ぬいぐるみの敵

ふる里みやこ@受賞作家

ぬいぐるみの敵




いいいいいいやああああああ!!!

ダニがいるうあああううう!!!


東京都足立区のワンルームアパートに、ボクの大絶叫が……響かなかった。


叫びたいが叫べない。そう、ボクにはスピーカーが無いからだ。

中身は綿100%! 入っているのは綿、綿。綿ッ! そして混入、ポリエステル20%!

合わせて120%!


それもそのはず。ボク達【おっきいくまさん】のキャッチコピーは「抱き心地2割増し!」なのだ。綿100%だけど、そこに追加された分は綿じゃない。

勿論安心安全の外国製。うーん、この……。


いやそんなことはどうでもいいの。それよりボクを買ってくれたこの人!

自室の! 掃除が!! 甘い!!!


買ってきたその日に、そんな髪の毛が何本も落ちてる床に置く???

ねえ! ダニが!! 居るんですけどっ!!!

ボク! 彼らが住みやすい身体してるんですけど?!?!?! ねえ!!!!


あっ……。

…………人事は尽くした。

わー、きれいな景色だなぁ。舞うホコリがキラキラ輝いてて……。


「わー! くまちゃんだぁ!」


現実逃避をしていると、廊下の方から元気そうな小さな女の子が現れた。

お風呂上がりらしい。パンツ一枚で髪の毛から水が滴っている。


その子は、元気いっぱいに満点の笑顔でこっちに向かってどたどたと走ってきた。


…………待って。来ないで。こっちに! こないで!! 君まだ髪の毛乾いてな……いやあああああああ!!!

やめて! カビちゃう! 抱き心地は良いと思うけどボク結構デリケートなの!! お風呂上がりの子供のホッカホカな体温で抱きつかれたらやばいの!!!

ドライヤー! お母さんドライヤー!


この子のお母さんっぽい人の方を見ると、あらあら仕方がないわねえと言わんばかりに微笑んでいる。

微笑んでいるだけで何もしない。


神は死んだ。

ボクは将来、なんか変に変色して、舞うホコリを吸いまくって、そこにおいてあるだけで痒くなるくらいにはダニさんのお家になるんだ。


まぁそれも一つの運命だと思う……ことにした。少なくともそこそこお高いボクを買ってくれる程度には愛してくれるだろうからね。

この子も可愛いし……ちょっとキレイにしてくれたら嬉しいけど。




───────────────




1年後。

ダニと共存していたおかげかカビの被害は出なかったボクだけど、そんなボクを置いて皆は部屋から出て行ってしまった。


部屋の奥からケムリが上がる。


それはあっという間に部屋中に広がって、もう周りが全く見えなくなってしまった。







ボクの中のダニ達が見る見ると動かなくなっていく。


…………あ、これバルサンだ。

でっすよねー!


安心した。これで痒さとはおさらばできるね。良かった良かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみの敵 ふる里みやこ@受賞作家 @bagbag

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ