貴方を見かけたのは

貴方を見かけたのはもう数ヵ月前のことだった。

1人ポツンと白い何かを切っては色をつけ飾る。

色をつけているときはストリートパフォーマーのようになっているけれども人が余り寄り付いているように見えない。

けれど貴方なりに綺麗に色をつけ、飾る。満足そうな表情を浮かべているのを見ると此方の気持ちも嬉しくなる。

私は所謂人見知りというものだ。

だからこうやって1人で名前も知らない貴方を眺めているだけで満足になってしまうのだ。

心が満たされた気がした。

でも貴方が毎日夕方ごろになると残念そうな表情を浮かべて片付けていくのをみて私はなんとも言えないような気持ちになった。

だから今日は貴方の作品を買おうと思う。

私は貴方と貴方の作品がとても好きなのだと。

そう言えるように。


私が話かけると貴方は少し目を見開いたように思えた。

私が買おうと思ったのは貴方がここに来てから初めてつくったものだ。

知っている。貴方がこの作品を丹精込めてつくっていたこと。

貴方の作品を制作する風景を見ていたから。


「こちらこそありがとうございます」


この言葉が私には精一杯だ。

貴方が毎日ここにいるのを知っている。

貴方が楽しそうに作品をつくって完成したときの満足そうな顔に心を満たしているような女だ。

貴方はまた来てほしいというけれどその勇気は私には眩しい。

でも好きな人には貴方には綺麗な私を見せたいからまた是非と言ってしまった。

あぁ、逃げられない。

好きだと自覚してしまったのだから。

名も知らない貴方に好意を抱いてしまった。

もう私は逃げられない。

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