第9話 出会いは突然に
シヴと名乗った男をじっと見て今日の昼頃この雑貨屋を訪れたときのことを思い出す。ガンさんに色々教えてもらってるときいたようないなかったような……ってそんな細けえこといちいち覚えてねえって。最悪ここで会ったか会ってないかはどうでもいいわ。
「なんでそれだけで俺をパーティーに誘おうと思ったんだ?」
「今言ったように考える能力があるやつだと思ったからだな!俺も店にいて店長さんの話を商品見ながら聞いてたわけよ。でもさ、別に何か感じたことはなかったんだよな。だけどお前は違った。たったあれだけの話の中からいくつも引っ掛かりを覚えて、自分なりに解釈もしたんだ。俺はすごいことだと思ったね!そこまで深く考えずに動く俺には絶対出来ないことだ!そんでそれが冒険者として大切なことも分かる!だから誘ったんだ。自分に出来ないことをやってのけるやつを勧誘するのはそんなにおかしいことでもないだろ?」
ちょっと考えてただけでめっちゃ誉めてくれるじゃんコイツ。そうやって俺の機嫌を良くしようったってそうはいかねえ……いいや、とりあえずお互いを知ることから始めよう。話はそれからだわ。
「先に自己紹介させてもらうな。俺はアズマ。武器は籠手、魔法は金属魔法を使う。シヴは何を使うんだ?」
「俺は……よいしょっと、この大盾と激流魔法っていう魔法を使うぜ。」
「ほう……?」
シヴはそう言うと自分の身の丈ほどもある大きな盾を召還する。シヴの身長は180センチを超えてそうだから盾は170センチくらいあるなこれ。あとガンさんは大盾が出てきた瞬間目を見張るようにして見てたからこういう系の武器とか好きなのかもしれん。
「おっとっとっと!まだ固定できないな。」
大盾が倒れそうになり慌ててシヴが力を入れて引っ張るも完全に起こすことができない。結局傾いたまま大盾を送還してしまった。
「あの大盾、持てないのか?」
「そう!困ったもんだよな!トレーニングなんてしてないから急にあんなでっかい盾貰っても持てないって!まず俺元々魔法使って戦う予定だったんだぜ!?」
俺は予定だったという部分を聞いて先ほどのシヴの自己紹介を思い出す。確か激流魔法という魔法を使うんだったよな。これは戦闘には使えないってことか?
「なんで始めから魔法で戦う気だったんだよ。いい武器が貰える可能性だってあったろうに。それに今は魔法使って戦うことすらできないのか?」
「俺、生まれつき魔力がめちゃくちゃ多かったんだよ。父さんと母さんが魔法使いだったから魔法についてしっかり勉強してさ。だから俺も貰った魔法を上手く使ってやっていくつもりだったんだよ、魔法は使い手次第で大きく変わるって言うだろ?なのに!いざ祝福を貰ったら持てもしないような大盾に攻撃に向いてすらない特・化・型・魔・法・!だから一人じゃほぼ戦えねえ!戦えてもゴブリンくらいだよ!」
「だいぶ使い辛い組み合わせ引いたんだなお前……。」
ぶつけようのない怒りを押し殺すように俯くシヴに同情して言葉をかけるガンさん。
……だいたいシヴの状況は分かった。ガンさんの反応からしても珍しいことはあれど滅多にないというほどじゃないのかもしれない。シヴは最初から魔力が多くて期待が高かったからよりショックは大きいんだろうな……。
でもシヴの話の中で俺にとっておかしい点がある。そこに関して俺の知識が合っているならシヴは戦えるはずなんだ。
「攻撃に向いてない特化型魔法って何すか?攻撃に向いているから特化型魔法なんじゃないんですか?」
俺はサラさんからそう教えてもらった。攻撃も生活に使えるような魔法も全部万能的に自由に使えるのが通常型で、攻撃に特化していて威力のある魔法が特化型だって。
ガンさんにそう聞くと少しきょとんとした後答えが帰ってきた。
「あ~アズマ、そりゃーよくある勘違い、いや勘違いってほどでもねえか。まあ、とりあえず特化型魔法の全部が攻撃に関係するってのは間違いなんだ。魔法は人がイメージすることで形になるっていうのは知ってるよな?」
「知ってます。」
「その形が限りなく限定される魔法ってのが特化型魔法なんだよ。シヴは水系統の魔法だから通常型なら水を出したり、操ったり、形を作って攻撃するなんてのもあるかもしれん。でもシヴの激流魔法なら名前からして水流を作るってのが主になる感じだと思うぞ。」
「さすが店長さん、その通りっす。俺の魔法は人を運べるほどの水流を生み出す、それだけの魔法っすね。」
「なるほど……その水流で攻撃できたりは……しないのか。」
「水系統以外なら特化型なら攻撃に使えるんだけど水系統は水を放つ勢いが本当に弱くて特化型になってやっと安定して人を運べるくらいなんだよ。そして大量に水を生成しようとしたらとんでもない量の魔力持っていかれるし。だから相手に攻撃して倒すほどの衝撃は与えられないね。」
なるほど……水魔法に限って何かに特化しても相手を負傷させることが難しいわけか。その点通常型はかなり便利そうではあるが。
「水系統の魔法って弱いんだよね……。だからこの魔法を上手く使って作戦とか立ててくれそうなやつを見つけたから勧誘したってわけよ。」
話一周したな。シヴの話を聞く限りでは魔法そのものを攻撃に使わなくても移動させる魔法ってだけで強い気はするんだ。実戦で使ってみないと分からんけど意外と連携の起点に出来るか……?
「ま、俺から言えることは水系統はシヴが思ってるほど弱くないってことだな。俺の知ってる水の魔法使いは通常型だったがとんでもなく強かったぞ。俺のパーティー全員を一人で相手するレベルでな。」
突然ガンさんの口から衝撃の言葉が出てきた。
「え?ガンさん冒険者なの?」
「え?マジで!?」
「その辺の話は今はいい。それより今はお前らがパーティーとしてどうかの話だろ。どうだアズマ、お前の頭ならある程度シヴの魔法の使い方が思いついたと思うんだが。」
ガンさんがカウンター越しにニヤニヤしながらそう聞いてくる。
「実戦やってみてどれほど融通の聞く魔法なのかを確かめたいっすね。とりあえずシヴ、今までどうやって冒険者やってきた?」
「基本は盾構えて水流で背中押して突撃だな。激流魔法は人が水流に飲み込まれないようにするくらいはできるから、盾を持って移動するときは水流でしてる。あと盾を横に向けて勢いそのまま切るのも一応できる。」
「めちゃくちゃ攻撃してんじゃねえか。」
何が攻撃方法がねえだよ。
「でもゴブリンまでだって通用するのは!囲まれたら終わるんだよ!」
「分かった分かった。でも俺の戦い方が籠手を使った近接型だから盾を持った近接型のシヴと相性がいいとは限らないぞ?」
「あれ?そうなんか?まあ、そこら辺はアズマに任せるわ!俺分かんねえし!」
全部俺任せかい……まあいいや、こいつ感覚派っぽいし連携とか相性の良し悪しは俺が考えよう。そうなると明日には一度一緒にダンジョンに潜っておきたいな。
「なあシヴ、今日はもうこれから潜るような時間じゃないから明日くらいから試しに潜ってみようと思うけど予定どうなってる?」
「あ、空いてるぜ。いつでも大丈夫だ!」
シヴは手を伸ばしてサムズアップをしている。あの調子なら二人で潜るのに緊張したりすることもないだろう。そこら辺の配慮をしなくて良さそうなのはありがたいな。
「じゃあ明日で……時間は朝の八時にここの前集合でどうだ?」
「それでいいぜ!なら今日は解散するか!また明日な!」
シヴはそれだけ言い残すと風のように去って行った。
「……嵐のようなやつだったな。」
制御できるか心配なんだけど。
「どうだ?第一印象としては?」
「勢いのある人だなとは思ってます。そこが慎重派の俺と合うか合わないかはやってみて探る感じになりそうっすね。ガンさんはどうっすか?俺たちを見て。合いそうだと思ったっすか?」
これはガンさんに聞いても仕方のないことかもしれない。でもなぜか今このことをガンさんに聞いた方がいい気がした。
「……それは俺の個人的な感情とかも入れての話か?」
「……?はい、じゃあそれで。」
「なら俺はお前たちは絶対にパーティーを組むべきだと思う。」
ガンさんは俺の目を真っ直ぐ見つめながらそう言い切った。
「マジか、どの辺でそう思ったんすか?」
「大した理由はねえ。ただ俺の目の前でお前とシヴが出会ったことに大きな意味があると思っただけだ。」
「俺とシヴが……」
そんなに大きな意味があることには思えなかったけど何かガンさんにだけ分かることでもあるんだろうか。
「ほら、質問には答えてやったろ、明日早いんだし今日はもう帰んな。」
「うん、そうする。」
「あ、それとアズマ。」
「ん、なんだ?」
「まだときどき敬語が抜けきってないことがあるがそれくらいなら舐められて変なトラブルに巻き込まれることもないだろ。その調子で頑張れ。じゃあな。」
「おう、ありがとう。それじゃあ。」
雑貨屋を出て宿へと帰るが見える景色がいつもと違うように見える。雑貨屋を出てから足取りが軽いように感じるのは気のせいだろうか。もしそうだとしたらシヴと出会ったからか?仮にとはいえパーティーを組んだからか?その後のガンさんとの会話に嬉しいことがいくつもあったからか?
少なくとも今日も良いことがあったことには違いない。でもこれからは今日よりももっと楽しい時間を過ごしていける気がした。
果てぬ戦場の物語 たぴぴ @tapyopixi
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