第4話 進路

彼女は窓辺に座っていた。

 いつもは賑やかな教室も、この日ばかりはしんと静まり返っている。

「…………」

 私は机の上にノートを広げる。そしてシャーペンを手に取ると、一心不乱に書き始めた。

 それは詩のような文章だった。私には詩を書く才能なんてないけれど、それでも一生懸命書いたんだから。

 書き終えたあとに読み返すと、自分で読んでみてもよく分からない内容だと思った。でもきっと、これでいいのだろう。これは私の気持ちなんだから。

 ノートを閉じて鞄の中にしまうと、私は立ち上がった今日は卒業式。3年間通った学校ともお別れする日。

 ――さようなら。

 私は誰にも聞こえないように小さく呟くと、振り返ることなく教室を出ていった。

「ただいまー」

 家に帰るなり私は自室へと駆け込む。そしてカバンの中から一枚の紙を取り出した。

『進路希望調査票』と書かれたその紙は、つい先程まで担任教師に提出を迫られていたものだ。

「う~ん……どうしようかなぁ?」

 私はベッドの上でゴロンゴロンと転がりながら考える。

 高校を卒業したら大学に進学したいとは思っているけど、具体的にどこに行きたいとかはまだ決めていない。そもそも大学ってどんなところなのかも知らないし……。

「あ!そうだ!」

 突然ひらめいた。これならきっと良い考えが浮かぶはずだ。そう思った私は早速パソコンを立ち上げて調べることにした。

 検索ワードを打ち込んでエンターキーを押す。するとすぐに結果が表示された。

【大学の選び方】

 なるほど。まずは自分の興味のある分野を調べればいいのか。それじゃあ……

 ・文学系(文芸)

 →芥川賞や直木賞をとった作家を輩出している大学を探す。

 ・歴史 →過去に名を残した人物を輩出した大学を調べる。

 ・芸術 →音楽科がある音楽大学や美術大学などを探す。……なーるほど。色々あるんだね。とりあえず文学部とか芸術学部っていう学科があることは分かったよ。

 えっと他には何か無いかな?

 ・理系 →物理学部や化学部などの自然科学系の学問を専門にしている大学を探す。

 ・家政学系 →料理や栄養について学ぶことができる大学を探す。……へぇー、そうなんだ。家政学で料理のことを学ぶのかぁ。面白そうかも。それにしてもいっぱいあるんだね。まだ全然絞り込めてないんだけど……。

 それからしばらくあれでもないこれでもないと考え続けたものの、なかなかピンとくる大学は見つからなかった。

「う~ん……」

 私が悩んでいると、ふいにあることを思い出し部屋の本棚へと向かった。

 そこには小学校の頃からずっと集めている少女漫画の数々が並んでいる。

 その中の1冊を取り出すとパラパラとページをめくった。

 そしてとあるシーンを見てハッとする。

「あっ!!」

 思わず大きな声を出してしまった。慌てて口元を押さえる。お母さんたちに聞かれちゃったかなと思って部屋の外を確認しようとしたところで、廊下の方から何やら話し声が聞こえてきた。どうやら大丈夫みたいだ。ホッと胸を撫で下ろす。

 改めて手の中にある漫画を見つめると、自然と笑みがこぼれた。

 そっか、こういうことだったんだね。

 私は自分の進路が決まったことに満足しながら、ゆっくりと目を閉じた。

 ―完― こんにちは、琥珀です。この度は拙作を読んでいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたのならば幸いなのですが……。

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箱詰めの記憶 不動のねこ @KUGAKOHAKU0

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