サラとゆきのよる

魚田羊/海鮮焼きそば

ぬいぐるみのジミー

 ゆきのふりつもるよるでした。

 まちからとおくはなれた、森のなか。そこには、ちいさなおうちが、ぽつんとたっています。大きなまるたをいくつもくみあわせてできた、ふゆのさむさにもまけないりっぱなおうちです。

 そこにはサラというちいさな女の子と、そのおとうさん、おかあさんがすんでいるのですが――おや、サラのようすが……?


 「うう、あついよお。くるしいよお」

 

 サラのへや。ちいさなベッドのなか。サラは、たん生日におとうさんがプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみを、ぎゅっとだいて、ねています。くるしそうなこえです。

 ほっぺをまっ赤にして、ごほん、こほん。どうやらサラは、かぜをひいてしまったようです。でも、きょうのよるはきっと、だれもここにはやってきません。

 おとうさんは、まちへ出かせぎにいっているので、しばらくかえってきません。おかあさんは、へやでサラのかんびょうをしているうちに、つかれてねてしまいました。おかあさんがこっくりこっくりするたびに、いすがゆらゆらとゆれています。

 ここは、ゆきのふる、ふかい森のなかです。ぐっすりねているおかあさんがおきるまで、サラをたすけてくれる人はいません。まどのそとでかがやく、まあるいお月さまも、たすけてはくれません。


 「ううっ」

 

 サラの目からなみだがあふれそうになった、そのときです。


「だいじょうぶだよ、サラ」

「えっ……?」


 サラのすぐそばから、こえがしました。やさしい、男の子のこえです。


「ジ、ジミーなの?」


 ジミーというのは、サラがクマのぬいぐるみにつけた名まえです。


「うん。ジミーだよ。なんだかぼく、うごけるようになったみたい」

 

 うんしょ、といいながら、ジミーは、サラのうでのなかからぬけ出しました。

 サラはまだ、びっくりしています。

 

「ほら、すごいでしょ。おはなしもできるよ!」


 ジミーはベッドからおりると、かた足でくるくるまわってみせました。くびについている、大きくて青いリボンもふわふわゆれて、まるでダンスをおどっているようです。

 けれど、ジミーはすぐにまわるのをやめて、


「サラ、かぜをひいているんだよね。ぼくにできること、あるかな。サラがくるしそうなの、なんとかしてあげたいんだ」


 と、いいました。


「ふー、ふー……。やさしいのね。ええっとね、お水がほしいんだけど、でも……」

「でも?」

「ジミー、コップはもてる?」


 お水をくむには、コップがいります。

 ふわふわとしたちゃいろの糸でできたジミーのうでは、先がまあるくなっています。サラとちがって、ゆびがないのです。これではコップをもてません。


「ほんとうだ。じゃあ、どうすればいいのかな」


 しょんぼりしたこえで、ジミーはそういいました。

 そのときです。


「あのね、ジミー」


こほん、こほん。なんどもせきをして。それでもサラは、ジミーにはなしかけます。


「ジミー、こっちにおいで。いつもみたいに、わたしがおねむになるまで、ぎゅーってさせて。それだけでいいのよ」

「それだけで、いいの?」

「もちろん。あとは、ねむくなるまで、ちょっとおはなしもしましょ。ジミー、せっかくはなせるようになったんだもの」 


 サラはそういって、ジミーをふとんのなかへ手まねきしました。ジミーは、そっとベッドに上がって、サラのうでにおさまります。


「きょうは、お月さまがきれいね」

「うん。それに、お月さまのおかげで、ゆきがまっ白にひかって見えるよ」

「それもきれいね――――くう、くう」


 おはなしをしているうちに、サラからは、しずかなねいきがきこえてきました。

 まどのそとには、ゆきがしんしんとふっています。ゆっくりと、やさしく、ふっています。

 



「こほっ。うう……?」


 つぎのあさです。サラは、へやのそとからきこえる、ほうちょうのトントンという音で目をさましました。どうやら、おかあさんがだいどころであさごはんをつくってくれているようです。

 サラのほっぺはまだ赤いですが、かぜはきのうよりよくなったのでしょう。こほん、こほん、というせきは、もうきこえません。


「おはよ、ジミー。ゆうべはありがとう」


 サラは、うでのなかのぬいぐるみに、こえをかけました。けれどジミーは、うんともすんともいいません。


「ジミー……?」


 なんかいはなしかけてもへんじはかえってきませんし、うごきもしないのです。

 しんぱいになったサラは、おもわずへやを見まわしました。ですが、へやにはサラしかいません。


「ジミー……もしかして、ぬいぐるみにもどっちゃったの?」 


 そのときです。


 だいじょうぶだよ。

 サラのこと、ちゃんとみまもっているからね。


 サラの耳に、そんなこえが、はっきりときこえました。  

 けれどそれは、ゆうべのジミーのこえではありません。サラのよくしっているこえです。


「おとうさん……?」


 サラのおとうさんは、いえにはあまりいませんが、サラのことをだいじにしてくれます。いえにかえってきたときには、たくさんサラとあそんでくれます。

 まちへ出かせぎにいっているときでも、おとうさんはきっと、ずうっと、サラのことを見まもっているのでしょう。サラにプレゼントした、クマのぬいぐるみをとおして。


 ジミーのくびについている、大きくて青いリボンが、サラのうでのなかでゆれていました。

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サラとゆきのよる 魚田羊/海鮮焼きそば @tabun_menrui

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