ひつじの群れにくまがきた。

野林緑里

第1話

「メイお姉ちゃんってどうして羊さんなの?」


 ある日、年下の幼馴染みのレイがぬいぐるみを手にもって尋ねた。


「いいじゃないのよ。ひつじもかわいいわよ」


 メイは棚に飾られたいくつもの羊のひとつをとると、かわいいと惚けたようにみる。


「うーん。私はやっぱりくまさんのほうがかわいいと思うけどなあ」


 レイは持っていたくまとメイのもつ羊を交互に見る。


「まあ。人それぞれってことね。レイはレイヤの好きなものをすきでいいし、私は私の好きなものを好きでいるわ。それでよくない?」


 メイがいうとレイはしばらく考えたのちにそうだよねと頷いた。


「でも、どうしてそんなこと聞くの?」


「なんとなく、ふいに思ったのよ。メイ姉ちゃんってたくさんぬいぐるみ持っているのに、羊さんばかりだからなんでかなあと思ったのよ」


「あら、レイなんてくまのぬいぐるみだらけじゃないの。人のこといえないわよ」


「うーん。確かにそうだ」


「そういうこと。他人は他人。自分は自分よ」


「そっか」



 レイはくまのぬいぐるみを抱き締める。


「でも、そのぬいぐるみが一番好きなんだよね」


 メイが尋ねるとレイが満面の笑みを浮かべる。


「だって、これはリョウちゃんが誕生日プレゼントにくれたものだもん!」


 その笑顔は本当に幸せそうだった。


「そっか。いつか本当の妹になってくれたらいいわね」


「えええ! そっそんなこといわないでよ。お姉ちゃんのばか」


 そういいながらもレイの顔は真っ赤になる。


 どうやらまんざらでもないようだ。

 いつかそんな日がこないものか。


 いつか弟の良太郎とレイが結婚する日がくるといいなあ。


 メイはそんなことを考えていた。



 それからどれくらいのときが過ぎたのだろうか。


 メイは大学生になったのだが、いまでもぬいぐるみがすきで部屋に飾られている。


 あいかわらず羊のぬいぐるみばかりなのだが、ただひとつだけくまのぬいぐるみがあった。

 それは嫁に行くことのできなかったレイのために、ぬいぐるみだけでもとメイの家に嫁がせたものであった。







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ひつじの群れにくまがきた。 野林緑里 @gswolf0718

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