4.

7.


「嫌です、私は王付きにして頂いているだけで、十分です、あ、代わりに、お願いがあります、今回勝利した時に、

頂く予定だったお店をタダで頂きたいのです」

「そうか、貴族にはならんか」

「レイもいますから、いらない重荷は背負いたくは無いのです、陛下、どうか、ご理解を」

そう言って頭を下げる私を見て小さく溜息を吐いた陛下は仕方が無いとばかりに頷いてくれました。

こうして無事にお店を手に入れた私は早速店舗兼自宅の建設に取り掛かることにしたのでした。

あくる日、朝早く起きて建設業者の方を呼び寄せることになりました。

「初めまして、本日はよろしくお願いします」

そう言うと快く引き受けてくれた彼等のおかげでお昼前には工事が完了していました。

これで漸く念願のマイホームを手にすることが出来ました。

早速中を見てみるとかなりの広さがありこれなら何人でも暮らせそうな感じです。

ただ一つだけ問題が有りました。

それがお風呂なのですが……。

流石にこれは宜しくありません。

「湯浴びをするだけですか」

「はい、そうですよ」

それを聞いて俯いた。

この国では、お風呂に入る習慣が無く、上級貴族ですら、湯浴びをする程度なのです。

「あの、私の世界では、湯浴びでは無くて、お風呂と言う物がありまして」

何とか見様見真似で、伝えてお湯を引くたらいを頂きました。

「湯浴びって向こうの世界ではシャワーなのよね」

そう思いながら桶に水を張り、魔法で温水にして身体を洗っていく。

(気持ちいい)

そう思いながらも一通り洗い終えたところで湯船に浸かり一息つくと突然扉が開き誰かが入って来ました。

慌ててタオルで前を隠し振り向くとそこには裸の女性の姿がありました。

思わず悲鳴を上げそうになるものの何とか堪えました。

「あ、貴女は」

「あら、百合さん、お久しぶり」

「戻ってきてらしたのですか、勇者瑠衣」

彼女こそ、勇者であり、勇者として覚醒出来なかった私とは違い、この国で真に勇者とあがめられる、

日本人なのでした。

そんな彼女との出会いは、数日前の事でした。

その日、お城からの呼び出しを受けた私と勇者様は、一緒に向かうことになったのですが、道中色々ありまして、すっかり遅れてしまったのです。

「もう、遅いわよ二人とも、早くしないと遅刻しちゃうじゃない」

「ごめんなさい、ちょっと色々とあって……」

「まぁいいわ、それじゃ行きましょう」

「えぇ」

そうして向かった先で待っていたのは王様でした。

そこで聞かされたのは私の想像を超えるものでした。

なんとこの世界に魔王が現れたというのです。

それも既に何人もの犠牲者が出ており、これ以上の被害を出すわけには行かないということで、急遽呼び出されたとのことでした。

ですが、私には関係の無い話です。

何故なら、既にこの世界へ来た時に女神様に授かった加護があるのですから。

そう思いましたが、どうやらそうでは無いらしいのです。

この世界では、女性しか魔法を使うことが出来ないらしく、その為、私が呼ばれたようなのです。

正直面倒臭いとは思いましたがこれもお仕事ですから仕方ないと思いました。

それに何よりも私には強い味方が居たのですから。

ですがそんな私に告げられた言葉は残酷な現実だったのです。

それは……。

「残念ながら、貴方は、魔法使いとしての適性はありませんね」

そう言われた私は目の前が真っ暗になりました。

何故なら、これまでずっと、頑張ってきた事が無駄になってしまったのですから。

それでも挫けず何度も挑戦しましたが全て失敗に終わりました。

そんなある日のこと、私は気分転換も兼ねて近くの森へと向かいました。


8.


「うーん、気持ち良いわね」

大きく伸びをしながら歩いているとどこからか声が聞こえてきました。

気になって声のする方へと向かってみるとそこには一匹の獣が倒れて居ました。

よく見るとそれは狐のような姿をしており怪我をしているようでした。

放っておくことも出来ず回復魔法を掛けてあげると傷が治ったのか元気になった様子で走り去って行きました。

その後姿を見ながら心の中で謝りました。

(ごめんね、本当は助けてあげたいけど、今の私じゃ無理なの)

そう思いつつその場を後にしたのですが数日後、再びその場所を訪れるとそこには以前と変わらない姿の彼女がいました。

(良かった、無事だったんだ)

そう思うと自然と笑みが溢れてきました。

「おいで」

優しく声を掛けると嬉しそうに駆け寄って来ました。

そしてそのまま私の腕の中に飛び込んで来ました。

それを受け止めつつ撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らしている姿を見ているうちに何だかとても愛おしく思えて来ました。

(可愛い)

そんな事を思いながら暫くの間撫でていると不意に視線を感じそちらを見ると見知らぬ男性が立っていました。

(誰だろう?)

そう思いつつ見ていると向こうも気が付いたようです。

「えっと、君は……」

「あっ! すみません、この子が可愛くてつい夢中になっていました」

そう言って謝ると彼は笑いながら許してくれました。

「それにしても珍しいな、君がこんな所に来るなんて」

そう言われて少し恥ずかしくなりました。

確かに普段の私なら絶対に来ないような場所ですし。

彼はそんな事など気にもせずに話しかけてきました。

何でも彼はこの場所の管理を任されているのだとか。

そう言えば最初に会った時に見た事のあるような気がしましたが気のせいでしょう。

そんな事を考えつつも折角なのでもう少しお話をしていくことにしました。

彼の名前はレイ・アルストロメリアといいこの森を管理しているそうです。

驚いた事に彼は元勇者だそうで今は隠居の身なのだとか。

そんな話をしているうちにいつの間にか日が暮れてきたので帰ることにしました。

「今日は楽しかったよ、ありがとう」

別れ際にお礼を言われた私は笑顔で返しました。

「また来ますね」

そう言い残して帰路についた私はこの時まだ気が付いていませんでした。

これが運命の出会いだと言うことに……。

翌日、私は朝からお店の準備を進めていました。

「取り敢えず開店準備だけはしておかないとね」

そんな事を呟きながら作業を進めていると不意に扉を叩く音が聞こえて来ました。

(あれ? もうお客さんが来たのかな?)

そう思って扉を開けるとそこに立っていたのは意外な人物でした。

その人物はこの国の

「国王陛下!?」

驚きのあまり固まってしまった私を他所に陛下は用件を告げられました。

その内容は先日の戦いについての話のようでした。

なんでも戦いに勝利した私達に対して何か褒美を与えたいという事でしたのでお断りしようとしたのですが断らせて貰えませんでした。

(まぁ元々断る気は無かったんだけどね)

だって断ったら失礼に当たるし、何より貰える物は貰っておく主義なのですから当然ですね。

しかし、今回の場合その量が半端無かった為、受け取るかどうか悩んでしまいました。

何せ、家一軒丸ごとくれると言うのだから……。


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