5.

9.


(流石に貰い過ぎじゃ無いかな?)

そう思い、一度辞退しようとも思ったのですが、結局押し切られてしまいました。

仕方が無いのでお言葉に甘えることにしたのです。

それから数日の間は忙しくも楽しい日々が続きました。

特に何をするわけでも無くのんびりと過ごしていたある日のことです。

その日もいつものように目を覚まし朝食を済ませた後、お店へと向かう途中、突然声を掛けられました。

「あの!」

振り返るとそこにいたのは一人の少女の姿がありました。

年齢は私と同じくらいでしょうか? 可愛らしい容姿をした少女でしたが何故か彼女の頭の上には犬のような耳が付いており

お尻からは尻尾が生えていたのです。

(まさか獣人族!?)

初めて見るその姿に思わず見惚れてしまいそうでしたが何とか堪えました。

何しろ相手は一国の王の娘でありお姫様でもあるのですから失礼な態度は取れませんからね。

とは言えこのままでは不味いと思った私はすぐに謝罪することにしました。

「申し訳ありません、ジロジロ見てしまって」

すると彼女は慌てて首を横に振りました。

「いえ、私の方こそ急に呼び止めたりしてすみませんでした」

そう言って頭を下げる彼女にこちらも慌てて頭を下げます。

お互いに頭を下げたままの状態が続いた後、どちらともなく顔を上げると目が合いました。

その瞬間お互いの顔に笑みが浮かぶのを見て私達は笑い合ったのでした。

その後、彼女の方から自己紹介をしてくれました。

彼女の名はエルミアと言い、何とこの国の王女様だったのです。

しかも驚くべきことにこの国で唯一の王位継承者だとか。

そんな相手に対し無礼を働いてしまったことを改めてお詫びしたのですが逆に謝られてしまいました。

それどころか是非お友達になって欲しいとお願いされたのです。

「良いんですか?」

恐る恐る尋ねると彼女は微笑みながら頷いてくれました。

それが嬉しくて私も笑って答えました。

「私の推しはこの国の王子様なんですよ、レイ様です」

そう言うと彼女も目を輝かせながら言いました。

「やっぱりですか! お兄様なんですよ」

「ヘタレ王子ですよね、レイ様」

「ええ、お兄様はヘタレですけど、勇者ほどの力もないですが、いざという時にはやる人なんです」

その後も二人で盛り上がっていると不意に声が掛かりました。

「あ、居たいた、おーい、そこのお二人さん」

その声に反応して振り向くとそこには二人の男性の姿が有りました。

(あれは確か……)

見覚えのある二人を見て思い出していると向こうから声を掛けて来た。

「久しぶり、勇者召喚の時以来だな、ほら、レイ、教えてくれよ」

(そうだ、思い出したわ)

武勇名高い、英雄、アレックス・アルストロメリア様とレイ様です。

レイ様は少し困った顔をしながらこちらに尋ねて来ました。

「ごめんよ、仕事の邪魔はさせないから、百合いてもいい?」

レイ様が情けない顔で言うものだからつい許してしまったのです。

でも、そんな姿すら素敵に見えるのですからイケメンって本当に得よね。

そんな事を考えていると今度はアレックス様が話しかけてきました。

「おい、レイお前何やってるんだよ、仕事中だろ、それにその子って……」

何やら気になることがあるようでしたが、それを遮るように私は名乗りを上げました。

「初めまして、如月と申します、以後お見知りおき下さいませ」

そう言って挨拶をしましたが、やはりここでも驚かれました。

それもそうでしょう、私はどう見ても普通の人間ですから。

そんな私を見ながら彼は呟きました。

「そうか、君が噂の百合様か」

「レイ、少しいいかしら」

そう言って彼を連れて少し離れた場所で話をする事にした。

幸いにもここは人気の無い森の中なので誰かに聞かれる心配は無いだろうと思い声を掛けたのだがどうやら正解だったようだ。

(さて、どう切り出したものか……)

そんなことを考えていると彼が先に口を開いた。

どうやら向こうも同じことを考えていたようだ。


10.


ならば話は早いとばかりに本題に入ることにしたのだ。

「ごめん、百合に変な噂が立っていて」

そう切り出す彼は落ち込んでいる様で

「どう言う噂なの」

「その、勇者でもない異世界人が、王達にちやほやされて、特別視されているって」

ああ成る程ねそう言うことか。

確かに傍から見ればそう見えるのかもしれないわね。

「だから、貴族に成りたくなかったのよ、お父様に何とかして貰え無いの」

私が言うと彼も頷きながら答えた。

曰く、既に手は打ってあるらしいのだけどあまり効果は期待出来ないらしい。

何故なら既に手遅れだからだと言われたからだ。

つまり私が何を言っても無駄と言うことらしい。

それなら仕方ないわね諦めるしかないわね。

それよりも今は目の前の問題を片付けないとね。

「それでどうするの?  このままだと私……」

言いかけたところで遮られてしまった。

何故ならそれは彼自身も分かっていたことだったからだ。

それでも言わずにはいられなかったのだろう。

何故ならそれは彼にとっても大切な事なのだから。

だからこそ敢えて言わせて貰うことにする。

何故ならそれは私にとっても同じだからです。

「分かってるわよそんなことぐらい!  それでも私は諦めたくないの!」

その言葉に彼は驚いた様子でこちらを見ていましたが構わず続けました。

「だって折角手に入れたチャンスなのよ!  それをみすみす逃すような真似出来るわけないでしょ!」

そう叫ぶと彼は黙って聞いてくれました。

そして暫くして口を開きました。

「……分かったよ、そこまで言うなら僕も協力するよ」

(えっ!?)

一瞬耳を疑いましたが聞き間違いでは無さそうです。

その証拠に彼の顔はとても嬉しそうでしたから、

そしてそのまま私の手を取りこう言ってくれたのです。

「一緒に頑張ろうね」

っと。

その言葉を聞いた瞬間、私の心の中に温かい物が流れ込んで来る様な気がしました。

それと同時にとても幸せな気分になりました。

まるで夢を見ているような、ふわふわとした感覚の中でふと気が付くと目の前には

心配そうに見つめる彼の姿が有りました。

そこでようやく自分が気を失っていたのだと言う事に気が付きました。

「良かった気が付いたんだね」

そう言いながら優しく頭を撫でてくれる彼の手の温もりを感じながら再び目を閉じようとした時、

不意に声が聞こえてきました。

その声はとても優しく心地の良い声でした。

(誰だろう?)

そう思いながら目を開けるとそこには一人の女性の姿がありました。

その姿は美しくもあり可愛らしくもある不思議な魅力を持った人でした。

「貴女は誰ですか?」

思わず尋ねてしまいましたが彼女はただ微笑むだけで答えてはくれませんでした。

(どうして何も言ってくれないんだろう?)

そんな疑問を抱いていると彼女が話し掛けてきました。

『ごめんなさい』

突然の謝罪の言葉に驚いていると彼女は続けて話し始めました。

『もうすぐ会えるわ』

そう言われた途端、目が覚めました。

辺りを見回すと見覚えのない天井が見えていました。

(あれっ!?ここはどこなんだろう?)

不思議に思っていると部屋のドアが開き誰かが入って来ました。

その人は私に気がつくと笑顔で近づいて来て話しかけてくれたのです。

しかし私にはその人に見覚えが無く誰なのか分かりませんでした。

「貴方は誰ですか」

「え? レイだよ、大丈夫? 百合」

そう言われても全く記憶にありませんし、そもそも何故この人は私の名前を知っているのでしょうか?

もしかして知り合いなのかとも思いましたがいくら考えても思い出せませんし仕方がありません。

取り敢えず自己紹介をすることにしようと思います。


11.


まずは自分から名乗ることが礼儀だと思うので私から自己紹介することにしました。

「私は如月と言いますよろしくお願いします」

すると何故か不思議そうな顔をされましたがすぐに笑顔に戻り名前を教えてくれました。

「僕はこの国の第一王子をやっているレイ・アルストロメリアだよろしくね」

そう言って手を差し出してきたので握手を交わしました。

すると何故か嬉しそうな顔をされてしまいましたので何か失礼なことをしてしまったのかと不安になったのですが

特に怒っている様子も無いようですので一安心ですね。

それにしてもこの方は一体どなたなんでしょうか?

そんなことを考えつつ見つめていると突然抱きつかれてしまいました。

驚いて固まっていると耳元で囁かれてしまいました。

「やっと会えたね僕の運命の人!」

その言葉を聞いた瞬間に全身に鳥肌が立ち思わず叫んでしまいました。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

そんな私の悲鳴を聞きつけたのか部屋に飛び込んで来た人達によって助けられました。

その後、事情を説明して貰い落ち着きを取り戻した所で改めて話を聞くことになりました。

まず最初に、私を助けてくれた方々を紹介したいと思います。

「助けて頂いてありがとうございました、えっと、そちらの方は?」

お礼を言いながら尋ねると、彼女は微笑みながら答えてくださいました。

彼女の名前はエルミアさんと言ってなんとこの国のお姫様なのだそうです。

お城で働いているメイドさんだとばかり思っていましたから驚きましたね。

「あの、エルミアさん?」

声を掛けると彼女はハッとした顔をして慌てて頭を下げられた後、名乗ってくださいました。

それからお互いに簡単な自己紹介を済ませた後、レイ様に促されて話を聞かせて頂くことにしました。

その内容は驚くべきものでしたが同時に納得できるものでもありました。

何故なら、この国には勇者と呼ばれる存在は居ないのですから。

正確には居たことは有ったらしいですが現在は行方不明になっているらしく、

その為、この国には勇者と呼べる者は居らず代わりに他国から勇者を呼び寄せることにしたのだと言われました。

(成る程、そういうことだったんですね……)

話を聞いて納得した私は、早速行動に移すことにしたのです。

先ず初めにやるべきことと言えば……。

(やっぱり住む場所の確保よね……)

そんな訳で私は今現在お城の客室にお世話になっています。

最初は客間に案内されそうになったところを断り自分の部屋を用意して貰ったのです。

そして、幸せに暮らしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に誤召喚されて私は勇者にはなれなかったので、推しと一緒に気ままに生活してみる! リナ @rina9756

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ