ギフト・ドクター【KAC20232】

椎名類

Gift Doctor



「お前、コレどうすんの?」


 ぬいぐるみを開胸していた彼は、銀のハサミで何も無いくうをシャキシャキと切り、何気なく男に質問を投げかける。


「どうするって、贈り物だよ?」

「こんな、腹を開けば機械だらけのぬいぐるみをか?」


 彼は、綿の中に幾つかの部品を仕込む作業中だ。照明を当てられたぬいぐるみは、さながら手術を受けているよう。彼の本職は、医師。あながち間違いでも無い。


「触ったら鳴るくらい、ふわふわにしてくれるかい?」

「音が出る部品も入れろって?」

「やだなあ。機械感ないくらい、ちゃんとぬいぐるみにしてくれってことだよ」


「わかってる。大きいのも小さいのも、正真正銘ぬいぐるみだよ。カメラと盗聴機付きってだけで」

「嬉しい〜!」

「嬉しいかぁ?」


 にこにこと喜ぶ男に共感が出来ず、彼は疑問符を声に出す。すると、男は言った。



「まだ直接会いたくない、でも顔が見たい。そんな相手は君には居ないのか?」

「顔が見たいなら、直接会えば?」


「何をしてるか知りたい。どんな声で話して、どんな表情を見せるのか、知りたくない?」

「だから、直接会えば?」


 もこもことした綿を次々にぬいぐるみの中に入れながら、質問に質問で返す彼は器用だ。

 男は、既に出来上がった一体のぬいぐるみを手に取って呟く。


「まだ会えないんだよ。だから、贈り物をするんだ」

「切ないねぇ」


「そう! 切ない! なんなら、会えないかもしれないんだ。でも君のお陰で、ぬいぐるみ越しに会えるんだ」

「会ってはないねぇ」


 しんみりと感傷的な空気を出す男を無視して、彼は適当に相槌をした。


 縫合を終えれば、ぬいぐるみの完成だ。部品の起動を確認して、数体の患者を男に渡す。

 大中小、様々なぬいぐるみを受け取った男は、と鳴らすように頭や胴体を触った。



「そんなに会いたいなら、お前がこの中に入るか? もっとデカいのを持って来いよ」


「ヤダ。それは面倒!」

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ギフト・ドクター【KAC20232】 椎名類 @siina_lui

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