【KAC20232】今、私、東京に居ます。

リュウ

第1話 【KAC20232】今、私、東京に居ます。

 私は地元の大学を卒業し就職した。

 就職してから三年経とうとしていた時、辞めてしまった。

 あまりにも忙しく、自分が成長するには程遠い仕事で、「ここにいては、だめだ」と、思ったからだ。

 そして、旅行して頭を整理しようと思った。

 今日は、その帰りだった。

 着信があった。母からだった。

「早苗。もう着いてるの?今何処?」

 無事に帰って来たのかっと父の声が聞こえる。

「JR駅よ、札幌。今、地下鉄に乗るところ」

「よかった。じゃぁ、大丸の入口の白い彫刻の前で待ってて」

「えっ、出てくるの?」

「いや、とにかくそこに暫く居て」

 それだけ言うと、電話が切れた。

 仕方ないので、白い大理石の彫刻前で待っていた。

 前から、手を振りながら近づいてくる人が居た。

 清潔感のあるちょっとしたイケメンだ。誰と待ち合わせなのかなと周りを見渡す。

 そのイケメンは、私の前で止まって、顔を覗き込んだ。

「久しぶり」と笑った。

 誰?私の記憶の大検索が始まった。頭の中が、痒くなりそう。

「忘れたのかよ、圭介だよ」

「えっ、あの圭介?」思わす声のトーンが上がる。


 彼は、垢ぬけていた。札幌の住人ではない都会の匂いがした。

 彼とは、幼馴染だ。

 家が近所だったので、まるで兄弟のように育った。

 家に来てたし、勝手にご飯まで食べていた。

 高三の時、家庭科の宿題でクマのぬいぐるみを作っていた時、彼に「それ、かわいいから俺にくれない?」と言われたので、真剣に心を込めて作った。

 私は、好きだったから。そして、一月、彼に渡した。

 そして、バレンタインに告白しようと思っていた。

 彼は、東京の大学に行くっていってたから。

 放課後、チョコレートを渡そうとした時、クラスの一番人気の幸子が先に渡しているところを見てしまった。

 容姿と学力からみても勝てそうになかった。

 私は、足がすくみ遠くから見ていた。

 それから、彼とは疎遠になってしまった。

 幸子の方を私より好きになると信じてしまったから。

 今、考えてみると意識しすぎだった。あれから、ずーっと後悔していた。


「どこか、話せるとこ、行こう」と、彫刻の正面のエスカレーターを下った。

 二人とも、コロコロのスーツケースを転がしながら、場所を探す。

「ここにしょ」と一人で進んでいく。私は、彼に付いていくしか無かった。

 上島珈琲店に入っていく。

 彼はブレンド、私は黒糖ミルクを頼んで席についた。

「ほんと、久しぶりだけどどうしたの?」

「たまに実家に帰ってきたとこさ、早苗は?」

「会社、辞めちゃって。気分転換に旅行してきたとこ」

「ふーん」とコーヒーを口に運んだ。

「圭介は、今どうしてるの?」

「卒業卒業後、ここに就職してさ、ここ見て」と、名刺を指さした。

「去年、主任になったんだ」と嬉しそうに言った。

「いいところじゃない。主任かぁ、いいなぁ」

「ちょっと、給与も上がったわけ」と、またコーヒーを口に運んだ。

「これからどうするの?就職とか?結婚するとか?」

「どっちも考えてないわ。相手もいないし……」

「そうか」と言うと、急に鞄を開け、ゴソゴソと何か探していた。

「どうしたの?」

「うん、航空券、何処に入れたかなって……」

 その時、鞄の中に見つけてしまった。私は思わずそれを取り上げた。

 私があげたクマのぬいぐるみだった。

 とても、汚れていて、所々糸がほつれていた。

「早苗にもらったクマ、覚えてるだろ?大事にしてたんだ」

 と、言って私の手から取り上げた。

「ほら、糸が取れちゃってさ、直してよ。あれ?」

 糸がほつれた隙間から、紙が出ていた。ケイスケは、その紙を引き抜いた。

「あ、それ」私は反射的に紙を取ろうとしたが、ケイスケが手を挙げたので届かなかった。

 私、顔が熱くなるのを感じていた。紙には、あの時の私の想いが書かれている。

 ケースケは、その紙を見てポケットにねじ込んだ。

「ほんと」ケースケが私を見つめる。

「そん時はね」と私、冷たい黒糖ミルクでほてりを取った。

「早苗が、俺に興味ないと思ってた。チョコレートも貰えなかったし……」

「だって、ケースケ、幸子にチョコレート貰ったじゃない」

「ああ、でも幸子とは付き合ってないし……」

「そうなの……」ケースケの目を見た。

「なぁ、早苗。これ、変わってない?」

 ケースケは、さっきの紙きれを取り出した。

「ええ、変わってない。会いたかった」

 ケースケは、大きく頷いた。

「そうか、それじゃ行こうか!」

「ど、何処へ?今から?」

「そう、今から、俺の家。航空券も二人分あるし」

 航空券を私に向けた。

「俺、早苗と一緒になるって決めていたんだ。それで、早苗の父さんと母さんに訊いたら、早苗次第だって言われたんだ」

「私次第?」

「俺、ずーっと、早苗のこと好きだったから」

 ケースケに手を引かれて、店を出た。


 そして、 

 今、私、東京に居ます。

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