第4話 新たな世界

「私達はまだ、水たまりの世界にいるってことですよね。」

「あぁ、」

俺達は、確かに歪んでいる場所に入ったがしかし今度は、夜の公園にいた。

 (クソ…どうなってやがる…駅の次は公園?どんな関係があるんだよ。)

「教科書も反対…やっぱり水たまりの世界みたいですねここも。」

「まぁ…考えても分からねぇもん考えてもしょうがないし…」

座っていた体を起こしある場所へと向かった。

「成瀬さん?それは…ブランコ?」

「せっかく公園に来たんだし、多少遊ばないと損だろ?ほら浅田さんも」

「え?あ、はい。」

二人並んでブランコに乗ったものの沈黙の時間が流れた。

キーキー

古びたチェーンの音だけが二人を包み暗いのに何故か浅田さんの顔がはっきりと見えていた。そして何故か浅田さんの目は、どこか遠く見ているような心ここに在らずみたいな感じだった。

「懐かしいな…」

「はい…」

「風気持ちいいだろ?」

「はい…」

「…」

    話す、返す、話す、返す、

そのやりとりだけをずっと繰り返していたが不思議と居心地は悪くなかった。俺が感じたのはその逆だった。

 キーーキーー

漕ぐ力が強くなりチェーンの音がゆっくりと聞こえてくる。

「このぐらいだな…よし!」

「何を…?」

俺は、ブランコの勢いを殺さずタイミングを見てチェーンを握っていた手を力強く話し、ブランコの勢いと若干だが、反発力を使って空高く飛んだ

 ブランコの柵を飛び越え奥へと進む

 ドシャー

砂を引きずり余った勢いを殺す

「よっしゃ!新記録‼︎」

「成瀬さんびっくりしました…急に飛んだので…」

「浅田さんは飛んだことないのか?」

「はい…」

「そうか…やらないのか?」

「はい」

「そっか…浅田さん負けず嫌いタイプだと思ったんだけど…」

「安い挑発ですね。」

「やるか?」

「えぇ、負けませんよ?私」

「負けたら罰ゲームはどうだ?そっちの方が燃えるだろ?」

「そうですねそっちの方が燃えます」


すると彼女の目は、先程の遠くを見ているような目でなく絶対に勝つ為に目の前の事だけに集中している目をしていた。

「コツとか教えようか?」

「不要です!!」

その言葉と共に夜空に向かって高く…高くさらに奥へと飛んでいた。


 その顔は、笑顔で天使様に勝るほどの可愛さで月の反射した光にあたって彼女の顔と全身がはっきりと見えた…


 初めてのはずなのに、ブランコの勢い、振り始めより少し前、飛ぶ瞬間の手の反発全てが完璧だった。きっと俺が飛んだのを見て覚えて最適なものを頭の中ですぐさま組み立てたのだろう。

「!」

そうして飛んだ彼女は、柵を軽々しく超えて…

     ドシャー

砂を引きずり余った勢いを殺して地に脚をつけた。

「はぁ…はぁ…」




結果は、僅差で俺の勝ちだった…指一本半にも及ばないほどの差だった。

「俺の勝ちだな…」

「認めたくありませんが、仕方ありませんね。」

「初めてにしては、もの凄かった。何もかもが完璧だった。」

「…ありがとうございます。」

ベンチへと座り息を整えた彼女を見て俺は、ずっと思っていた事を聞いた。

「浅田さんの過去を聞かせて欲しい」

「え?それが罰ゲーム?」

「あぁ、そうじゃ無いと話す機会も答える機会もないと思うし。」

「…」

沈黙があった。


「信じてくれますか…これから話す事全部…」

顔を俯きながら話す彼女を見て、一歩近くに彼女の方へと移動して息を吸った。

「あぁ、信じるよ。俺の話を信じて聞いてくれた時と同じ様に。それに、今度は俺の番だから。」

「ありがとうございます…」

「だからゆっくりでいいから話して欲しい浅田さんの事もっと知りたいから…」

「長い話になりますよ?」

「構わないよこの世界にいる限りこの時間は俺ら二人だけの秘密の時間だから全部お互いに話そうよ。」

「じゃあ…お言葉に甘えて…」

彼女は、スゥーと息を吸いゆっくりと口を開いた。

「両親は、好きな人同士で結婚では無く、お父様のお祖父様とお母様のお祖父様の二人が

勝手に決めて結婚を決めてたようでした。勿論最初は反対していたようでしたが、お祖父様に勝てるはずも無く無理やり同棲から始められました。」

(凄い…話だ…今時こんなのが許されるのか…)


「お母様もお父様も二十歳という若さだったので、勿論そういう行為にも興味があったようで、一度だけしてしまったそうです。その結果私が産まれた。たった一夜の過ちで…子供が産まれてしまったから、結婚をする理由になってしまい結婚をしたようです。

 お父様はお仕事で家にいない事が大半で

お母様は、私に無関心でした。夜出かけることもあり、家にいたのはお手伝いさんだけでした。

 お手伝いさんは、私の事を見てくれたんです。褒めて下さいました。

その時の私は幼かったのでお母様とお父様に見てもらいたいの一心で、勉強と運動…例作法、お茶の淹れ方方、菓子作り、料理…出来ること全てをしました。


『お母様見て!勉強頑張ったの!』

『そう…』

『お菓子作ったの!』

『運動も例作法も、お茶の淹れ方だって、それに料理も…』

『わたし忙しいから邪魔って言ってるでしょ!!あんたなんか生まれて欲しくなかったわよ‼︎』

『なんで…?こんなに頑張っているのに…誰か見て!私を本当の私を見て‼︎』


…お母様は私のこと生まれて欲しくなかったみたいです。」

 「…」

「学校では、本当の私を隠して皆んなの

『良い人』を演じました…邪魔だと思われたくなかったからですかね。

 その結果、今の様に頼られたり話しかけられたりしました。でも過ごしていく内に苦しくなったんです。

一人で過ごしたいと思ってしまう程に…

呼吸の仕方も忘れてしまうぐらい…おかしな話ですよね。自分から望んで演じたのに自分で自分の首を絞めていたんですから…

本当私なんて生まれてこない方が良かったんですよ…」


「ごめん。」

「成瀬さんが謝るひ…!?」

俺は、彼女の事を抱きしめていた。

「だからごめん‼︎」

気持ち悪いかもしれない…でもそれでも今は離したくなかった。

 彼女の目は今にも泣きそうにしていたから


「生きてくれてありがとう…奈央が生きてくれたから、俺は救われたんだよ!あの時信じてくれたから何も知らないはずの俺を!噂なんて飽きるほど聞いてるはずなのにそれでも、俺の話を聞いてくれた…あの時嬉しかったんだ…ありがとう。」

俺の背中に彼女の手が優しく包み込んでくれた。

「これじゃあどっちが抱きしめてるかわからないですね。成瀬くん泣いてるし」

 俺は泣いていた…

    彼女と俺は、似ている

      パリィ

「…?」

ガラスが割れるような音が突如聞こえた。

「成瀬さんアレ」

大体た手を話し彼女の向いている方へと顔を向けた。

「まただ…」

そこには前に飛び込んだのと同じように時空に亀裂が入っていた。

「成瀬さん…どうしますか。」

俺は、泣いている顔を服でグシャグシャと拭いた。

「また、入ってみるしか無いと思う。」

「はい…それは私も思ったのですが、今度はどこに行くのか分かりません。」

「俺もわからない。でも浅田さんとならどこでも行ける気がする。」

「…⁉︎」

彼女の顔が真っ赤になっていた。

「顔が赤いけど…大丈夫?」

「あ…はい…」

「行くよ…」

もう一度手を繋ぎ彼女と走り出す。

たとえ現実に戻れなくても、彼女ともう少し一緒にいたいと心の中で強く言いながら走り亀裂の中へと再び入った。

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水たまりの世界で出会った君へ ruy_sino @ruy_sino

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