ダイオウグソクムシとは等脚目スナホリムシ科の海生甲殻類である。

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

ダイオウグソクムシとは等脚目スナホリムシ科の海生甲殻類である。

「マイハニー。僕がいない間、このぬいぐるみを僕だと思って大事にしてくれ」


「その流れでダイオウグソクムシの4/1スケールぬいぐるみが出てくることある?」


 ダイオウグソクムシはダンゴムシによく似た形状の海の生き物であり、体長は最大五十センチメートルにまで成長する。

 そして1/4よんぶんのいちスケールではない。4/1いちぶんのよんスケールである。

 つまり現在彼女の部屋には、ダンゴムシによく似た形状の体長二メートル近い物体が鎮座していることになる。

 なお壁に立てかけて足をこちらに向けている。わさわさ。


「僕に似てカワイイだろう?」


「脳みそのどの部分に重篤な障害を受けたら自分のことを嬉々としてダイオウグソクムシに似てるって発言が出てくるの?」


「彼との出会いはそう……僕が深海二百メートルを素潜りしていたころ……」


「さらりと人間の限界を超えないで? 脳の障害はそのときに受けたの? それとも脳に障害を受けたから素潜りしたの?」


「ダイオウグソクムシは足が七対あるんだぞ! すごいだろう! 人間の七倍だぞ七倍!」


「足の数を誇れるんなら百足むかでの方がすごいってか、ちょっと待ってそのぬいぐるみ、なんか足が動いてない?」


「心配するなマイハニー! 動くのはちょっとだけだ! 夜寝てる間にベッド下に置いてあったのがいつの間にかベッドに潜り込んでくる程度だ!」


「クーリングオフーッ!! 今すぐ海に返へんぴんしてきなさいクーリングオフーッ!!」


「はっはっは知らなかったかいマイハニー? クーリングオフは一般的に八日間が限度だぜ?

 そして僕が彼と出会ったのは八年前だ!」


「あたしより付き合い長いじゃないのよその等脚目とうきゃくもく!?」


「嫉妬かい? 珍しいねマイハニー」


「嫉妬じゃないし珍しいにもほどがあるでしょ等脚目に嫉妬する彼女とか!?」


「安心しろマイハニー! 節足動物門せっそくどうぶつもんまで広げても珍しいと思うぞ!」


「どうでもいいわそんなくくり!?」


「きみも彼のこと気に入ってくれると思ったんだけどなー。ボタン押すと鳴き声も出るんだぞ。ぽちっとな」


『ギオンショウジャノカネノコエェ……』


「どこの節足動物がンな鳴き方するんじゃボケェーーッ!?」


「アラーム機能もついてるから、この鳴き声で毎朝すがすがしく起きられるよ」


「諸行無常の響きの中にすがすがしさを感じられるのは源氏の末裔くらいのもんだと思うんだけど!?」


「そしてとっておき。こっちのボタンを押してみて」


「やだやだやだやだ絶対ろくでもないことやるじゃん!? この流れで誰が押したいと思うのよ!?」


「そう言わずにほら、ぽちっとな」


「いーやーだーー!!」


『月ガ綺麗デスネ……』パカッ


「えっ……ダイオウグソクムシの口が開いて……中からこれ、指輪……?」


「マイハニー。僕と、結婚してください」


「えっ……えっ?」


「…………」じーっ


『…………』じーっ


「…………いやシチュエーションんんんん!!

 何が悲しくて婚約指輪を彼氏じゃなくて節足動物に差し出されなくちゃいけないのよ!?」


「じゃっ! 三日くらいで帰ってくるから、返事はそのときでいいよ!

 助けた亀に誘われて、ちょっと深海に遊びに行ってくる!」


「それ三日のつもりが何年も帰ってこないやつゥゥゥゥ!!」




おわり!!

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ダイオウグソクムシとは等脚目スナホリムシ科の海生甲殻類である。 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker

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