この想いを貴女に

あれから数年がたった。

貴女はあれから来ていない。

僕には変化があったんだ。

貴女が作品を購入していった日の次の日だ。

僕の作品を見初めてくれた人がいた。

その人が僕のスポンサーとなり個展を開くまで僕は成長した。

話がトントン拍子で進みあの公園の道には散歩でいくぐらいにしか行けていない。

当然貴女は見つけられないし、僕のもとに来てもいない。

本当に偶然だったのだと思う。

やっと見つけた光はもう既に失いそうだ。

明日にはそのスポンサーの社長のご令嬢とのお見合いがある。

貴女に想いを伝えられる最後の日が今日なのだ。

どうしても貴女に想いを伝えたかった。

お見合いを断るわけにはいかない理由もあった。

だから僕はこの想いに蓋をしよう。

そうすればもう貴女を想うことはなくなるだろうから。

これでこの道を通るのは最後になるだろう。

貴女との思い出に浸れるのも。


あぁ、名も知らない貴女。

本当に偶然だったのだと、作品を見込んで買ってくれた貴女はもう2度と見れないのだと自覚せねばならない。

ありがとう。もう行かねば。





───────


僕はスーツをきて、所謂高級料理店に1人でいた。

後からご令嬢と行くと社長が言っていた。

高級料理店の雰囲気に僕は畏縮していた。

数年前まではあり得ないことだったから。

感覚もついていけていない。

そんな時だった。


「こちらでございます」


と女将さんが案内してきたような声が聞こえ扉を開く。

社長が目の前に座り、その横に赤やオレンジといった色の着物をきている社長のご令嬢だろうという人も座った。

目の隅でとらえられた特徴というのもこれくらいだ。

顔を見られない。それほどまでに畏縮していたのだ。


「突然だが君の作品を最初に見込んだのは俺じゃなくてこの俺の娘だ」 


社長の言葉に何を言っているのか困惑と吃驚し、顔をあげるとそこにいたのはあれから見かけることがなくなった貴女だった。

顔も耳も真っ赤だ。

気持ちに蓋をしようと昨日決意したのにその決意があっという間にほどけていく。


「ではあとは若いお二人で」


社長が部屋を出ていく。

待ってくれ、こんなことがあって良いのか。

想いを告げても許されるのか。

もう我慢しなくてもいいのか。

あぁ





『好きです』





やっと伝えられた。


貴女の目が僕をとらえた。


もう逃がさない。



僕の想いを受け取って





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この想いを貴女に 結煇 @yuzuki6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ