異世界の仕事人は空気を読むのが得意です(少しだけ続きます)

どこかのサトウ

彼女の気持ち

 ロディがこうなると長い。中で本でも読んでいるのかと思えるほどで、しばらくは出てこないだろう。


 暇ができたマーリィはベアールを抱きしめた。


 彼女は代々騎士の家系の生まれ。マーリィも女性でありながらその責務を全うしている。


 この国の騎士は気性が荒く、そんな周囲で育った彼女の性格は、同じ伯爵令嬢からすれば野蛮の一言に尽きる。


 だが近衛騎士団に所属する彼女は、非常に高い教養を身につけている。そのため世間では騎士とはこうあるべきと理想の騎士にされ、民から大変な人気を集めている。


 だが彼女はそのことにウンザリしている。私も女だ。可愛いものを可愛いと言いたい。そしてなにより——


「はぁ、ベアール。まただ。私がいるとロディは席を外してしまう。私は迷惑なのだろうか?」


 ベアールに話しかけるが、当然その返事は返ってこない。


「だが彼は私に好意的だ。一人の女性として扱ってくれる。ベアール、聞いて驚いてくれるなよ? 彼ぐらいなのだよ。私を女性として見てくれるのは」


 同僚からはガサツな男女、同性からは理想の騎士様だ。


「そうだ、聞いてくれ、ベアール! この前、親が用意した見合い相手から断りの返事がきたぞ。私よりも素敵な男性が見つかると良いですね、だ。自分より強い相手が嫌なだけだろう!」


 彼女は悔しさでぎゅっと力が入ってしまった。ベアールが形崩れを起こす。周囲の瞳が恐怖の色で染まった。


「……やはり身分だろうか?」


 傷ひとつない軽鎧を身につけ、剣を佩いた近衛騎士。片や城下町でぬいぐるみ屋を営む裁縫職人の平民だ。どう足掻いても恋愛話には発展しそうにない。


 だが彼女は思う。足繁く通っているのだから恋愛対象として意識して欲しいと。


「ロディの朴念仁!」


 恨みを晴らさんとマーリィのボディーブローがベアールに炸裂する。その口元から何かが飛び出しそうだ。


 ベアールは願った。早く出てきてくたさい。ご主人と。

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異世界の仕事人は空気を読むのが得意です(少しだけ続きます) どこかのサトウ @sahiri

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