ペガサス

西しまこ

第1話


 僕たちが異世界転移して、結構な時間が経ったと思う。

 僕の彼女の彩香の順応性は素晴らしく、めちゃくちゃここに馴染んでいる。


「あのね、弘樹くん」

「なに? 彩香」

 彩香は目をきらきらさせていた。……まずい。これ、何か思いついたやつだ。

「あたしね、思ったの! ドラゴンは乗れなかったけど、ペガサスならどうかなって!」

「……ペガサスって、羽根の生えた馬?」

「うん、そう!」


「どこにいるの、ペガサス」

「あたしね、聞いてきたんだー あの山の向こうにいるみたい!」

「遠くない?」

「遠くないよー ドラゴンならすぐだよって、教えてもらったの!」

「彩香、ドラゴンに乗れないじゃない」

「あっ」

 彩香は乗り物酔いをするたちなのだ。

「でもねえ、山の向こうのきれいな泉にいるんだって。見てみたいよねえ、ペガサス」

 彩香は目をうるうるさせて、言った。


「あたし、ペガサス、欲しいな!」


 ……僕は彩香には逆らえない。

 僕たちは旅支度をして、ペガサスを探しに行った。ドラゴンは連れて行こうか迷ったけれど、結局、宿屋のおかみさんにお金を支払って世話をお願いして、おいていった。動物を飼うのは楽じゃない。


 彩香との旅は自由気ままだ。

 まっすぐペガサスのいる泉に向かうかと思いきや、いろいろ寄り道をする。おいしそうな果物があるから、とか、かわいい動物がいた、とか。彩香はとても楽しそうだ。


「でもねえ、弘樹くん」「何?」

「あたし、ほんとうはとっても心配なの」

「……何が?」

 心配ごとなんて、まるでなさそうだけれど、そう聞いてみる。

「あたしね、メリーゴーランド、だめなの」

「だめって?」

「だーかーらー! メリーゴーランドに酔うんだってば!」

「え?」

 まさか、あの幼児の乗り物で?

「だから、あたし、もしかしてペガサスに乗れないんじゃないかって、ほんとうにものすごく心配しているの」

「それは……」

 絶対無理じゃない? と思ったけれど、口には出さなかった。


「あーあ、あたし、空飛びたいのになあ。……ペガサスに乗れなかったら、魔法で飛ぼうかなっ。うん、そうしよう!」

 彩香はいつでも前向きである。そして、きっと本当に空を飛ぶ魔法を習得しそうな気がする。



   了



☆関連したお話

「ドラゴン」https://kakuyomu.jp/works/16817330653288664440


一話完結です。

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☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

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ペガサス 西しまこ @nishi-shima

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