最終話 終焉

純血の吸血鬼エリーゼ・クロフォードの復活と共に世界の崩壊は加速した。

崩壊を止めることも、遅らせることも出来ぬまま我々人類は只、世界の終末を見ていることしか出来なかった。

回避困難な状況に陥ったとき、人はその状況から逃げようとする努力すら行わなくなるとはこのことか、と腑に落ちた。


この状況の中、唯一の救いはエリーゼ・クロフォードと鉢合わせた者の大半は自らが死んだと認識する前に雲散霧消になることだ。

リビングデッドに会えば、自らの肉が千切られる激痛と共に悲鳴と糞尿の臭いの中、絶命するだけだ。

無力な無価値な只の肉の塊に成り下がるのだ。

それを絶望といえば聞こえが良いか悪いのかももう確かめる手段は彼らには無い。

そう考えれば、ではないだろうか。


さて、前置きはここまでにしておこう。

この世界軸のすべての終末を私は此処とは別の世界軸の私に記録しておかなくてはいけない。


それが私ことチガネが課せられたとしての責務だ。


チガネは自身の髪に留めていた歯車型の髪留めを手に取った。

歯車は左に回転すると巻子本と青銅のペンが現れる。



ラヴィ・アンダーグレイ。

世釋もといカイン・クロフォードにより、全身の血液を一滴も残らず吸血されたのち、旧エリーゼ・クロフォードに与えられた加護もカイン・クロフォードに承継され、消失した。


八百、七瀬両者相討ちにより死亡。

発動条件はわからないが、怠惰の悪魔の能力を模った砂時計により死亡後にその願望を叶える為、自らの望んだ夢の中に七瀬は永久にもぐってしまったようだった。

それは彼女にとって、最後本当に望んだことだったのだろうか。

チガネは筆を止めると、首を傾げた。

そして、〖どんな結果でも彼女には後悔だけはして欲しくはない〗と追記した。



シキ・ヴァイスハイトが何かしらの手段を使い、現在の主肉体である青年ユキノの能力を取得。

東雲真緒はシキ・ヴァイスハイトとの戦闘の末に大量の氷柱に突き刺され、即死。

その光景を間近で只、見ていることしか出来なかったリリィは精神崩壊ののちに自らの喉首を切り、自害した。

シキ・ヴァイスハイトがリリィの屍の手を取り、向かい合ってスローワルツを行い始めたときはその異様な光景に流石のチガネも唖然としてしまった。


アルカラにより崩壊が始まった際、大地が揺れ、大きな地震が起こった。

建物の到るところは損壊しており、建物の下敷きになった人々も居た。


彼ら二人もそこに含まれた。

藍を庇い、瓦礫の下敷きになったユヅルは即死。

その場をすぐに逃げればいいものをユヅルを助けようと、瓦礫を除けていた藍は

頭上から落ちてきた鉄筋棒に運悪く避け切れず、気絶。

そのまま再度地震が起き、瓦礫に埋もれた。

悪魔と彼らの交わした契りが死により失われ、暴食の悪魔、嫉妬の悪魔両名に彼らの魂が献上された。



チガネは巻子本へ記録を書き終えると、歯車が少しずつ動きを止める。

そして歯車を髪に留めると、溜息をついた。



「選択を誤っていても誤っていなかったとしてもこの世界軸の終焉は決まっていました。

人の人生の中には選択が数多くあります。

時には間違い、学び、導かれる時もあるでしょう。

最も難しいのはが必ずしも正解に導いてくれるとは判らないことです。

だから、人は我武者羅に自らが選んだその選択が間違っていなかったと足掻くのでしょう。


この世界を最後まで見届けた傍観者の皆さん。

どうすればこの世界は終焉の運命から逃れることが出来たのでしょうか? 」


チガネはそう問うと、同時に世界は消失した。



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デッド・オブザワールド: ShinA @shiina27

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