だから、触るなよ。
桑鶴七緒
だから触るなよ。
あれはまだ小学校に上がる前の話。
僕は誕生日の日に両親からあるプレゼントを渡された。誰に言われて買ってきたのか知らないが、好きでもないぬいぐるみを出されても困る。
テディベア。僕が熊嫌いなのを知っていてわざと選んだという。しかも色がまだらで黒なのか茶色なのか判別しにくい荒い繊維素材の肌触り。
表向きは微笑んでいたが、内心はどうでもよいと幼い心とは裏腹な心理だった。
次の日、幼稚園で友達から何人かにプレゼントをもらったが、あまり嬉しくはなかった。
なぜかというと物のほとんどが折り紙でできた飾りもののやつだったからだ。
僕は帰り道の通り沿いにあるコンビニエンスストアの外に設定してあるゴミ箱に、プレゼントを全て捨てたのである。まだまだ苛立ちが抑えきれない。
自宅に帰ってきて、手を洗った後自分の部屋に入って鍵をかけ、テディベアの首を掴んでは机の中から取り出したカッターナイフで背中やお腹のまわりを切り始めた。
中から白い綿が出てきてはどんどん楽しくなり、今度は顔を切り刻んだ。
目の周りをくり抜くように上から差し込んではざまぁ見ろと言いながら切っていった。
気がつくとテディベアは散々な姿に様変わりして、僕は気持ちがすっきりとした感じに浸っていた。両親に気づかれないように紙袋の中に入れて隠しておき、クローゼットの中に投げ入れておいた。
夕食後、何事もなかったかのように両親に愛想を振り撒きながらテレビを見ては笑い転げている。やがて就寝の時間になり、寝室へ行きベッドの中へふざけながら潜り込んでは母を怒らせた。
数時間後の深夜2時が過ぎた頃、静まり返った部屋の空気が濁ったように重たい雰囲気を漂わせているのに気がついて目が覚めた。
トイレから戻り再びベッドの中に入って目を閉じた。しばらくして何か近くで黒板に爪を立てたようなキィーっとした音が耳に入る。
何だろうと寝返りを打つと、切り刻んだはずのテディベアが僕の隣で横になってこちらを見ていた。彼は口を開いて僕に告げた。
「だから触るなよ。」
やがて彼の傷口になった目や腕から血を流して僕の首を掴んできた。凄いチカラだ。声を出そうとしても全く発声する事ができない。
僕は恐怖のあまりに涙が出てきてズボンの中にもお漏らしをしてしまった。
「もう、こんな事しない?」
僕は必死で頷くと彼は首から手を離して、ベッドから飛び降りクローゼットの中に入っていった。やがて僕も飛び起きて電気をつけて母の元に向かって泣き叫びながら飛びつき怖気づいた。起きた理由を伝えてもただの夢だと返答されたが、あれだけの感触にふれた事には偽りわはないと訴えたがあまり聞いてはくれなかった。
それからして、テディベアを破損させた事を言い謝ると2度としないようにと叱られた。
あの日の出来事は今でも焼きついている。
──その後学校から帰ってきて、部屋で勉強をしている時に、クローゼットの中から物音が聞こえたので、中を開けてみると処分したはずの紙袋が出てきた。
そっと中を開けて取り出してみると、あの時にもらった状態の綺麗なテディベアが入っていた。
僕はどんどん気が立っていき机の中からカッターナイフを取り出して同じように切ろうとした。そうすると、彼は首を傾けて僕にこう告げた。
「だから、触るなよ。お前、何にも変わらないな」
彼は僕の顔に飛びかかり、噛みついては血を流す僕を見ながら笑っていた。
了
だから、触るなよ。 桑鶴七緒 @hyesu
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