三陸鉄道

呼吸

第1話

甥が三陸鉄道に行くらしい


わたしの頭のなかにはゆるふわ日本地図しか入っていないので、三陸鉄道がどこにあるかさっぱりわからないし正直なところどうでも良い。一泊ではなく二泊で行くらしい。


なぜ三陸鉄道なのかというと学校で自慢できるからだそうだ。三陸鉄道のなにが自慢になるのかはわからないが、軽率な理由で旅に出るのは貴重な経験なのかもしれない。


思えば、旅行が好きではない。わざわざ遠くに出向いてまで食べたいものもなければ見たいものもない。少し前に母に連れられてあちこち旅行した。道中考えていたのは自宅で留守番しているペットのことだった。だれもいない部屋に差し込む日光、あったかい毛布、掃除機をかけたばかりの床。ああ帰りたい。返してくれマイライフといった調子だった。骨の髄までインドア人間なのだ。


なのに、だ。わたしはよくヨーロッパへ行きたいなどと大嘘をついている。


理由は決まっている。暇なのだ。時間を持て余しているのだ。これといった趣味がない。時間を忘れて何かを楽しんだ経験がない。何度も観たドラマとどうでも良い動画で時間をとかしている、妥協と惰性のダブルコンボである。これが先ほど、返してくれなどと偉そうに言ったマイライフの正体である。


何度も観たドラマとどうでも良い動画で時間を溶かしている場合ではない。時間があったら発明をしなければ。天才は何かを作り出さねばならぬ。そうと決めたら善は急げだ。なにを作るかはYouTubeで決めよう。今夜は長くなりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三陸鉄道 呼吸 @52__pyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る