米川くんのひとりごと ~ぬいぐるみ編~

篠崎 時博

米川くんのひとりごと ぬいぐるみ編

 ぬいぐるみ、か。


 最初に出会ったのは、もう随分と前だったな。

 まだ4歳とかそこらだったような気がする。


 そう――、公園にいたあの子が、母親と手を繋いでいたあの子が、抱えていたぬいぐるみ。

 

 ふわふわで明るい茶色の熊のぬいぐるみ、だったかな。

 実際、そのぬいぐるみが熊だったのか、犬だったのか怪しいんだけど。


 とにかく、まぁ、そんな感じで、なんだか気づいたら惹かれたんだよね。


 ……思えばなんで、惹かれたんだろう。


 ぬいぐるみを買ってもらったことはないから?

 本当はどこかで、羨ましいと思ってたから?

 ……いや、違うな。

 でもそのぬいぐるみを見て、いいなぁって思ったのは確か。


 ぬいぐるみってさ、幼い子が遊ぶもの、女の子が好きなものって思う人もいるかもしれないけど、違うんだよね。


 あの時大事そうに抱えていたあの子にとって、あのぬいぐるみは大事なお友達で、自分の味方で、安心する何かなんだよね。


 そう、だから、自分の目の前に現れたときはびっくりしてさ。


 ぬいぐるみは結局買ってもらえなかったから、会えて嬉しかったのを覚えてる。


 そういえば、ぬいぐるみって不思議だよね。

 ふわふわで、柔らかくって、優しい感じがして――、あ、そうか。

 

「柔らかい」だったのかもしれない。

 好きになったのは。

 

 だって固かったら、自分の側に居て欲しいだなんて思わないよね。


 あぁ、そうか、やっと分かった気がする。


 四角は嫌い。痛いし固い。三角も同じ。

 でも、丸とぬいぐるみは痛くない。うん、納得。





「お気に入りの子はいましたか?」

 髪を二つに結んだ若い店員が声をかけてきた。


「どの子も魅力があっていいですよね〜」

 

 カラフルなぬいぐるみが、ズラリと棚に並べられている。

 それらは綺麗に座って、客の方を向いている。

 選ばれるのを待っている。


「うーん……。いいや」

「あら……」


 店員は残念そうな顔をした。


 だって僕の一番は、もう決まっているからね。

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