感情を揺さぶらせよう・1

■感情を揺さぶらせる


 タイパを求める人には、感情を揺さぶられたくない傾向があります。

 それだけストレスを抱えているのです。

 だからこそ、自分が好きな作品に心を癒やされたい気持ちを、強く持っています。

 涙にはストレス発散効果があり、泣いた後はスッキリします。

 泣ける作品が好まれたり、評価が高くなったりするのは、ストレスが解消されるからと考えます。


 人間は、自分を肯定する生き物です。

 過去を美化し、ときに正当化します。

「お金と時間を使って見た作品で泣けたから名作」と思うより、「自分が泣いたのだから、よほどの良作に違いない」と思い込むものです。

 泣ける作品だけでなく、笑える作品にも同じことがいえます。

 良作と思われるためにも、読者の感情を揺さぶる作品を書くことを心がけましょう。


 感情を揺さぶらせるには、読者の中にある経験とつなげて、強い感情を引き出させればいいのです。

 そのために作者はまず、「自分がいつ、どんなときに泣いたり笑ったりするのか」「どんなときに感情を揺さぶられたのか」を思い出す必要があります。

 自身が揺さぶられた状況に他人が置かれても、同じように揺さぶられるといえる体験を探してください。

 また、「泣いたり笑ったり感情を揺さぶる体験」を日頃からすることをオススメします。映像や書物などの得た知識よりも、自分の体を通して感じて知ったほうが、より心を揺さぶられるものです。

 子供は色々なことを知らないため、十代が一番、感受性が強いです。「若い内に、いろいろな体験をしなさい」と言われたことはありませんか?

 すでに大人であっても心配いりません。

 今日が人生で一番若い日なのです。いろいろなところに出かけ、様々な体験をし、作品作りに役立ててください。

 もちろん、「人がいつ泣き、いつ笑うのか」「どんなときに感情が揺さぶられるのか」の人間観察も欠かさずにしましょう。



★泣く作品について


 読者を泣かすには、作品に共感してもらわなくてはなりません。

 他人事と思われないような心理描写を描く必要があります。

 心理描写とは、登場人物の感情や思考を表現すること。

 感情の変化や動き、強さや深さを具体的に描くときに、原因や理由も明確にします。共感度を高めるために、五感や身体感覚をつかった表現を用います。

 なぜなら、作品で涙を流すとき読者は、自身の経験に依存するからです。

 登場人物に感情移入させれば、寂しかったり悔しかったり辛かったりする場面に陥ると、読者も思い出されて、心を揺さぶられるでしょう。子供よりも年齢を重ねた大人のほうが涙もろいです。もちろん、感受性の高い子供も感動してくれます。


 泣ける作品を書くには、感動的なストーリー展開を作ることも必要です。読者の期待と現実のギャップ、登場人物の成長や変化などを描きます。

 ストーリー展開として、主人公に目標や夢、願いを持たせます。

 つぎに、困難や障害や敵対者、助けてくれる仲間を用意します。

 さらに主人公には選択や決断、覚悟をさせる状況を作り、報酬や成果といった結果を決めます。

 さらに、泣ける作品を書くために、「枷」「落差」「対立」「ひねり」「賞賛」の五要素のうち、好きなものを取り入れます。

「枷」とは、主人公に課せられた制約やルール。

「落差」とは、期待と現実のギャップ。

「対立」とは、主人公と敵対するキャラクターや状況。

「ひねり」とは、予想外の展開やオチ。

「賞賛」とは、主人公が得る名声や称賛です。

 これらの要素を上手に組み合わせることで、読み手の感情を揺さぶる物語が作れます。


 泣ける作品の流れは、「喪失」→「絶望」→「救済」です。

 いくつかパターンがあります。

 必死に親を探し、やっと会えて号泣する迷子の子供。

 帰ってこない飼い主を待ち続ける動物。

 諦めた夢をもう一度追いかける姿。

 誰かのため、ボロボロになりながら困難な状況をやり遂げた人。

 つらい過去や苦手を受け入れ、乗り越えて克服する人。 

 仲間や恋人に振られ、裏切られ、ハブられるなどの断絶。

 死別。

 死者の日記や手紙から愛されていたことを実感する。

 読者を泣かせるためには、これらの状況を描き、主人公を泣かせる必要があります。特に盛り上がる最高潮のクライマックスで。

 ただ泣くのではなく、号泣が望ましい。

 読者の泣く度合いは、主人公がどれだけ泣くかにかかっています。

 ほろりとした涙を流せば、読者も泣きながら「ほろりとした作品だった」と感想を持ちます。思い合っていた二人が苦難の末、互いに走りながら呼び合い、号泣して抱き合うようなら、読者も「よかった」と泣けるでしょう。

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