『ザッピング・ライフ』

小田舵木

『ザッピング・ライフ』

 君の存在の連続性を担保するのは―君自身な訳だけど。

 本当に日々は連続してると思うかい?

 僕は最近その感覚が危うい。


 『世界五分前仮説』ってのがあるだろう?この世界は君を含め全てが五分前に出来た、さあ、反論出来るかい?ってアレさ。

 僕ね。アレに批判的な見解を付せないんだ。

 感覚としてはトラルファマドール星人に捕まったビリー・ピルグリムに近いかな。

 全人生をテレビのチャンネルみたいにザッピングしてる感覚。

 こうさっと―


                ◆


 幼少期に飛んでしまう。

 そこでは僕が青鼻あおはな垂らして―酸素不足な脳を回転させてない。

 コレを見るたび憂鬱になる訳だが―何処か安心してしまうのは何だろうね?

 暖かなモノに包まれ、コレで良いと掛け値なしに思ってしまう。

 だが。そういう時間は長続きしない。

 こうさっと―


                ◆


 青年期の独り暮らしにひとっ飛び。

 慢性青鼻は思春期はいる前に治したけどさ。風邪引くと出るわ出るわ。

 僕の体内の白血球が戦った証拠であれど…汚い。鼻かんだ後のテイッシュを眺める癖。何時ついてしまったんだろうか。

 しかし。

 独り暮らしの風邪は効くねえ。抜群に寂しい。

 誰かおろし林檎を持ってきてくれよ。

 こうさっと―


                 ◆


 おろし林檎を持った僕が青鼻垂らした息子くんに、

「コレくらいは食べろよ」なんて言っている。

 子育ての風邪も存外に効く。

 明日は僕がくだばっててもおかしくない。

 こうさっと―


                 ◆


「じいちゃん…林檎位食べろよ…死ぬぜ?」と孫くんの登場。

 あっと言う間にご老体。

 軋む体。咳が全身をノックする苦しみ…

 こうさっと―


                 ◆


 かくして。

 僕の棺には林檎が収められていて。

 まあ、好物ではあったが…冥土まで持っていくほどでもない。

 こうさっと―


                 ◆


 僕はPCのディスプレイの前で林檎を齧りながら、軽いスケッチを描く。

 またたく間に人生を巡りきり。

 人生の薄っぺらさに気付くね。

 だけどまあ。この赤い実の甘みが微かに僕を繋げている。

 それで良いじゃない?

 

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『ザッピング・ライフ』 小田舵木 @odakajiki

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