物語の構造について・1

■物語の文法


『昔話の形態学』ウラジミール・プロップは、魔法民話と呼ばれるジャンルに属する昔話を科学的に分類し、キャラクターの名前や外見にとらわれず、物語の進行に果たす作用を「機能」と呼び、物語の文法には三十一の機能があることを発見しました。


一、留守

 家族の成員の一人が家を留守にする。たとえば、両親が出掛け、子どもが留守番をするなど。留守の最たるは死。

 

二、禁止

 主人公に禁を課す。たとえば、見てはだめ、覗いてはいけないなど。


三、違反

 主人公に対する敵対者 (加害者) が現れ、禁が破られる。このとき、不幸や災いをもたらす。

 

四、捜索

 敵対者は探り出そうとする。たとえば、主人公の居場所や大事なもののありかを探り出そうとする、知ろうとする。

 

五、密告

 主人公に関する情報が敵対者に伝わる。たとえば、居場所やありかがバレる。探索された結果、漏洩する。


六、謀略

 敵対者は、主人公やその持ち物などを手に入れようとして、主人公を騙そうとする。たとえば、立派な若者に化ける、母親の声を真似る (姿を変える、ふりをする) など。


七、黙認

主人公は欺かれ、そのことにより心ならずも敵対者を助ける。敵対者による主人公を騙そうとする勧めは常に主人公に受け入れられ、実行される。


八、加害または欠如

 敵対者は主人公に害を加えたり、損傷を与えたりする。結果、何かが不足する。ここから物語が始まるケースも多い。


九、派遣 (調停)

 被害なり欠如なりが主人公に知らされ、誰かが主人公に依頼 (命令) して、主人公を派遣したり出発を許したりする。

 娘が略奪されたと知って、娘を探しに行く場合は 「探索者型の主人公」 と言い、略奪された娘が主人公の場合は 「被害者型の主人公」 と言う。


十、同意(決意)

 主人公は敵対者に対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出ることを決意する。九で依頼、命令された主人公が、十で同意、決意する。


十一、主人公の出発

 主人公が家をあとにする。


十二、試される主人公

 主人公が授与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。そのことによって主人公が呪具や助手を手に入れる下準備となる。授与者は、主人公の協力者と見てもよい。


十三、主人公の反応

 主人公が、授与者となるはずの者の働きかけに反応する。試され、訊ねられ、攻撃されたりしたことに対し、リアクションを起こす。


十四、魔法の手段の提供、獲得呪具 (あるいは助手) が主人公の手に入る。呪具はアイテム、助手は相棒、仲間と考えてよい。


十五、主人公の移動

 主人公は探し求める対象のある場所へ連れていかれる、送り届けられる、案内される。非常に遠い異国まで空を飛んだり道案内してもらったりして移動する。


十六、主人公の敵対者との闘争

 主人公と敵対者が直接闘う。化け物や敵軍と戦う、あるいは、ユーモアを含む昔話では 「競争する」 。


十七、目印がつけられる

 主人公が傷を負ったり、傷をハンカチで縛るなど目印がつけられる。

十八、敵対者に対する勝利

 敵対者に勝つ (敵対者が負ける) 。


十九、発端の不幸または欠如の解消

 発端の不幸、災い、欠如が解消され、主人公の物語上の目的が達成される。


二十、主人公の帰還

 主人公が帰路につく。ここで話を終えることもできる。


二十一、追跡される主人公

 追跡者 (新たな敵) が現れ、主人公を追いかけ、殺そうとする。


二十二、主人公の救出・脱出

 主人公は追跡から救われる。追跡から逃れて終わりというパターンもある。


二十三、密かに家に戻る

 たとえば、追跡されているので、ひっそり身を隠すように帰ってくる、など。


二十四、偽の主人公の不当な要求

 偽の主人公が不当な要求をする。たとえば、家の場合は兄が、他国の場合は将軍が手柄を横取りしようとする、など。


二十五、主人公に難題が課される

 主人公と偽の主人公とでは、どちらが正しいのかが試される。


二十六、難題の解決

 主人公は難題を解決する。


二十七、認知

 主人公が発見、認知される。たとえば、十七の目印が決め手となって、主人公であることがわかる。


二十八、露見

 偽の主人公あるいは敵対者の仮面がはがれる、正体が露見する。


二十九、主人公の変身

 主人公に新たな姿形が与えられる。二十三で身なりを隠していた場合は元に戻る。


三十、敵対者の処罰

 偽の主人公が処罰される。


三十一、主人公の結婚

 主人公は結婚し、即位する。金銭、その他の褒美をもらう場合もある。



■物語の基本構造


 プロップが分析したのは魔法が出てくる民話なので、現代の作品すべてに当てはまるわけではありません。

 とはいえ、世の中にあるストーリーには、三十一の人物行動の展開がみられます。

 そもそも、三十一すべてを使うわけではないのです。

「留守→禁止→違反→欠如→出発→手段の獲得→競争→勝利→欠如の解消→帰還」 でも物語は成り立つ。

 絶対に必要なものは、「出発→帰還」です。

 これが物語の基本構造。

 どんな物語も、「どこかに行って帰ってくる」構造を必ず持っています。

 ただし、「どこか」 とは、現実の場所とは限りません。

 日常から非日常的な世界に行き、何ごとかあって元に戻るとき、最初とはなにかしら変化しています。

 多くは主人公の心の成長、ものの見方、考え方など。

 はじめと終わりの差こそ、作品のテーマになります。


 

■物語の発端は「欠如」


「出発→帰還」以外にも重要なものがあります。

「欠如→競争→勝利」です。

 これ加えると 「欠如→出発→競争→勝利→帰還」 となりまうs。

 家族、友人、恋人がいない。富やお金がない。地位や名誉、名声がない。若さ、未来、自由、安心がない……などなど。ほとんどの物語の発端は 「欠如」ではじまっています。 

 欠如を埋めるため、主人公はなんらかの行動を起こす。

 やがて闘争や競争、「弱い自分と戦う」のように、なにかしらと戦って「勝利」し、どこかに帰還します。

 日本の民話にも、同じような展開はみられます。

 さらに、「試された主人公」が結果、重要なアイテムやパートナーを得たり、目印(特徴や属性)を付けられた主人公が、のちに選ばれた証となったり、と、三十一の行動から組み合わせることで、ほとんどのお話を作ることができます。

 不足の解消という目的がなければ、物語にはならない。


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