後始末

異端者

『後始末』本文

「最初から何か変だったんですよね……ぬいぐるみの中にシャリシャリした物が入っているというか――」


 そう話すのは、彼女、今回取材をお願いしたYさんだ。

 Yさんは彼氏にキャラクター(版権の都合で名前は伏せる)のぬいぐるみをもらったのだという。

 変だと感じたものの、大好きな彼氏からのプレゼントということで大事に部屋に飾ることにした。

 しかし、それから奇妙なことが起こるようになった。

 当時、彼女は大学の都合でアパートでの独り暮らしだった。それなのに、他人の気配を感じるようになったのだと言う。

「なんていうか……声はしないけど。確かに『居る』って感じました」

 一人で居るはずなのに、他人が居るように感じる。それは、今思えばそのぬいぐるみから発せられた気配だったのだろうと言った。

 それからも、奇妙なことが続いた。

 寝ていると足音やパキパキとしたラップ音がする。

 窓の外を何かがよぎる。

 ついには、夜中に目が覚めると誰かの足が見えて、慌てて起き上がると誰も居ないということが起きた。

「何かおかしなことがないか、何度も聞かれました」

 それを確認するかのように、彼氏は会う度にそう聞いてきたと言う。

 自分の様子がおかしいので心配されているのだと、その時は思った。

 だが、彼女は言えなかった。こんなこと奇妙なことを言ったら、頭のおかしい女だと幻滅されてしまうかもしれない――彼女は彼氏に嫌われるのが怖かったそうだ。

 それでも、奇妙なことが続くと精神的に耐えられなくなってきた。

 彼女は昔の女友達に占いなどのオカルトに詳しい人が居たことを思い出して、わらにもすがる思いで電話した。

「そのぬいぐるみ、どこか変な所はない?」

 一通り聞き終えると、その友人はそう言った。

 Yさんは、ぬいぐるみを手に取ると、子細に観察した。

 裏側の縫い目の所に、明らかに一度開いて赤い糸で縫い直した箇所が見つかった。

「やっぱり……」

 それを告げると、友人は確信したように言った。そして、こう続けた。

「それは、ひとりかくれんぼに使ったぬいぐるみだよ」

 ――ひとりかくれんぼ?

 オカルトの知識がないYさんには何のことか分からなかった。

 友人は、その内容を事細かに説明してくれた。

 ひとりかくれんぼとは、ぬいぐるみを使った降霊術の一種で、大変危険なものだという。

 ぬいぐるみを使って霊を呼び、終えた後のぬいぐるみは本来なら燃やして処分しなければならない決まりらしかった。

 それを彼氏は処分せずに、Yさんにあげたのだろうと言われた。

 Yさんは確認するようにぬいぐるみの中を開くと、米と少しの髪の毛、それと何か機械のようなものが出てきた。

 機械を除いては、明らかに先程聞いたひとりかくれんぼの用意だった。

 もう疑いの余地はない――彼女はカッとなって彼氏を呼び出した。

 やって来た彼氏にそのことを告げると、悪びれる様子もなくあっさりと認めた。

 彼氏は動画配信で稼ごうと思っていて、その「ネタ」としてひとりかくれんぼに使ったぬいぐるみに盗聴器を仕掛けて彼女に贈ったのだと言った。何度も聞いてきたのも、心配ではなく動画に使うための体験談が欲しかったそうだ。

 彼女は自分が実験台のように使われていたことに怒り心頭し、袋に入れたぬいぐるみを彼氏に無理矢理持たせると追い出した。

「前から動画配信で稼いでるって聞いてたんですが、あんなことするとは思いませんでした」

 彼女はその時のことを思い出したようで、眉をひそめた。

 その後、ほどなくしてその彼氏とは別れたという。

 やっぱり、そのことが原因ですか――そう聞くと、彼女は笑って答えた。


 それとは関係なくて、三股をされていたことが原因だった。それがなければ、今も付き合っていた筈だそうだ。

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後始末 異端者 @itansya

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