ドラム式テディベア

Planet_Rana

★ドラム式テディベア


 ……ごわごわする。

 乾きあがりが、古いタオルみたいだった。


 想像力に乏しかったとか判断力に欠けていたとか、過去に関して後悔してもしたりないことというのは生きている限り後を絶たないものだ。


 立つ鳥後を濁さずというけれど大抵の出来事やそこで覚えた感情や感想はそれこそ禍根を残すことだってあるわけで、それが他者との関係性に影響を及ぼすに足る出来事であるならば、水に落ちた小石が波紋を作り出すと知っていながら波を作り出した者には、償うべき責任があるのだ。


 懐古でも憐憫でも構わないから、自らが原因で端を発した事件には何かしらの感情を抱きたいものじゃあないかと思う。私は今、凄く焦っているし凄く後悔しているし、凄く申し訳なかった。


 例えば私はあのフワフワとした柔らかい肌心地をこの手で憶えているし、もう忘れられそうにない。


 例えば私は最期の表情を覚えているが、まさかあのつぶらな瞳がかち割れて消失するとは思ってもいなかった。今後服を洗う度、からからと音が聞こえるたびに思い出すだろう。


 人が何かをやらかした場合、若しくは誰かしらに影響を与える現象のきっかけを己が担った場合、よっぽどの天然か鈍感でなければ本人が把握して、記憶しているものだと思うのだ。犯人が現場に戻るのと同じ理屈である。今回の場合は前者である上に己自身の事であるので深く深く反省する所存であります。


 短慮でした。浅慮でした。


 ちょっと汚れてきたからって考えも無しに洗濯機で回してしまって、しかも強く絞りすぎてしまって、ネットにも入れてなかったから原型がおおよそ歪んでしまって、ボタンの片目が割れて行方不明で、中身は絡んだフェルトみたいに変貌させてしまって……。


 ――こ。こんなことになるとは知らなかったんだ。


 ぬいぐるみを洗濯機に入れちゃいけない場合もあるということを、私は。知らなかったんだ!!


 まじで申し訳ない。私が悪かった。


 許しておくれ!!

 この通りだ!!


 ほんの少しの希望を抱いて、懇願する。


 精一杯の謝罪の後、下げていた顔をほんの少し上げると、歪んで片目が取れたクマのぬいぐるみと目が合った。


 見開いた瞳孔に、哀れなほどに取り乱した己の顔が反射する。


 絶望とは。

 お互いにこのような表情を言うのやも――。


『いや、そもそもクマは貴方の所有物ではなく娘ちゃんのものであるし、謝るならクマもそうだけど娘ちゃんに謝れという話だし、クマはクマで普通に痛かったから許さないクマよ。ほら、観念してクマになーれ、クマになーれ』

「しゃべったぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!? あ、えっ、ちょっとまって、クマになるくまになるくまになるくまああああああぁぁぁぁ……!!」


 ぼく、クマぁ!!





 後日、とある男性の失踪届が出された。


 男性の行方は知れないが、失踪当日に帰宅した家族の証言によれば、何故か部屋のクマがひとつ増えていたらしいとか。そんな話である。





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