歪んだ盤上で復讐は果たされし ――0――


 日が暮れてから降りはじめた雨脚は段々と強くなっていった。ザーザーと地を打つ雨音は山林の静寂を打ち破り、夢占いの館の屋根を打ちつける。


 ただ、防音の効いた密室ではその音も響かない。

 灯りも消えた薄暗い部屋の中、燭台の上でゆらゆらと炎が揺れている。

 響いたのは――ふたつの銃声。ふたつの弾丸は交差して、ひとつは宙を切り裂き壁へ。もうひとつは燭台の炎を掠め、男の心臓をしっかり捉えて貫いた。


 揺れていた炎が消えて、暗闇と静寂だけが支配する。ほんの数秒の間に決着はついていた。

 それを呆気ないと笑ったのか、つまらないと笑ったのか。「ははは……」と乾いた女の声が部屋に響いた。


――『復讐』は虚しくて、『支配』なんてもっと虚しい言葉に聞こえる。だけれどそれは、空虚でしかない虚実に満ちたこの盤上に、相応しい動機だったのだろう。


『復讐』と『支配』に彩られた事件の幕開けに。


――はじめよう。


 そう胸中で呟いた女は、今しがた命を失った死体の傷口を塞ぎ、「かはは」と笑う。


――これはわたしの復讐だ。舞台は整った。駒は出揃っている。

 ならば、この盤上、利用させてもらおうか。

 そうして世に知らしめろ。忌々しいその名を汚して刻め――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る