お金のかかる私たち

しほ

 お金のかかる私たち



 私とみーちゃんはとっても仲良し。


 皆には二人とも人気あるし、ライバル同士なんて言われてる。実際そうなのかもしれないけれど、『良きライバル』って言うのがぴったりなんだろう。


 お隣さんだしね!


 実は彼女、最近気になっている男子がいるらしい。近頃よく私たちの前に現れる、赤いリュックに白い腕時計をつけた子だ。


 実はみーちゃんには内緒にしてるけど、私も彼が気になってしょうがない。


 キラキラした瞳に無邪気な笑顔。これがたまらないのだ。


「はぁ~」


 気を抜いた瞬間、ため息が漏れてしまった。


 それを聞き逃すようなみーちゃんではない。急いで私は作り笑いをしたけれど、やっぱりバレていた。


「花ちゃん、最近どうしたの? 恋煩いかしら?」


 姉御肌のみーちゃんには隠し事が出来ない。でもよりにもよって同じ人を好きになったなんて……、やっぱり言えない。


 一週間が経った。久しぶりに赤いリュックの彼が現れた。


 名前はしゅんた君。


 話したことはないけれど、友達に呼ばれていたから覚えてしまった。今日も友達と連れ立って私たちの前を通り過ぎた。あぁ……、また私のこと無視して行っちゃうのかな。悲しくて胸の辺りがキュッとなった。


 いや、まてまて、通り過ぎてない。


 一瞬だけど足を止め、こちらの方を見ると微笑んだのだ。そしてあろうことか


「後から来るね」


 そう言ったのだ。その一言が何度も何度もこだまする。


 私のどこにあるか分からない心臓か震え上がった。


「ねぇ、み―ちゃん……」


 私はこの喜びをみーちゃんに伝えようと短い首を思い切り曲げた。しかし、直ぐに私の声は尻すぼみとなった。


 だってみーちゃんも頬を赤く染め、ぽーっとなっている。しゅんた君の微笑みはどちらに対してだったの? やっぱりみーちゃんは私のライバルだ!


「早く痩せなくっちゃ」


 みーちゃんはスレンダーボディでセクシー系。私はふっくらボディで、癒し系。でも今回はしゅんた君の技術では私をゲットするのは難しい。


 しゅんた君が来る前に私の体の綿を少しでも縮めて小さくしなくては!


 私の体はアルミのバー二本の上に横向きに置かれている。お腹が出ているので体を縦にしなければしゅんた君の元には行けない。何としても彼のおこずかいが無くなる前にここから脱出しなければ!


 色々策を練っているうちに、しゅんた君が友達と連れ立って私たちの前にやって来た。そして、みーちゃんの前ではなく私の前に立ち、財布を開いた。


「しゅんた、お前こういうのが趣味なの?」


「別にいいじゃん、俺ブタが好きなんだ」


 私はみーちゃんの顔が見れなかった。だって私は告白されたようなものだから。猫のみーちゃんはセクシーなポーズで私にウィンクした。

 

 しゅんた君が百円を入れるたびに私の体を正面・左右と、あらゆる角度でジロジロ見てくる。あぁ、恥ずかしい。ガラス越しでこんな目に合うのは慣れていたはずなのに、しゅんた君だけは別だった。


 二百円、三百円とお金を入れる度に、しゅんた君が操作するアームは私の体をかすめていく。


「もう少し、もう少しよ! アームを私のお尻の辺りに持って来て!」


 今回はうまくいきそうだった。私のふっくらボディが持ち上がった。子どもたちの視線が私に釘付けとなる。


 今回はかなりいい。


 アームが私の体から外れた。


 私は頭からアルミのバーに向かって落ちていく。


 いつもここまでは行ける。


 問題はこの後、お腹がつかえてしまうのだ。


 私は祈るような顔のしゅんた君を見た。


「絶対にあなたの元へ行くわー!」


 私は極限までお腹をへこませた。


「ボフッ!」


 商品受け取り口に私は落ちた。


「やった! 子豚の花ちゃんゲット」


 しゅんた君が大声で叫んだ。私は気が付くとしゅんた君の小脇に抱えられていた。


「しゅんたよかったな」


 友だちが騒いでいる。


「今日から一緒に寝ようね」


 小五のしゅんたは子豚のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

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お金のかかる私たち しほ @sihoho

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