当麻凛

第1話

「今日もとても良い天気だね、花丸」

心地よい春の風が吹く朝、店の看板を出しながら楓は相方の猫である花丸に話しかけていた。

花丸は体を伸ばしながら、寝惚けたような鳴き声で返事をした。

年季が入った外観に比べ、店内は最近オープンしたような綺麗さがあった。掃除が行き届き、日が差すため昼間は電気をつけなくても問題ないぐらいの明るさである。

楓は嗜好品であるコーヒーを飲むため、準備をしていた。足下では、花丸が朝ごはんにがっついていた。

「花丸、そんなに急いで食べなくても誰も取らないよ」

楓の言葉には反応せず、無我夢中で自分のご飯に夢中の花丸。半分呆れながらも、愛おしい花丸の様子に自然を口元が緩む。

コーヒーを口に含みながら、朝食を食べている時に店の入り口が開いた。

「すみません、あの、こちらどんなものでも縁をつないでくれるっていうお店であっていますか」

「おはようございます。ええ、あっていますよ」

「よかった。外の看板に『縁つなぎ屋、開店。あなたの繋ぎたい縁、お手伝いします。』と書いてあって、ここだろうとは思ってたのですが心配で」

「どうぞおかけになってください。」

楓は窓際の席を少女に案内した。数分後、飲み物とクッキーをもち、楓は少女の真向かいに座る。

「改めまして、楓と申します。当店の主人です。お名前お伺いしてもよろしいでしょうか」

楓は少女に飲み物をすすめながら言う。

「あ、初めまして。高梨愛莉と言います。学校でどんな人や物と縁をつないでくれるお店があるって聞いて」

愛莉は、楓からすすめられた紅茶を一口含み恥ずかしそうに自己紹介をした。

「愛莉さんですね、ご来店ありがとうございます。噂通り、この縁つなぎ屋は人に限らず物や生き物との縁を繋げられることができます。まあ私しかいないのですが」

楓が愛莉に言うと、花丸が走ってきて不満そうな鳴き声を発する。

「ごめんごめん、花丸もいたね。忘れてないよ、怒らないで」

「この猫ちゃん、花丸っていうんですね」

「はい、花丸が私の相方で二人で縁つなぎ屋をやっています」

愛莉が花丸の頭を撫でると、ごろごろと喉を鳴らした。

「あの、縁をつなぐというのは魔法みたいなかんじなのでしょうか」

「魔法みたいに想像してしまいますよね。ある種間違ってはないかもしれませんが、魔法のように何もないところから生み出したりできるわけではないんです。代償が必要なんです」

「代金はあまり多くないですが一応お小遣い貯めた分を持ってきました」

楓はにこっと愛莉に笑みを向ける。

「いえ、お金はいらないんです」

「で、でも代償は必要なんですよね」

「代償は必要だけども代金は不要なんです。ちょっと難しいかもしれませんが大事なことなのでお話しします」

そういうと、楓はコーヒーを口に含んだ。

「縁とは、元々はその人が歩む人生の中で自然とつながっていくものです。もちろん、いい縁もあれば悪い縁もありますが。縁つなぎは言ってしまうと、強制的に縁をつなぐことなんです。例えば、愛莉さんが誰かや何かと縁をつなぎたいと願いつながった場合、その縁がつながれる本来の人の縁を奪ってしまうということになります。奪うものは奪われるということです。なので、愛莉さんが望んだ縁の代わりに愛莉さんの大切な縁一つをいただきます。これが代償となります」

愛莉は、楓の話を真剣に聞いていた。

「怖がらせてすみません。自分の願いを叶えるにはそれ相応の代償が必要ということを理解してもらうことが大事だと私は思っています。そして強制的につないだ縁は、一度つながってしまうとその人が生涯を終えるまで切ることはできません。さらに愛莉さんのこれからの人生の中で結びたくない縁が何かしらつながってしまいます。ただし、対象の人や物、生き物が愛莉さんとつながりたいと思っていた場合は、これに該当しません」

「つまり両思いだったら、結びたくない縁はつながらないということでしょうか」

「そうです」

楓にすすめられたクッキーを齧りながら、愛莉は考えていた。

「愛莉さんは、何と縁をつなぎたくてこちらにきてくださいましたか」

愛莉は少し間を空けて、話し始めた。

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