第6話 2人の男

 気が付くと、私は暗い廃墟のような場所にいた。起き上がると頭が痛い。それに両手がそばの配管のパイプとともに手錠でつながれて自由が利かなかった。辺りを見渡すと、少し離れたところに美緒ちゃんがいた。彼女はさびしそうに膝を抱えて座っていた。


「美緒ちゃん!」


 私が声をかけると、美緒ちゃんは立ち上がって私の方に来た。


「お姉ちゃん。よかった。起きてくれて・・・」


 彼女は嬉しそうに笑顔を向けてくれた。すると奥から男の声が聞こえた。


「目が覚めたようだな。」


 男が2人現れた。顔を見たが山中ではない。


「あなたたちが美緒ちゃんを誘拐したのね!」

「ああ、そうだ。お前たちも見ただろう。山中がUSBメモリを娘のうさぎのぬいぐるみに隠したのだ。それを回収しようと見張っていたら、ちょうど娘がぬいぐるみをもって外に出たから誘拐したのだ。だが車に無理に乗せた時にぬいぐるみを落としていたとはな。」

「そんなことをしてまでそれが大事なの?」

「ああ、そうだ。冥土の土産に教えてやろう。俺たちは宝石店に強盗に入り、そこで奪った宝石をブローカーに持ち込んで金に換えた。だが現金では足がつくし、海外に持ち出せない。だから暗号資産に変えた。それなら簡単に海外に持ち出せる。その暗号資産の情報がUSBメモリに入っているのだ。」


 それでUSBメモリの謎が解けた。そしてやはりこの男たちが山中の仲間の宝石強盗だった。そういえば山中の姿が見えない。私は聞いた。


「山中はどうしたの?」 

「奴はせっかくのお宝を独り占めしようとUSBメモリを盗んで娘のぬいぐるみに隠しやがった。それで奴は姿をくらまし、ほとぼりが冷めた頃に回収しようと考えたのだろう。だがそうはいかない。俺たちは奴を捕まえて吐かして始末した。裏切ったからな。」


 男の一人はこともなげに言った。そんな残酷な言葉を聞いても美緒ちゃんは何もわかっていないようなのが救いだった。


「私たちをどうするの? 人質なら私一人でいいでしょう。美緒ちゃんを放しなさい!」

「ふふふ。それはできない。今、USBメモリの情報を引き出している。これで俺らは大金持ちだ。それがすんだらゆっくり始末してやる。これで遊んでおけ!」


 男は用なしになったうさぎのぬいぐるみを美緒ちゃんの方に放った。そして私に向かって取り上げた警察バッジを投げつけた。


「ゆっくり待っていろよ! 日比野美沙巡査長さんよ! はっはっは。」


 2人の男はまた奥に行って作業を始めたようだ。


(このままでは私たちは殺される。なんとかここにいることを誰かに知らせなければ・・・)


 私のそばで美緒ちゃんは怖がることもなく、返してもらったぬいぐるみで遊んでいた。そこで私は思いついた。


「美緒ちゃん。このうさぎさんに助けてもらいましょう。」

「えっ? どうやって?」

「うさぎさんに私の手帳を入れて窓から逃がしてあげるといいわ。」

「えー。でも・・・せっかくのうさぎさんが・・・」

「大丈夫よ。また戻ってくるわ。お姉さんの近くに落ちている手帳をうさぎさんの中に入れて・・・」


 美緒ちゃんは開いたままのぬいぐるみの背中に警察バッジを押し込んだ。


「そうよ。それをあの窓から放り投げて。」


 男たちは作業に夢中でこちらの様子に気が付いていない。美緒ちゃんは少しだけ開いている窓からぬいぐるみを放り投げた。それはうまく外に出たようだ。


(あとはそれを拾ってくれる人を待つだけ。もし交番に届けてくれたらきっと助けに来てくれる・・・)


 私はかすかな希望を持っていた。

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