陰謀うずまくファンシーショップ
exa(疋田あたる)
第1話
とあるファンシーショップにて。
その日、入荷されたばかりのアニマルキーホルダー二体は、別々のコーナーに並べられていた。
『こちらクロネコ、こちらクロネコ。どこに置かれてんだ、シバイヌ? どうぞ』
一体のアニマルキーホルダー、クロネコ(サバゲー仕様)は、肩に縫い付けられたトランシーバーで、もう一体に呼びかけた。
『こちらシバイヌです! えっと、まわりはみんな犬型のぬいぐるみばっかりです。どうぞ!』
姿の見えないシバイヌ(警備員仕様)の答えを聞いて、クロネコはむっとする。
『ここの店員はぼんくらだ。俺たちは隣同士に並べられるべきなのに。イヌ、ネコの違いで分けて置くなんて』
『そっ! そうですよね! クロネコさんが隣にいないとさみしいのに』
シバイヌの声にクロネコはあわてた。
『シリーズものだからだ! 別にさみしくなんかない!』
ぴしゃり、言われたシバイヌの『クゥ〜ン』とさみしげな声がトランシーバーから聞こえて、クロネコはせき払いした。
『とにかく! 俺たちは隣に並んでるべきなんだ』
『そ、そうですよね!』
『そのためには、俺とお前が同じやつに買ってもらう必要がある』
『そうですね!』
元気よく答えたシバイヌの声に、キラキラした目を思い出しながらクロネコが続けようとしたとき。
クロネコの上に影が落ちた。
「……このネコさん、宮くんみたい」
つぶやいた女の子が、やさしい手つきでクロネコを包み込む。
『や、やめろやめろ! 俺はお前に買われるわけにはいかないんだ!』
クロネコが叫ぶけれど、ひとにぬいぐるみの声は届かない。
そのとき。
『わわわ! ダメです、お兄さん! ダメです! 私はクロネコさんといっしょにいたいから、あなたに買われちゃダメなんですー!』
トランシーバー越しにシバイヌの声が聞こえて、クロネコは絶望した。
『そんな……俺たち、バラバラに買われるなんて』
『クロネコさぁん……』
シバイヌの泣きそうな声に、とぼけた顔が思い浮かんでクロネコも泣きたくなった。
けれど。
「宮くん!」
「なんだ、市田か」
クロネコを抱えた女の子と、レジ前でばったり会ったのは黒髪でちょっと目つきの鋭い男の子。
そしてその手に握られているとぼけた顔のキーホルダーは。
『シバイヌ!』
『クロネコさん!』
お互いの姿を見つけて、クロネコは猫をかぶるのも忘れて大喜び。シバイヌはそんなことにも気づかず、うれしさを隠しもしていない。
そんな二匹の頭上では、女の子と男の子がそわそわ言葉をかわしている。
「み、宮さんは犬派なんですか」
「別に。お前こそ猫がいいのかよ」
「わ、私はその、このぬいぐるみが宮さんに似てるな、って思って……」
「……俺もだよ。間抜けな顔が市田に似てる気がして、つい」
ぼそぼそ、もごもご。
顔を赤くしながら話す声がまるっと聞こえていた店員は、にっこにこの笑顔でレジに立つ。
「お買い上げ、ありがとうございま〜す!」
陰謀うずまくファンシーショップ exa(疋田あたる) @exa34507319
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます