呪いのぬいぐるみコレクター
葎屋敷
晴天のギンギラとした太陽に焼かれる
本日も誠に世界は平和であり、普段通り。これから退屈な授業、救いの時間昼食タイム、放課後の部活動を経て至福の夕飯へ。そんな日常を過ごせるはずだったのだが……、ひとりの友人の登校によって、私が立てていた今日の予定は白紙となった。
「あ、凛ちゃんおはよー」
「ああ、七原おは……どうしたお前!?」
私のクラスメイト、七原幸子の朝の挨拶はいつものんびりしている。睡眠欲求から解放されていないのではなかろうかと思われ、悠々とした口調は常に崩れない。口が悪いと言われてばかりの私とは正反対な呑気な性格をしている。
そんな彼女はいつも通りにニコニコと挨拶をしてきてはいる。しかし、彼女の状況は常人であればとても笑顔を浮かべられるものではなかった。彼女の顔を見て、私は自分の顎が外れるのを懸念するほど驚いたくらいだ。
というのも、七原の額に大きなコブがあったのだ。しかも、それだけではない。彼女の額から出血もしており、髪をひとつにまとめている白いリボンがその血で汚れている。スカートは泥塗れ、靴はズタボロ、カバンからは茶色い汁が滴っている。これで笑っていられるとは、彼女の呑気もついに極地へと至ったらしい。
「どうしたのさっちゃん」
「そうだよ、泥だらけだよ」
「ていうか、廊下やば、めっちゃ濡れてる」
他のクラスメイトも彼女の惨状に目を丸くし、口々に心配そうに声をかける。私は朝おろしたばかりのタオルを手に、彼女を中心に輪を作るクラスメイトの隙間を縫い、その正面へ躍り出た。
「どうした、七原、誰にやられた!!」
「実はね〜、転んじゃったんだよね〜。マンホールのね、えっとね〜、蓋がね〜、空いててね〜」
私に頭を拭かれつつ、七原は事の次第を語る。しかしその口調のスピードは亀の歩にも負けないゆったりなもの。彼女の語りの終わりを聞かないまま、クラスメイトたちが「マンホールの下に落ちたのね!」「オチが着いたね」「落ちただけに」とザワつく。そんなギャラリーに手刀を食らせて黙らし、七原に続きを促した。
「でね〜、ズレてた蓋に躓いて転んだんだよね~」
「転んだってのは本当なのか。出血はその時?」
「ううん、違うよ〜。その時はタンコブだけなの。あのね〜、転んだ後、歩いてたら植木鉢が落ちてきてね〜」
「まさか当たったのか!?」
「うん、そうなの〜。もう止まったけどね、血がピッてね〜」
「なんで生きてる!」
植木鉢は陶器だ。あんなものが数メートル上から落ちて来たら、どうなるか。もちろん、当たり所が悪ければ死んでしまう。というか、生きているとはいえ出血しているのだから、普通に当たり所は良くない。
「私、頭が石みたいだから〜。大丈夫でした〜」
「血がピッ、の時点で大丈夫ではないでしょ」
野次馬のひとりがそう指摘すると、私を含む一同が頷いた。他方、七原は不思議そうに首を傾げている。呑気とかそういう言葉で彼女の脳みそは形容できない。もっとふさわしい言葉があるような気がする。
「その後、庭先に水撒いてたお爺さんのホースがこっち向いてて、服濡れちゃって〜」
「それは運が悪いな」
「でね、道の角から黒猫さんが横切ったと思ったら、足元がツルッと滑って水溜まりにぼちゃんってね、尻餅ついちゃったの〜」
「それは縁起が悪いな」
「あとね〜、お茶入れた水筒ちゃんと閉めてなかったみたいでね〜、気づいたら鞄がびちゃびちゃ〜」
「それはお前が悪い」
七原の不運と不手際に嘆きつつ、私は野次馬共を追い払い、彼女を保健室へと誘導した。道中、こいつにふさわしい言葉が“阿呆”であるということに気が付いたが、今更指摘することもためらわれたので、胸の奥にしまっておいた。
*
薬品の臭いに眉をしかめつつ、椅子に座っていた養護教諭に七原の治療を依頼する。応急手当が手際よくなされる横で、私は養護教諭から借りたタオルで鞄のお茶を拭いていた。鞄の中にあった物が須らくお茶っぱ臭い。薬品と茶の臭いが混沌としながら私の鼻を刺激していると、後ろで話している先生と七原の会話が聞こえて来た。
「それにしても、随分運が悪いのね? 呪われてない?」
「やだなぁ、先生。呪われるような覚えないですよ~」
先生の問いを七原は笑い飛ばす。確かに、呪いなんて非科学的であるが、それにしても七原の今日の間の悪さは相当だ。朝のニュースの占いが最下位の日でも、運動部でもない女の顔に大層な傷ができることなど、そうそうあってはならないというのに。
「先生、呪いなんて、さすがにスピリチュアルすぎます」
「でもほら、七原さんってなんとなくで悪霊とか引っかけてきそうだし。鏡が割れたり、家に飾ってある絵が落ちたり、靴紐が切れたり、てんとう虫の死骸を見つけたり、とか。そいう兆候はなかったの?」
「いや、先生さすがに――」
「すごぉい。先生、よくわかったね~。昨日の夜、そういうのあったよ! 鏡割れたし、額縁が壁から落ちちゃったし、靴紐は三本切れてね~、虫さんはお庭の花の横にいたよ。死んじゃってたけど」
「全部あったんかい。じゃあ呪われてるわ、お前」
現実的ではないように思えた先生があげた例は、ことごとく七原の身に起きたことと一致してらしく、まさに彼女は呪われているといって差し支えない状況だった。私が知らない間に、友人である七原がそんな目に遭っていたとは。
「それにしても……」
私は麦茶を拭きつつ、首を横に傾ける。昨日まで、七原はいつも通りだった。いつも通り授業をそこそこに過ごし、放課後は絵を描きに美術室へ向かっていた。美術部だからだ。呪われる切っ掛けなんて、どこにあるのか。
「七原、昨日、なんかいつもと違う行動した?」
「うーん、特にないなぁ。勉強して~、絵描いて~、学校でた後はちょっと買い物して~、家に帰ったら鏡が割れて~」
「買い物って、七原さん、なに買ったの?」
先生が質問すると、七原はしたり顔で胸を張った。ああいう時の七原は迂闊な行動をしている。これまでの彼女との付き合いからそう確信しつつ、私は麦茶の染みた鞄から物共を救出していく。すると、ひとつ、学生生活には似つかわしくない物を見つけた。
「おい、七原これ――」
「そう聞いて、先生! 実はね、いつも通ってる公園で知らないお婆ちゃんが小さなぬいぐるみを売ってたの!」
七原の言葉に、私は自分が今握っている物を見る。人形だ。縦に十五センチくらいの、小さなぬいぐるみ。女の子を模していて、黒髪に見せるフェルトは腰まである。そして何故か、その黒髪はガタガタで特徴的な形状をしている。目は半分取れかけており、顔にはどうしてだろうか、赤い模様がついている。血に見えるのは私の気のせいに違いない。
お腹には切れ目があり、握りつぶすと中からピンク色のスクイーズが出てくる、きもい。全体的に薄汚れているし、目玉としてつけられたビー玉が何故か、本当になんでかわからないが、ギョロギョロと動いている。そしてお茶臭い。私はそのぬいぐるみをその場にたたきつけた。ぬいぐるみはお茶の染みた鞄へと舞い戻っていった。その時、「ぶふぃっぎぎぎゃ!」と無機物が発するとは思えない奇妙な鳴き声がかすかに耳に届いたが、それもまた、私の気のせいに相違ない。
「すっごいかわいいの! だからむしろ良いことがあったんだよ、家に帰るまで~」
「お前の目玉腐ってんのか! いや、どう見てもこれが呪いの人形だが!?」
「え~、凛ちゃんひどーい。かわいいよ、ピンク色の綿毛も出てくるし」
「綿毛じゃねぇ絶対! 臓器っぽいスクイーズ!」
七原のセンスに戦慄を覚えながら、私は一生懸命に彼女を諭した。そのお婆さんは怪しすぎるし、絶対にそのぬいぐるみこそが彼女を襲う不幸の根源である、と。ここまで怪しくて原因じゃなかったら詐欺だ、とまで言った。
すると、渋々ではあるが、七原はぬいぐるみを手放すことを了承した。頬を膨らませながら。
「もう、誰かに譲ればいいんでしょ? 気に入ってたのに~」
「呪いのぬいぐるみを譲んな、捨てろ! 燃やせ! 焚き上げろ!」
「ええ、かわいそうだよ! 誰か、代わりに可愛がってくれる人にもらってほしい!」
「そんな呪われた物、もらってくれる奴なんてどこにもいるんだ! いいや、いるわけない!」
「待って、二人とも。ひとり、心当たりがあるわよ、私」
それまで私たちの言い争いを静観していた先生は、そのすらりと長い脚を組みなおしながら、ひとつ、提案をした。
「聞いたことがあるのよ。この学校には呪いのぬいぐるみコレクターがいるって。ほら、うちの学校広すぎて、南館の三階の一部が使われてないでしょう? そこにいるって話よ。担任にはうまく言っておいてあげるから、あなたたち行ってみてみなさいな」
先生の助言を私は半信半疑、いや二信八疑くらいの気持ちで聞いていたが、他に採れる手段もない。私は七原を連れて南館の三階へと向かった。
*
私たちが通う学校は在校生数が年々少なくなっており、現在の在校生の数に対して校舎が不相応に広い。いくつか教室は余ってしまっており、南館三階など誰も立ち入らない。そのため、少し埃っぽい。
私たちはひとつひとつの教室を見ていく。目的の人物を見つけたのは、一番端の空き教室だった。
七原を背中に隠しながら、私は教室の扉を開ける。中には、教室に置かれたボロッちい机や椅子を山のように乱雑に積み上げ、それを背景として机に座る少女の姿だった。
彼女は左眼を包帯で隠している。それだけではない、右手首、左肘、両足にも法廷を巻いている。鎖のブレスレットを手首に巻き、手には丸い魔法陣のような落書きがされている。その姿にいろいろ言いたいことはあったが、それ以上に目を引いたのは教室中にちりばめるように置かれた、ぬいぐるみたちである。数は何十個、下手したら百に届くだろうか。それらは見た目が普通のもあれば、誰かが引き裂いたと思われるほどボロボロのものもある。
これまで呪い、なんて非科学的なものに縁がなかった私でも感じられる。これらはすべて、呪われている。
私は生唾を呑みながら、前方を見た。少女は私らの後輩にあたるはず。それはリボンの色が赤色であることがわかる。この学校では、リボンの色は学年別に配布されるのだ。
「あの~、呪いのぬいぐるみを集めてるのってあなた~?」
私の後ろから七原が尋ねる。すると、少女は口元を歪めた。癖っ毛を揺らしながら、腕を組む。
「ふっ。深淵なる業火に焼かれし右眼が疼く……」
「は?」
「混沌に満ちた地獄の門に至りし愚者の群れが迷い込んだか……」
「なんて?」
私たちを出迎えた少女は奇怪な言葉を使う魔女のような女だった。なにを言われているかわからず混乱する。会話が成り立つ気がしない。そんなことを感じた私に救いの手を差し伸べたのは七原だった。
「こんな散らかった所にいらっしゃい、だって~」
「わかるのか、七原!」
この時ほど、七原が頼もしく見えた日はない。普段はポヤポヤとして、詐欺に引っ掛かりそうで見ていられないあの七原が神々しくさえ思える。
「深淵を通じ、汚れた現世の闇を暴く。我の目に宿りしは魔を射抜く邪神。汝が香に隠した運命を我が下へ……」
「ワッツ? 邪心がなんて?」
「お茶の臭いがする呪いのぬいぐるみくださいって~」
「意外と話が早いな」
少女は一応スムーズな会話を試みているらしい。私は七原の鞄から件のぬいぐるみを取り出し、少女の前へと躍り出る。すると、少女は手を伸ばし、私からぬいぐるみを取り上げようとする。この時、私はぬいぐるみを高く持ち上げた。座っている少女が腕を伸ばそうとも届かない位置へ。彼女は驚きに目を開きつつ、今度は立ち上がり手を伸ばす。届かない。
「理に反した邪悪を感知! 悪意に満ち満ちた月夜の災禍から、縁は始まっている!」
「意味わかんない、いじわる! って言ってるよ、凛ちゃん」
「うるせぇ、回りくどい! ちょっと、渡す前に確認したいんだよ。あんた、どこでこのぬいぐるみのこと知った? 養護教諭からあんたの話聞いて、私たちここに直行してきたんだけど。誰にもぬいぐるみのこと話してないし……」
「すべてを見通す我が眼が深淵を――」
「いや、片方塞がれた目で何を見んだよ。てか、所属は? 何組?」
「我はどこにも囚われず――」
「言えません、だって」
「言えや!」
「い、一年五組!」
「うちの学校、四組までしかないだろうが!」
この学校に五組があったことなど、何年も前の話だ。今は各学年四組までしかない。その事実が示すことはひとつ。少女は回りくどい喋り方を止めたものの、自分の正体を語るつもりがまるでないのだ。
「まぁまぁ、凛ちゃん。別に教えたくないなら、無理に知らなくてもいいんじゃない?」
「バカ七原!」
「バカじゃないよ!」
「バカ七原、いいか! こんな呪いのぬいぐるみなんて後輩に押し付けんだぞ! 所属がわかってなきゃ、いざって時救助できないだろうが! 緊急連絡先くらい知っとかないとダメだろ!」
「あ、心配してたんだ~」
当たり前だ。こんな得体のしれないものを渡してどうなる。この少女の身も危うい。もしこの少女が巫女の恰好をして、「寺の娘なんです。お祓いはお任せください!」とか言ってくれたら、少しは安心したが。この少女には安心できる要素がない!
「わ、我、邪悪に馴染みものともせず――」
「ちゃんと喋れや!」
「わ、私呪いとか効かない! 死んだりとかしない! だから、ぬいぐるみちょうだい!」
自分でも煩わしくなったのか、少女はようやく普通に喋り出した。そして、それまでとは比べものにならないほど大きな跳躍をした。その身長からは考えられないほどのパフォーマンスに虚を突かれ、私は呪いのぬいぐるみを奪い取られた。
「素晴らしい!」
「みすぼらしい、の間違いだろ」
この少女のセンスは七原のものと同様に度し難い。私は恍惚の笑みを浮かべる少女の頭を掴んだ。
「ひっ!」
「おい、本当に大丈夫だろうな? 呪いのぬいぐるみなんて、なんで集めてんだよ」
「お、同じものを探してるから……。それに、悪いことばっかりじゃない。サボノル君はお水あげると髪が伸びて芸術的。春雄はいくら腕ちぎってもまた生えてくるから経済的」
「あ、見てみて凛ちゃん! このお猿のぬいぐるみ、すごい笑うよ!」
私が少女の意思を確かめている間、バカは猿のぬいぐるみと交流を深めていた。そいつは確かに笑っている。口元が裂けるのではないかと思われるほどに、ニイっと歪んだ口から、「ぎゃはははたがうあえがうはは!」とひどい笑い声が漏れている。ぞっと背筋が凍る感覚がして、私は「ひぃ」と声を出した後、急いで七原の手を掴んだ。
「私は二年三組の杉本凛! もう教室戻るけど、何かあったらすぐに言えよ! 責任持って駆けつけてやるから!」
そう言い残し、私は七原を引きずるようにして、そこから退散した。あそこはだめだ。人間が長期間いていい場所ではない。そう確信したのだ。
*
南館を出て、私たちの教室がある北館へと向かう。南館を抜けると、詰まっていた息がどっと喉から這い出て、重いため息と化した。中庭を突っ切る途中で、私は歩みを止めた。そして、その場でしゃがみ込む。
「むりむり! 怖い話とか無理!」
「凛ちゃん、よく頑張ったね~。怖いのダメなのに!」
しゃがみながら叫ぶ私の背中を、七原が優しい声をかけながらさする。私は振り返って、七原に抱き着いた。
「無理だよ、なんなんだよ、あいつ! 馬鹿なんじゃないのなにが呪いだ怖いだろうが!!」
「そっか、そっか、頑張った頑張った~」
頭を撫でる七原に身を任せ、それまでため込んでいた感情をぶちまけた。ひたすらこの世の怪異に対する罵詈雑言を浴びせていると、クラスメイトが通りがかった。いつの間にか休み時間になっていたらしい。
「なにやってんの、あんたたち。一時間目サボってさ」
「凛ちゃんがおばけ怖いって」
「別に怖くない! 怖くないけど、七原はなんで逆に怖くないんだ! 竹刀で殴れないんだぞ!」
「よくわかんないけど、あんたたちがなんで親友やってんのかはわかるわ。さっさと教室戻ってきなさいよ、スカート汚れるわよ」
中庭での座り込みの弊害を指摘し、クラスメイトは去っていった。彼女のいうことは正しい。私と七原は立ち上がって、改めて教室に向かうこととした。
しかし、歩きはじめた時、七原が奇妙なことを言い出した。
「でも、凛ちゃん。おばけは普通に触れるんだから、竹刀で殴るのもできるんじゃない?」
「は?? 触ったことねぇよ、おばけなんて」
「触ってたよ、さっき」
「???」
さわっていたよ、だと? 私がおばけに触っていた? 七原はなにを言っているのか、私にはさっぱりだった。
「呪いのぬいぐるみのこと言ってんの?」
「ううん、そうじゃなくて、コレクターの子」
「…………は?」
「足ちょっと透けてたんだよ~。あと、凛ちゃんからぬいぐるみ取った時、ちょっと浮いてたもん。凛ちゃん、気づかなかったの?」
七原の言葉に、すべてが繋がっていくように思えた。
少女は先生曰く、噂になるような人物であるが、かといってそれまで私がその話を聞いたことがなく、今ではない五組の所属を名乗る。呪いは効かないと豪語する。
なにより、「死なない」と宣言し、その身に合わない跳躍を見せた時、私は彼女の足元を見ていなかった。
「……ぱたんきゅー」
「凛ちゃん!?」
その後、私は七原その他クラスメイトによって保健室へ運ばれた。その日、私は部活動に参加することもできず、悪夢にうなされていた。まったくもって理不尽な一日だった。
*
女がひとり、夜の校舎を歩いている。その手には、不思議なぬいぐるみがひとつ。かわいらしい狸の見た目をしているが、満月の光に照らされると狐になるという。
女は南館、三階の角にある教室を開けた。中には、少女が楽しそうに呪われたぬいぐるみたちと戯れている。
「相変わらず、あんたはぬいぐるみが好きね」
「……岬も、ぬいぐるみしょっちゅう持ってくる」
「そうね。私も大概だわ」
女はタバコに火をつける。その様を、少女はしかめっ面で見ている。喫煙者に対する無言の抗議だ。
「わかってるわよ。でもほら、教師が校内でタバコなんて、この時にしかできないんだから。見逃してちょうだいな。それより、呪いのぬいぐるみ、一個提供してあげたでしょう。うちの教え子が持ってたやつ」
「あれは素敵なもの。感謝してる」
「いいのよ。あんたが成仏できるまで、やれることはやってあげる。あんたを殺した呪いのぬいぐるみなんて、本当に見つかるのか知らないけどさ」
タバコの煙を吐きながら、女は少女の隣、呪いのぬいぐるみが散らばった床へと躊躇なく座る。
「ま、親友だからね。あんたが死ぬ前からずっと」
女は笑う。少女はその笑顔を見て、「死因を探したいだけじゃない。かわいいとも思っている」としっかり訂正した。
呪いのぬいぐるみコレクター 葎屋敷 @Muguraya
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