描写しよう・1
■描写以前
一般的な描写は、実用文に用いられます。
目の前の光景を描写するとき、現地の風景がどのようなものかを説明したり、土地の魅力や特徴を的買うに表現したり、メールや手紙などで、自分の見た光景や目にした出来事を説明する場合の描写には、客観性が必要です。
読み手に光景を追体験したもらうためには、現実との落差が少ないほどいいのです。
小説での情景描写は、実用文の描写と異なります。
情景とは、「人の心を通じて味わわれる景色」です。
小説には、書き手の心である主観を盛り込むことができるため、作品の舞台を訪ねたらイメージと違うことはよくあることです。
ただし、読み手を追体験させたい作品や現代ドラマなどでは、主観を排し、客観的でリアルな描写が求められます。
なぜ描写するのかを考えます。
さして重要でないところを厚く描写しようと珍しい言葉を使っても、そこだけ目立ってしまいます。
誰でもわかるように平易な言葉で書くのが一番です。
同じ描写をくり返さないようにします。
読者は、一度読んだものを覚えているものです。
再び登場させるなら、別の情報を書き加えなくてはいけません。
また、光景を描写する際、時間、場所、どんな人や物なのか、どう存在しているか、どんな状況にあり、どんなことが起きて、なにを伝えたいのかを具体的に把握しておく必要があります。
状況の手順は、全体から中、そして細部に入る順序で伝えます。
■描写の六種類
・情景描写 :季節、事案、場所、周囲
・外見描写 :見た目、人やもの
・心理描写 :心の中の思い
・雰囲気描写 :印象や空気感、他の描写と組み合わせる
・行動、出来事:行動、起こったこと
・説明、考え :語り手の感想、感慨、単なる解説
■頭の中に映像を浮かべる
情景描写、外見描写の場合、見えるものを書きます。
自室のドアを開けて中に入った、と書くとき、映像が頭に浮かぶ作者と浮かばない作者がいると思います。
前者ならば、頭の中にある映像を、言葉にしていけば良いです。
この際、気をつけるのは、カメラを引いて全体を見渡すように書きはじめ、机の上に置かれているたとえば本に焦点を合わせていくように、広い視野から見たいものへとクローズアップしていきます。
頭の中に映像が浮かばない後者の場合は、実際に目で見ながら言葉にする訓練をしていくといいです。
自分の部屋のドアを開けて中に入ってみて、そこはどういった部屋なのか、広さや天井の高さ、明るさ、どんな家具がどこに置かれているかなど、言語化していくのです。
車の助手席や後部座席に乗っているとき、電車や飛行機に乗りながら、見える景色を言葉で描写する癖を付けましょう。
お話を書くとき、役に立ちます。
■「わからない」が前提
心情描写の場合は、わからないものを手探りに書きます。
登場人物がつらく悲しい状況にあっても、「悲しい」と書かないのが小説です。
感情を表現したいとき、「うれしい」「楽しい」「悲しい」「さびしい」などと書かないし、書けません。(対象年齢の低い絵本や児童書では、言葉を覚えるためや、わかりやすくするためなら書けます)
一人称なら、主人公の心の中のことだから書けるじゃないかと思うかもしれません。ですけれども、一人称だからこそ、勝手にきめつけてはいけません。
自分の心を、みつめてください。
鼻歌を歌っているからといって、うれしいとは限りません。
涙がこぼれるのは、嬉しいのか、楽しいのか、悲しいのか、つらいのか、悔しいのか。それすらもわからずあふれるときもあります。
赤ん坊なら、お腹が空いているのか、おもらしをして気分が悪いのか、かまってほしいのか。泣いてるだけでは心の中はわからないものです。
「私は悲しい」といい切ってしまうのは、相手をよくわからずに「あいつは善人だ」「悪人だ」と決めつけるのと同じで、浅はかです。
もしかしたら違うかもしれない。
悪いことをしたのは、切羽詰まった、やむにやまれぬ事情があって仕方なかったかもしれないし、見せかけの演技で本当は優しさの現れかもしれない。そんな小さな思い違いが、のちに大きな出来事へと発展していくのが小説です。
登場人物の性格や心理描写は、安易に断言して書けません。
揺れ動く一瞬を切り取るのが小説です。
どんなに誠実で優しい人でも、誰かに罵倒されれば怒る場合もあるでしょうし、チヤホヤされれば、だらしなくデレデレっとするときもあるでしょう。
同じ人はいないし、心はいつも揺れ動いています。
心理描写を基準に書けず話が進めない場合は、情景描写を入れるといいです。
心が揺さぶられているときに情景を見せることで、話の軸に気づき、話に立ち戻れます。
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