第7話 最後の時
やがて数時間が過ぎた。男たちの作業はやっと終わったらしい。大きく伸びをしながら私たちの方にやって来た。
「やっと終わった。暗号資産は俺たちのものになった。あとはここをずらかるのみだ。」
男の一人が言った。もう一人の男は手袋をしてロープを手にしていた。
「できるだけ苦しまないように殺してやるからな。」
男はロープを「バシッ! バシッ!」としごきながら私に近づいてきた。私は何とか逃げようとするが手錠が配管を巻き込んでいて動きが取れない。その横で美緒ちゃんは震えていた。
「まずはお前からだ!」
男は私の首にロープをかけた。そして絞め殺そうと力を入れていった。
「うっ・・・うっ・・・」
私は苦しみながら意識が遠くなってきていた。その時、廃墟のドアが「バタン!」と開いた。
「警察だ! そこを動くな!」
それは班長たちだった。なんとか間に合ったのだ。
「やべぇ!」
2人の男は慌てて逃げようと窓の方に向かった。しかし彼らがそこに行く前に班長たちが捕まえて、暴れる男たちに手錠をかけていった。それで彼らはあきらめたようにおとなしくなった。
2人の男は連行されていった。班長と藤田刑事が私たちのそばに来てくれた。
「大丈夫か? 日比野。」
「はい。」
藤田刑事が私の手錠を外してくれた。私は腫れあがって赤くなった首や手首をさすりながら、まだ震えている美緒ちゃんを抱きしめた。
「よくがんばったね。もう大丈夫よ。」
「お姉さん。うさぎさんが助けてくれたの?」
美緒ちゃんが聞いた。すると班長があのうさぎのぬいぐるみを美緒ちゃんに差し出した。
「そうだよ。」
「ありがとう!」
美緒ちゃんはそのぬいぐるみを抱きしめた。それでようやく落ち着いたようだ。
「大事なぬいぐるみが戻ってきてよかったね。」
私はそう言葉をかけ、ぬいぐるみをうれしそうに抱きしめる彼女をを微笑みながら見ていた。班長が私に言った。
「警察バッジの入ったぬいぐるみをこの近くを通りかかった子供が交番に届けてくれたんだ。それでこの場所が判明した。」
「助かりました・・・」
私はほっと息を吐いた。これで事件は解決した。だが・・・
この一連の恐ろしい事件のことを幼い美緒ちゃんはまだ知らない。彼女の父親が強盗犯で、仲間を裏切って殺されてしまったことを・・・。それを彼女が知った時のことを思うと私は不憫で仕方がなかった。廃墟の冷たさが今になって私の身に染みてきていた。
強盗犯からのぬいぐるみ 広之新 @hironosin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます