ぬいぐるみに憑依した悪霊のつもりだったのですが、周りのぬいぐるみやお人形もみんな意思を持っていました。
秋空 脱兎
新しい職場(?)は魑魅魍魎の巣窟のようですが、私は元気です助けてください。
「ふうん、怪獣のぬいぐるみに憑依した時に、不治の病で死ぬまで誰も見舞いに来なかったから、医療従事者以外みーんな呪い殺してやろうと意気込んでいたのね?」
「はい……」
「んで、中古屋のキャラクターグッズコーナーの片隅で誰かに買われるまで息をひそめてた所、お嬢の目に留まって、ここに来たと」
「はい……」
「ここには馴れた?」
「いいえ……」
「そうだろうねえ。目に見えてめっちゃ遠慮してるし。アタシ目ェないけど。
「だって……だって! この家、私よりよっぽどヤバイ悪霊の巣窟じゃないですか!?」
「そうよ?」
「昨日だってアンモナイトさんが泥棒四人捩じ切って殺してましたし!」
「イカしてたわねえ」
「物理法則もあったモンじゃないですよ」
「悪霊が宿ったぬいぐるみやフィギュアがいる時点で今更じゃない?」
「この家の家主の女の子──何で幼子が一軒家持ってるのか知らないですけど──、何で殺されないんですか……?」
「そりゃあ、大事に扱ってくれるからよ。毎日話しかけてくれるし。ほつれてたり可動部分がへたってるのをすぐに気付いて、治してくれるし」
「本当にそれだけですか……?」
「あの子のがこの家の
「は、はあ……?」
「例えばそうね……一昨日まで、誘拐怪人による人体消失多発事件、起きてたでしょう?」
「ああ、家主さんがそこのテレビでYouTubeの動画見せてくれた時にオススメ欄みたいな部分に流れてきましたね。最後は巨大化した怪人を……記憶容量の都合で名前忘れちゃいましたけど、銀色の巨人が爆殺したっていう」
「あれねえ、実はもう二体いたのよ」
「え?」
「三体いるのを、一体に見せかけてたの。二体が死んでも、最後の一体が目的を達成する方針だったみたい。あの巨人も、その協力者達も、見事に騙されてたのよ。捕獲された人々が危うく別次元の彼方に連れ去られそうになったのを、あの子が食い止めたワケ。その証拠が、一昨日あの子が持ち帰ってきた、コンパクト化眼光照射水晶体よ。今日出かけているのは、事後報告のためね」
「えぇ……」
「ここでは常識は通用しないわ。何せ、物理法則を改竄出来る存在が出現した事で誕生した、
「…………」
「ま、慣れなくても『そういうものだ』って思っとけばいいわ」
「…………もうちょっと、時間かかりそうです」
「それでもいいんじゃない……あら?」
「どうしたんです?」
「あの子が玄関の鍵を開ける時の音が聞こえたわ。帰ってきたみたいね」
「あ、さっきの音がそれなんですね。覚えておきます」
「そうして頂戴な。……ところで、家主がどんな子か覚えてる?」
「え? はい。鉄色の髪と瞳を殆ど黒に見える赤に染めた、太陽光に強い吸血鬼のお嬢さんですよね?」
ぬいぐるみに憑依した悪霊のつもりだったのですが、周りのぬいぐるみやお人形もみんな意思を持っていました。 秋空 脱兎 @ameh
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