紋切り型をやめよう
・紋切り型な表現をやめよう
『カクヨム甲子園』では、「走馬灯のように」を使われた作品をよく読みました。
どうしても使わなければならない縛りをかけられているかのように。
現代では、電灯式の走馬灯はあるけれども、本来の比喩として使われている走馬灯は、光源がろうそくで江戸時代風のからくり回り灯籠を指します。「走馬灯が~」の表現が使われた昔は、なじみがあったころでしょう。現在では、見たことのない人が大半だと思われます。
よく知らないものを比喩表現に使ってはいけません。
これまでの人生を死に際に思い返す場面で使っていると思いますが、読者が想像できないものを書いても、わかりにくいだけです。
紋切り型、あるいは常套句。月並みの言い回し、ステレオタイプともいわれます。同じように、紋切り型の言葉があります。
慣用句や四字熟語、ことわざに比喩的表現、テレビのアナウンサーや新聞記事の中にも頻繁に見聞きする言い回しは、ほとんどが紋切り型といえるでしょう。
「肩を落とした」「胸を撫で下ろした」「穴があったら入りたい」「絵に描いたように美しい」「嬉しい悲鳴をあげる」「終わってみれば」「まさに正念場」「結果が待たれます」「抜けるような青い空」「ノミの心臓」「カモシカのようにすらりとした足」「頭を抱えた」「振り絞るように言った」「声を震わせた」「涙をのんだ」などなど。
数え上げればキリがありません。
とはいえ、厳密な基準があるわけではありません。
昔から使われていたり、広く認知されていたりする下地があると感覚的に判断されるものです。
「雨がしとしと降る」「雪がしんしんと降る」もそうです。
これらは、自分でない誰かが作った、手垢まみれの使い古された陳腐な慣用句です。
日本の首相や大臣たちがよく使う決まり文句に「慎重に検討する」「検討に検討を重ねる」「検討を加速する」「慎重に見極める」があります。これらの決まり文句は、「何もしない」という意味だと広く知られています。
作中に登場する政治家のセリフに用いると政治家らしくなりますし、ネタとして使うこともできます。
社会的儀礼の言葉で便利ですが、紋切り型の言葉は、なにかを言っているようでいて何も伝えていないのです。まさに政治家の決まり文句と同じように。
たとえば、「ノミの心臓」は気の小さい臆病をたとえた言葉。
だからといって、なにが伝わるだろう。
その人の心臓がノミとおなじサイズなわけではないし、言葉を知らなければ意味が伝わらない。本当にノミをみたことがある人はいるのだろうか。そもそもノミの心臓だと、どうして臆病であることになるのだろう。
ネズミなどの小動物の心拍数は速く、猫などに襲われないよう警戒して機敏な動作を見せるので臆病にみえる。そんなネズミよりも小さなノミはもっと臆病だと卑下した誰かの言い回しから生まれた言葉かもしれない。
つまり、相手に失礼な言葉なのだ。
そもそも使い古されていて言葉のもつ力が劣化し、摩滅しています。
ただ、古くから使われている常套句は、便利だし、言い得て妙なものも多いです。すべての紋切り型の言葉を使わないようにするのは難しいでしょう。
だからといって、安易に常套句をつかうのは、観察力のなさを誤魔化しているのと同じです。
質問を受けた医師は「複雑な表情をした」、工場の廃液が流れこむ川は「複雑な色をしていた」、大会前日にして「複雑な空模様をしていた」など、紋切り型を使われても読者は困ります。
笑みが消えて怒りを表したのか、悲しみと喜びが交互に現れる表情だったのか、どう複雑なのかを書くことを忘れてはいけません。
体験を具体的に客観的にすることで、登場人物や場面の、人柄や情景を浮き彫りにする書き方を心がけてください。
たとえば「男は目を丸くした」は多くの人が使いたがります。
みんなが使っている手垢表現を避けることで、独自に表現を考えることになり、結果キャラ立てにも役立ってきます。
「不敵な笑み」も同様です。
「部屋一杯に」の「~で一杯」という表現も然り。
文章のプロを目指すならば、常套句に頼らず、ほんの少しの工夫を怠らなければ、オリジナルの言い回しができるようになります。
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