第2話

「ある男の子と縁をつなぎたいんです。名前はわからないのですが…」

「愛莉さんとその男の子はいつ出会ったんですか?」

「今12歳ですが、7歳の時にその男の子と出会いました。当時は両親が共働きで、学校が終わった後、両親が帰ってくるまではおじいちゃんの家で過ごしていました。」

愛莉が話していると花丸が愛莉の膝の上に飛び乗った。花丸を撫でながら、愛莉は続ける。

「その日、珍しくおじいちゃんに怒られて私は不貞腐れておじいちゃんの家を出ちゃったんです。泣きながら歩いていたら、いつの間にか周りは真っ暗で自分がどこにいるのかさえわからないところまで来てしまっていました。暗くて怖くて、お腹も空いていて、疲れていたのもあって近くの公園のベンチに座りました。その時に、その男の子が現れたんです」

「男の子も一人だったんですか?」

「はい。男の子は私にどうしたの?と声をかけてきてくれました。しばらく男の子と話していて、いつの間にか私の中の怖いとかいう気持ちがなくなってそしたら遠くからお母さんの声がきこえてきて、振り返ったらお母さんがいて。私は安心してまた大泣きしながらお母さんのとこに走っていきました。そのあと、男の子にありがとうを伝えようとした時には、もういなくて…」

「なるほど」

「そのあと、お母さんと一緒にその公園に何度か行きましたが一度もその男の子には会えなくて。」

愛莉は、男の子のことを思い出しながら少し寂しそうな表情で楓に向く。

楓は愛莉の話を聞き、何かを考えているようだった。

「名前がわからないと縁つなぐことって難しいですかね…」

「いえ、そんなことはないですよ。縁つなぎの条件は、望む人がどうして縁をつなぎたいのかかその理由を聞くだけなんです。」

花丸は相変わらず愛莉の膝の上で、何かを覗くように見上げていた。

「愛莉さん、最初にお話ししたように縁つなぎには代償が必要です。愛莉さんの大切な縁なにか一つを代償にしてまで、その男の子との縁をつなぎたいですか」

愛莉は即答できなかった。男の子との縁がつながったところで、相手は覚えてないかもしれない。私の大切な縁を一つ代償にしてまで、やる必要があるのか。

「今日決断しなくてもいいですよ。やっぱりやらないというのもありです。実際、このお店に来て私の話を聞いて縁をつながない方も一定数いますから。愛莉さんの人生はまだまだ長く続くからこそ、しっかり考えてみてもいいと私は思います」

楓の優しい表情と言葉が愛莉に響く。

「ありがとうございます。少し考えてみます」

愛莉は、飲み物を飲み干し店をあとにした。

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当麻凛 @Gon0125

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