、見たまま、感じたままを書くのです。

 ただし、出来事すべてを書いていたら話が進みません。

 だから取捨選択をして、この描写をなぜ書くか、なぜ必要か、後の展開とどう関わってくるのかを考えた上で、余分なところは捨てるのです。



■描写の仕方


 描写は、五感を使って書きます。

 目を使って描写すると、情景が視覚的になります。

 視覚がふさがれれば、聴覚と触覚、あるいは嗅覚が鋭敏になり、描写が増えるはずです。

 季節や時間を書くときは、視覚だけに頼らず、太陽のぬくもりや鳥のさえずり、草花の香りなど、五感をつかって描くこともできます。

 場面に動きがない場合は、改行もせずにじっくり書きます。

 動きのある場面では、解説や描写は最小限にし、文書も短くして、改行を多くします。

 

 三人称一元視点、一人称の場合は、視点人物の主観、心に写ったものを書きます。

 一人の視点が書きやすいのは、みえている場面が固定されて、安定するからです。

 一人称は独善的でおしゃべりになりやすいですが、話はわかりやすくなります。

 ただし、一人の視点だと、その人物が見ているものしか描けません。相手が心のなかでなにを考えているのかもわかりません(特殊能力を持っているキャラクターなら別)。


 形状を表すとき、三角や四角、円や円柱、直方体などの図形を現す言葉が役に立ちます。

 図形との相互関係を表すときは、前や後ろ、中央や下部などの位置表現をします。

 比喩表現も有効です。

 ただし、適切であればいいですが、的を外すと読み手に変なイメージを与えてしまうので注意が必要です。

 さらに、どんな様子なのか、細長いのかまっすぐなのか、なだらかなのか先細っているのか、趣を表す言葉を組み合わすとイメージが伝わるでしょう。

 さらに量的、質的、印象を加えるとより伝わりやすくなります。

 


■描写効果


 描写を削り、会話文だけをならべた文章にすると、話はさくさく進み、読み手を心地よくさせる場合もあります。

 ですが、そんな書き方では筋しかわからず、情感もわかずに終わってしまいます。

 描写は、話を進ませるのを拒む要素があります。

 多すぎれば前に進みませんが、進みすぎるのを抑えてくれるばかりか、話に膨らみを持たせてもくれます。

 どんな作品にも、背景が描かれていないと、情景が生きません。

 リアルに場面を浮き立たせるためには、背景描写も重要です。

 ただし、背景描写が多すぎると、メインストーリーの場面が伝わりにくくなります。

 中には、ストーリーのためではない描写もあります。

 主人公の気分やイメージ、作品のテーマを現すため隠喩として、描写が使われることがあります。



■描写の時間について


 描写の基本は、現実と同じように一秒ずつ時間が進み、後戻りしたり、急に進んだりはしません。

 ですが、時間を動かしたり止めたり、スローやストップモーション、早送りすることもできます。

 描写次第で、秀作にもなれば駄作にもなります。



■描写の順番


 登場人物の視界に入る描写は、読者も同じ景色を見ているため、感情移入できます。


・全体から中、そして細部を描きます。

 時間、場所、状況を描き、さらなる具体的な状況から、中心的な事物の様子、細かな要素へと描きます。エッセイなら、その後に感想を書き加えるのです。


・「遠景」「近景」「心情」の順番で描写します。

 景色との距離感を表現したあとで心情描くと、深みが増します。


・「情景」「語らい」「共感」の順番で描写します。

 言葉に表せないほどの景色を眺めながらの語らいは、言葉も弾み、互いが覚えた共感は読者と共感となって、忘れられないものになります。


・「体験」「気づき」「普遍性」の順番で描写します。

 人は誰しも、体験を通して得た気づきが、社会とどう関わっているのか、普遍的な意味合いを見出そうとします。

 読者も、登場人物の行動を追体験することで、気付きから普遍性を見出すことができます。


・「聞く(知る)」「事実」「真実」の順番で描写します。

 何事か起きたとき、知ろうと、まず見聞きします。起こったこととはどんなことかを把握し、真相にたどり着くことで、納得できるのです。


・「定義」「機能」「仕組み」の順番で描写します。 

 物の機能や仕組みをわかりやすく説明する場合、物自体を的確にとらえた定義が必要です。次に、どんな機能があるのか、仕組みはどうなっているのかが続きます。

 操作性や利点は機能、入手法や費用は仕組みで説明します。

 社会的意味や具体的な利点、影響や問題点などは、そのあとの「効用」に続きます。

 

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