勝者の条件、ぬいぐるみの場合

鹿嶋 雲丹

第1話 すべてのぬいぐるみが愛されるとは限らない

 ぬいぐるみ。

 可愛い、癒やされる、を連想するこれを使って、私は幼い弟を泣かしたことがある。

 ことの発端は、当時8歳だった私だけを親戚の方が動物園に連れて行ってくれたことだ。

 園内を見終わり、さて記念にぬいぐるみでも買ってあげよう、という流れになった。

「わーい、やったあ!」

 はしゃいだ私が選んだのは、白い毛並の可愛らしいウサギだった。

「あら、かわいいわね! じゃあ、弟君にはなにを買ってあげようか?」

 優しい伯母から尋ねられ、私は回答に困った。

 その当時、弟は2歳で正直どんな動物が好きなのか、さっぱり見当もつかなかった。

「どうしよう……」

 散々迷ったあげくに私が選んだのが、わりとリアルなゾウさんのぬいぐるみだった。

「男の子なんだから、ゾウさんが好きに違いない!」

 私は謎の持論を展開し、それを手に喜ぶ弟の姿を想像した。

 ところが、現実は真逆だった。

 男の子だろうが、ぬいぐるみは可愛いものが勝者となるのだ。

 ギャン泣きする弟に、私は頑としてウサギのぬいぐるみを貸さなかった。

 ただでさえ両親が取られているのだ、これ以上私の好きなものを奪われてたまるか!

 非常に心の狭い姉である。

 しかし、まだ8歳の子供のすることである。そこは大目に見てほしい。

 それから時が経ち、私は長女を出産した2年後に長男を出産した。

 そして娘が5歳位の時、旦那が娘だけを連れて出かけていった。

 なにをしに行ったんだろう、と首を傾げた私の元に帰ってきた娘は、あるものを旦那に買ってもらっていた。

 嫌な予感が胸をよぎる。

 それはピンク色のふわふわした、非常に可愛らしいくまさんだった。

 嫌な予感は的中する。

「男の子には、何を選んだらいいのかわからなくて」

 気を利かせたつもりの旦那が、息子の為に選んだぬいぐるみ。

 スパイ○ーマン。

 息子がそれに目もくれなかったのは、言うまでもない。

 ぬいぐるみは、可愛いものが勝者となるのだから。

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勝者の条件、ぬいぐるみの場合 鹿嶋 雲丹 @uni888

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